夕音の夜
夕音の街にも夕暮れは訪れる。
先の大敗も我等にとっては一敗。
「とはいかんな」
赤く染まる街を眺めながら呟く。
とりあえず、園典と湯狭の連携に気を付けつつ機会を狙うのが得策か。
全体的な兵数では勝っているが、こちらの大半は政府に追われている盗賊が占めている。
奴等には規律も統制も取れない。利のある方へとなびいて行く。
跋維党への風当たりが強いのも行き過ぎた暴力の所為だというのは分かる。
しかし、締め付ければ造反し、締めなければ他の部隊へ示しがつかない。
扱いに困るが、扱わなければ戦えない。
椅子に持たれて天井を見上げる。
軍と呼べるのは俺が率いている部隊と螢送の部隊、位か。
足しても五万ほど。
楽のとの戦える数ではない。だから、盗賊を使うのだが。
「将軍」
ノックして入ってきたのは副官の白亜。
「どうした?」
「制羽将軍の部隊が到着されました」
「制羽?」
部屋に入ってきただけでむかつく奴はそうはいないだろう。
「久しぶりだな。佳乃将軍」
「お元気そうで何よりです」
お互いになんの感情も込めていない挨拶を終えて、
「党首も先の敗戦を気にされておいでだ」
「面目ない。先の大敗の借りを返し、尚かつそれ以上の損害を与える事を約束します」
頭を下げる。
うすら笑っているのが分かる。
「ふん。そうあって欲しいものだ」
これで党首の心を慰める事が出来るのなら安いものだ。
「で、今回私がここまで来たのはその事を伝える為だ」
わざわざ自分が言いに来るとは、ご苦労な事だ。
よほど嬉しいのだろう、顔がにやけている。
「では、これから軍務がありますから」
「それでは、これで失礼しよう」
勝ち誇った目。
それを残して部屋から去っていく。
制羽が去った後、
「なんなんですか!? あの言い様は!!!」
制羽が据わっていたソファを蹴り飛ばしている。
「すぐにでも悔しさに満ちた目に変えてやるさ」
「そうしてやりましょう。で、どうします? 部隊はすぐにでも動かせますが」
「まぁ、待て。今動くと足元を掬われるかもしれん」
「園典では不覚を取りましたが、あの時は将軍はいらっしゃいませんでした。しかし」
「俺は楽に人無しと思っていたがそうではなかった。中々の人物が居る様だ。甘く見ていると再びあの屈辱を味わう事になるぞ」
「将器は将軍の方が上です!」
言い切られると恥ずかしいな。
「敵を侮るな。戦争の基本だ」
とりあえず、現在のままの待機を続ける様に指示して白亜は外に行った。
「ふぅ……」
誰も居ない部屋、
一人になるとため息が出る。
ああは言ったもののどうやってこの状況を覆す。
人無しっていうのはこちらに当てはまるかもしれないな。
澄み渡る夜空。輝く月。窓を開けそよぐ風が気持ちの良い夜。
どの様に戦争に勝つのか、を考える愚かな自分。
「仙士。か」
あの時の仙士が不意に浮かんだ。
才蔵達とは違う空気を持った女。
不意に会いたいと思った。
そんな月夜のひと時。