潜入
夕音の街まで後三十分ほどの距離で車を止める。
車内でどうやってあの男と会うのか、打ち合わせを行う。
「で、どうやって会うの?」
「とりあえず、侵入という形で」
「それは見つかった時ヤバイだろう」
「その時は笑って誤魔化す方向で」
「無理があると思う」
「じゃ、どうしましょう?」
「逆に正面から行けばなんとかなるんじゃない?」
「そっちの方がヤバくないですか?」
「こそこそ行って見つかれば話どころじゃないでしょ」
「それは……そうですけど。仮に、仮にですよ? 正面から行ってダメって言われたらどうします?」
腕組みをして……。
「それはダメでしょう。そっちの方がよりダメでしょう」
握った拳はダメらしい。
まぁ、ボクもそう思っていたから……悔しくは無い。それほど。
「見つかったら言い訳なんて出来ないでしょ。だったら」
再び握る拳を。優しく下げられる。
「なんでも力で解決するのは間違ってると思いますよ」
お腹が空いたからと泣いて奢らせるのとどう違うのだろうか?
「あ。観光の振りをして行けば入れるんじゃないでしょうか?」
頭の上にピカッと何かが光ったのか、ぽん、と手を叩いて嬉しそうに閃きを語る。
「無理だろう。戦争中に観光者する奴なんていないだろう」
「う」
沈黙の車内。
とりあえず、出た結論は、
「門まで行ってどうにかしよう」
だった。
なんて無駄な時間を過ごしたのだろうか……。
前は闇に紛れて忍び込んだから分からなかったが、他の都市とは違い飾り立てられた門。
理緒の話によれば、以前はここが首都だったらしい。
その時の王の威厳、国の威信を誇る為に装飾や高い城壁を建築したそうだ。
偉そうに語っていたがどうせパンフが情報源だろう。
その証拠にそれだけで知識の披露は終わった。
誇らしく語った割にはなんて浅い説明だ。
誇らしくしている理緒。微笑ましくも微かに涙が浮かんでくる。
それを理緒に見られる訳にはいかない。
そっと顔を背けて浮かんだ涙を拭う。
当たり前だが城門には多数の兵がある。
夜なら闇に紛れて入り込めるかもしれないが、残念ながら今は昼。
夜までここでうろうろしていてた兵達の警戒を高めるだけだ。
さてどうしようか?
来たのはいいが、何も浮かばない。
こうなったら正面突破しかないだろう。
「理緒。行くぞ」
「あ。はい」
箒星を装着して、
「え、あ、ちょっと!!」
理緒の声に衛兵達はボク達を見る。
「バカ! 声が大きい!!」
先手必勝。
箒星を放って衛兵を倒す。
一人、詰めて二人。
詰め所から出てくるのをドアごと蹴倒して三人、四人。
そのまま、門を駆け抜けて市街地へと入る。