転換
路地を抜け、車に乗り込み蛍送の街を出る。
「これから反乱を起こさせる」
「誰に」
隣で寝そうになっていた比奈人はアイマスクをずらして眩しそうにしている。
「それは身の程知らずの野心家で佳乃を嫌っているのが条件」
「は、跋維党には山ほど居るな」
「あぁ。その中からこっちの言う事を聞いてくれるのは」
「それも山ほど居るな」
「それなりの地位を持っている」
「まだまだ絞りきれんな」
「小心で臆病」
黙りこむ比奈人。
おそらく頭に浮かんでいるのは俺と同じ人物。
「『制羽』か」
「あぁ、あの男なら上手く動いてくれるだろう」
「どうやるんだ?」
「それは……」
車内で簡単な打ち合わせをしつつ、車を制羽の居る街、野乃津に向けて走らせる。
「史紀ちゃん、これからどうするの?」
勢いで公園を出て、ホテルに向かう。
「どうするも」
才蔵達の手がかりは途絶えた。
アテも無く歩き回っても見える確立は考えたくない。
「う〜む」
「アテが無いなら一つ提案が」
振り返ると嬉しそうに微笑んでいる。
「もう一度夕音に行ってあの男性に聞くって言うのは?」
……。
あの男性とはおそらく夕音で戦った人間の事だろう。
「マジで?」
搾り出した言葉がこれだ。
頷く理緒。
「教えてくれると思う?」
ついついけんか腰になってしまうのは仕方が無いだろう。
「多分」
「根拠は?」
「あの人だって才蔵達に利用されて見捨てられたんだから、何か借りを返したいとか思って」
なるほど。一理あるといえば……ある。
「たらいいな〜って思った」
「思いつきかよっ!!」
理緒に突っ込んだ所でホテルに到着。
一晩、ぐっすりと寝て、朝ごはんをたらふく食べて、
「今日はどうするの?」
観光者の様な会話。
まぁ今までそんな感じだったからしょうがない。
「今日は夕音に行こう。ってか昨日理緒が言ってた事じゃないか」
「……あぁ」
ホントに思い付きだったんだ。
それに乗った自分が悔しい。
が、今はそれに賭けるしかないか。
ホテルの引き払い、一路夕音へ。
当然、運転は理緒。助手席で地図を眺めていたら気持ち悪くなり、窓の外を眺めつつ快適なドライブを楽しんでいる。
「もうすぐ、この前大きな戦いがあった場所ですよ」
「ふーん」
特に興味は無い。戦争自体は人間同士の事。
才蔵達は何か後ろでこそこそやっているがボクには関係無い。
通り過ぎようとした所、
「検問やってますね」
身分証は佳奈に用意して貰っている。
「ご協力お願いします」
窓を覗き込む様にそう言ったのは綺麗な女。これが素直な感想だ。
「はいはい」
理緒が答えて、免許証と名前の確認。ボクとの関係。車検証の確認等。
車の周囲をぐるりと武装した兵に囲まれるのは気持ちの良いものじゃないな。
シートを倒して終わるのを待つ。
「すいませんが、エンジンを切ってお待ちください」
理緒はラジオを付けようとして怒られている。
「キーはちゃんと返してくださいね」
渡さなくても良いだろう。
「あ、いや、抜かなくても結構です」
「いえ。持っていて下さい」
きりり、と言い放つ理緒。
どこかずれているのが残念でならない。
「姫歌少尉」
理緒から車のキーを押し付けられた女が呼ばれていく。
「まだ?」
「キーを返してもらってないですから」
「なんで渡したんだ?」
「え。怒られたから」
「ラジオ付けなきゃ良かっただけだろ」
「そう言われればそんな気もしますが、まぁ、渡しちゃったものはしょうがないですよ」
何がしたかったのかも良く分からない。それは理緒自身も分かってないだろう。
思いつきで行動するのはやめて欲しい。と心から願うが理緒に届くのはいつの日だろうか?
それとも神に祈った方が速いのか?