首都攻防戦8
いつの間にか日の沈み辺りは真っ暗な世界に包まれている。
闇を裂くバイクや車のライト。少しの距離を開けて無数のライトが駆け抜ける。
徐々に縮まる距離。
銃声が響き、悲鳴とバイクの転倒、それに爆発音。
爆発が照らす一瞬の明かり。それに照らされた恐怖に満ちた顔。
「追いつかれたっ!!」
叫んだ男は近くの仲間を巻き込んで倒れた。
「突っ込めぇー!!」
勇ましく響く声。
敵には断罪の声に聞こえただろう。
「来たな。将軍の読み通りだ」
「『蓬樹』甘く見るなよ」
「分かってるよ『仁都』」
「『程時』はすでに配置についている。くれぐれも深追いするなよ」
「分かってるって」
もう一度同じ注意を受けて仁都は後方に下がっていく。
仁都、程時とは跋維党に参加する前からの付き合いでお互いに気心が知れているというか、安心して後を任せられる。
「さて、先陣は俺が切るかな」
「大尉。先程」
「気にするな。俺が行かなきゃ話しにならんだろう?」
仁都に念を押されたのだろう。その顔にはどうしたものかと、逡巡している。
その肩をぽん、と叩いてバイクに跨る。
「よし。敵を追っ払うぞ!!」
アクセルを踏み込んで向かってくる光の波に向かっていく。
敵の隊列が分かれる。
隊列、と言えるほど整列していた訳ではないが。
アクセルを緩め、警戒心が危険を知らせる。
ここまでやれば十分だろう。
「よし。引き上げの」
「中佐!!」
振り返ると斧槍を振りかぶる敵兵が。
「このっ」
槍を両手で頭上に掲げる。鈍い衝撃に響く金属音と腕。
アクセルを踏んで斧槍を抜け出し、
「ここで終わらせようかと、思ったのだが」
相手を見定める。
大きな男。しなやかさとは正反対の体から発しているオーラに気圧されそうになる。
「ここまでやっといてそれは無いだろう」
言い終わると踏み込んでくる。
それを受けずに避けて、突き。
大きな斧槍の柄で軌道を変えられる。
振りかぶらずに、切り下ろす。
「ちっ」
バイクの後が切り付けられて体勢を崩す。
斧槍の先端に吐いた穂先で突き出し。
「くっ」
バイクを乗り捨てる。
刹那の間で間に合わず、防具の隙間、わき腹に滲む血。
敵兵の数は少ない。しかし、
俺の周りをゆっくりと周回する男。
こいつは一騎当千の力を持っている。
ここでの敗北は今日の勝利を無くすかもしれない。
槍を握る手に力が入る。
「そういえば、まだ名乗ってなかったな。跋維党大尉蓬樹」
「楽軍中佐、未麻」
「中佐、その首頂いていこう」
機上からの攻撃。
避けるだけで精一杯だ。
反撃の機を見出せない。
一撃一撃が強く鋭い。バイクを自在に操り左右からの攻め。
流石にヤバイと感じてきた。
「中佐!!」
敵を蹴散らし、槍を払いながらやってきたのは姫歌少尉。
「女か?」
女と見て甘く見たのか、少尉に対する反応が遅れた。
その隙を逃さない少尉。躊躇わずに必殺の突きを繰り出す。
反撃も俺へのとどめも出せずに、距離を取る。
「甘く見たか」
少尉の攻めは止まらない。距離を開ければ詰めて疾風の突きを繰り出している。
反撃を往なし、払い振り下ろす。
俺も見ているだけではカッコつかないな。
近くの敵兵を倒し、乗っているバイクを奪って、
「俺も加えて貰おう」
少尉の反対から蓬樹を追い立てる。
「流石にこの二人相手では」
斧槍を振り回して、こちらが退いた瞬間。
「退けー!!!」
人の声量とは思えない大声で叫んだ。
それを合図に退いていく跋維党。
「中佐。今回はこの辺で」
「そうだな。これ以上追うとこちらが痛い目に遭いそうだな。よし、園典に帰還する」
日が変わり、激戦の跡が色濃く残る園典周辺。
捕虜になっていた兵はもちろん投降していた楽兵、投稿してきた跋維兵それぞれに恩赦を与え解放した。その事に恩義を感じ軍に加わる者も多数いた。
戦利品としてバイクや車両。食料に武器、通信機材その他諸々を引き上げての凱旋。
「王子。これでしばらくは物資に悩まなくてすみます。これを他の都市に分配して跋維党との戦いを有利に進められる様に手配するのが得策かと」
「そうだな。園典にも蓄えはあるし、補給の厳しい所に輸送するのがいいな。そうなると誰が輸送をする? まだまだ跋維党が展開している所の方が多いし危険だろう」
「はい。その事に関しては戻ってから皆と話し合いましょう」
昨日の出撃前には悲壮感と決死の覚悟で町を出た将兵達。
今は戦いに生き残り、自身と誇りを胸に街に戻る。