夕音激走
結果オーライ、と考えよう。
追ってくる兵を時折振り返って倒しつつ街を駆け巡る。
理緒に出会いません様に。
それだけが心配だ。
同じ所をぐるぐると回っている。と、
「うおっ!」
回り込まれた!?
引き金を引かれる前に、箒星に意識を集める。
輝きを増し、ボクの体を覆うほどまで大きな光となる。
通りに響く銃声。弾丸はまっすぐにボクに向かってくる。
箒星を前面に押し出す。
弾丸は光に触れた瞬間に地に落ちる。
驚く兵を一人二人と殴り飛ばし蹴倒して突破する。
はぁ……はぁ……。
流石に……疲れた。
四方に道が伸びている人気のない細い通りに入って壁にもたれて座り込む。
ここなら例え見つかっても逃げ道はある。
そういえばボク達以外の侵入者はどうなったんだろうか?
そっちも兵を回しているのだろうか?
でなければ向こうはなんの苦労もしないで目的を達しているかもしれない。
そう考えると、なんとなく腹が立ってきた。
こうなったらボクが見つけてやろうか。
「ふぅ」
息を整えて立ち上がる。
「よし」
見つかる前に見つけてやる。
堂々と走り回っていた先程とは違って、今は物陰からこそこそと街を探索する。
おそらくそいつは兵とは違う格好をしているはず。
そして、目指す方向は遠く聞こえる乾いた音。
近づいている事を実感するのは、金属の打ち合う音と銃声と悲鳴。
それらははっきりと聞こえる。
交差点から人が飛んできた。
足を止め、息を吸って……深く吐く。
倒れた兵士達の中に悠然と立っている女。
ぴったりとした服を着ていて、足にはすらりとスリットがかなり深いトコまで入っている。
いわゆるチャイナドレス。もう、女といわんばかりの体型。なんとなく悔しいのは何故だ?
いや、そんな事よりも女の手には剣が握られていてそれが淡く輝いている。
仙具!
仙士が何故ここに居るのか、は知らないし興味が無い。
「さて、もう一方に兵隊さんを押し付けようかな」
考える事も同じか。
「それはボクが頼みに来たんだ」
さっと姿を表す。
「あら。そちらから来てくれるなんて」
微笑む顔がボクから見ても綺麗だ。
「仙士がこの街になんの用があるの?」
「ちょっと会わなきゃならない奴がいてね」
剣を構えることはないが、収める気も無さそうだ。
切っ先は地に向いているが、いつこっちに向いてもおかしくない。
「その盾。ボクも仙士?」
かちん。
女は嬉しそうに笑っている。
ワザとかぁ……そうかぁ……そうなのかぁ。
切れそうになる感情を押し止める。
「どこ?」
「それはそっちから言いなよ」
唇を舐める仕草にドキッとした。
「それもそうね。仙士同士。意味の無い問答はしたくないわね。私は冥仙の『歩来』こっちにはさっきも言った通り仙士を探しに来たの」
冥仙ならこっちも聞きたい事が増える。
「で、キミは?」
名乗らないという選択も出来たが、
「ボクは風仙の史紀」
「なんでここに?」
「なんとなく。ではダメか」
答える気は無い。聞きたい事があるのはボクも同じだ。
「そう。じゃ史紀ちゃん、私はこれで」
立ち去ろうとする女に向かって、
「ちょっと待て。聞きたい事がある。才蔵を知っているか?」
「どちらの?」
振り返る女の雰囲気が変わった。
どうやら探している仙士は才蔵達か。
「知っているのなら教え」
ボクが言い終わる前に女は剣を構えて、
「何処に居るのか教えなさいっ!」
打ち込んできた!
言い終わると同時に腕に衝撃が!!