幕間〜
楽軍と跋維党の園典周辺の戦闘から一週間。
ボクの傷もようやく癒えてきて、今は体力の回復と才蔵達の情報を待っている状態だ。
あの戦いの事はベッドの上で聞いた。
才蔵が比奈人の加勢に来てボクと戦った所までは覚えている。
その後の事は知らなかった。
詩月が着ていた事。蒼空乃極を回収していった事。
不思議となんの感情も沸かなかった。
届かなかった悔しさも捉えられなかった歯がゆさも。何も。
今も冷静に分析出来る。といっても僅かな時間の事だけど。
ボクも少しは成長したのかな。
退屈しのぎと軽い運動の為の散歩の途中で立ち寄った公園。
「ふお」
横に座る理緒が変な声を上げた。
見れば嬉しそうに舌を出している。
舌の上には結ばれたさくらんぼのへたがある。
それを指差して、何か言おうとしているが全く言葉になってないので分からないが、言いたい事は分かる。ボクへの挑戦、だという事は。
とりあえず、挑戦。
「……」
もごもごと口の中でへたと格闘。
ちょっとイライラ。
「……」
横目で見れば理緒は勝ち誇ったかのような顔でボクを見る。
更にイライラ。
「……」
もごもごと格闘する。
もう一度理緒を見れば、ニヤニヤ笑っている。
「……」
……何かが切れた。
「ぺっ」
へたを吐き出す。
「あ」
「行くぞ」
「出来ないからって」
「うるさい。行くぞ」
理緒の手を引っ張って公園を出る。
……少しは成長した、と思いたい。
「これからどうする?」
「とりあえずはもう少し荒れた方が都合が良いな」
螢送の街の路地から通りを眺める。
何も変わらない街。いや、園典での敗戦のショックが消えずに市民や兵の士気を高める為の街宣活動が目に付く。
「必死だね〜」
比奈人は他人事の様に眺めている。
「十日前までは協力してただろ」
「十日目までな。今は違うだろ?」
嬉しそうに笑う。比奈人という仙士の目的は分からない。
何故俺に付き合うのか、が。
これ程の力があれば冥仙界でもかなりの地位につけるだろうに。
「どうした?」
しばらく眺めていたら目が合った。
「いや、なんでもない」
「大丈夫かよ。お前だけが頼りなんだぜ」
言葉通り、比奈人は作戦について一切口を挟まない。
常に従い、結果を出してきた。
蒼空乃極を奪われたのは計画外だったが、それも予想範囲内。
「この前みたいな事はもう無いから安心しろ」
「そう願いたいものだ」
人通りの多くなってきた路地を更に奥に進んで闇に消えていく。
更なる混迷にこの国を導く為に。