丘の上
街から少し離れた小高い丘の上。夜空を焦がし続ける街を見下ろす。
辺りには人の気配も無く、二人で炎を見つめている。
「……行きましょうか」
由宇が街に背を向ける。
ボクは掛ける言葉が見つからずに歩き出していく由宇の背中を見つめる。
「しかし、隣町のやつ等。助けにも来なかったな」
沈黙に耐え切れないボクの心が口を動かす。
「この辺り、一体が襲わたんだと思います」
「なるほど。他に構ってる余裕はないって事か」
それほど大規模な事が出来るならあの統率にも納得。
「おそらくは」
「政府は?」
「跋維党はこの国『楽』全体に広がってますからね。一地方に構ってられないんでしょう」
その声には、政府に対する侮蔑と諦めが感じられた。
と、同時にその白璧党ってのはかなり大規模な組織だと知った。
「じゃ、夕音に行くまでにも」
「戦いはありそうですね」
当然ボクは車を持っていない。それは由宇も同じだった。
街には何台かあったがボクは乗れない。由宇に聞いたら「乗れない」と言っていた。
だから、ボク達の移動手段は徒歩になる。
自転車があり乗っていこうとしたら由宇が、
「駄目ですよ」
と、冷たい目で言われたので、
「冗談だよ」
と、目を逸らしつつ乗りかけた自転車から降りた。
歩き出したボク達の目の前に一人の男が立ち塞がる。
長身、夜に映える白いコート。盗賊にはもったいない男前。
ボクは由宇の前に立つ。
白い槍を携え、まっすぐにこっちを見据えて立っている。
跋維党だなんて御大層な名前を使っているがやっている事は盗賊と一緒だ。
そんなやつ等の仲間にしては勇敢だな。コイツがホントのリーダーか。
「何者か?」
すっと槍を構える。
「そっちは?」
ボクも構える。
距離は十歩。
空気が張り詰める。街に居た盗賊達とは格が違う。
これは、ボクも気合を入れないと。
スッと腰を落とし、ボクから仕掛ける。
踏み込む音さえ聞こえずに突き出される槍を右に避ける。
右手で槍の軌道を変えて、踏み込む。
「ふっ」
反転して盾の一撃。
なんの感触もなく振りぬかれた左手。
しゃがんだ相手が下から突き上げてくる。
空中で強引に後ろに反り返る。
足で相手を押して、間合いを開ける。
時間を掛けるとコイツの仲間が来るしな。
しょうがないな。再び構える。
違うのは箒星を起動した事。
「ん?」
輝く箒星を見つめる男。
視線が箒星に集中した。
その隙を逃さず、間合いを詰める。
突き出すが、さっきより速くない。
その切っ先を避け、一歩踏み込んで箒星で槍を押さえ更に踏み込む。
槍の柄の上を滑る箒星。
ボクの間合いに届く直後に、男も体勢を直し槍を払う。
しゃがんで避け足を払う。
後ろに飛んで避ける男。
払われた槍、一歩飛んで更に下がる。
ボクは左腕を構え、
「飛べ! 箒星!」
ボクの言葉に反応して箒星がまっすぐ男に向かって飛んで行く。
「……!?」
驚く男。
槍で払おうとするが、箒星はそれを避け男に向かう。
箒星を避け、体勢を直してボクに向き合う。
が、ボクは男に追いついた。
男に一撃食らわして、追い討ちをかける。
「ま」
何か言おうとしているが、聞く訳がない。
男の後ろから箒星が飛来する。そして、直撃。
「さて、行こうか」
隠れていた由宇に声を掛ける。