首都攻防戦3
「王子がお呼びです」
宮殿の自室に戻り、今後の事を考えていると王子からの呼び出し。
王子が待っていたのは、謁見の間。
いつもは外交や式典に使用されている。豪華で気高く何百年もの間、この国の歴史を見つめてきた空間。過去の偉大な王や人物を見てきたこの空間は今の王をどの様に評価するのだろうか?
気にはなるが知る術が無いのが、良かった様な、残念な様な。
玉座の前に王子は一人座っていた。
その姿には無念と苛立ち、そして絶望を背負っている様に見える。
「やぁ、呼び出して悪かったね」
「いえ」
すらりと伸びる背、人込みの中に居ても頭一つ飛び出す長身。
それに見合ったがっちりとした筋力。
王子と言う印象とはかけ離れた体格が今は小さく見える。
「今回の事は他言無用に。と思ったが」
「それは無理かと。あの場にはもう一人居ましたから」
頭を掻き毟る王子。
泣きたい気持ちも混乱する理由も分かるが、
「今は王の事より目前の跋維党を攻略するのが先決かと」
「そうは言っても、昌機平野戦でこちらの兵は半数、それに向こうは増えているではないか」
昌機平野戦の時、こちらは十万に対し跋維党は三万。
今は、こちらが二万に跋維党は増援とこちらの降伏兵がついて七万に膨れ上がった。
「三倍の兵力をどうやって覆すというのだ、それに」
「このまま楽を滅ぼしますか?」
この問答に意味は無い。
戦うか、否か。
兵がどうとか、王がどうとか関係なく、ただそれだけを聞きたい。
「それは」
言葉が詰まる王子。
「滅ぼしたくないのなら戦うしかありません」
「しかし」
「逃げる王をなんの為に引き止めたのですか、戦う為では無かったのですか?」
顔を伏せ、ぎりぎりと歯を軋ませる。
「勝ち目がどうとかは今の時点では分かりません。しかし戦い方はあります」
私の言葉に王子は顔を上げる。
「それは……本当か?」
「この状況で冗談が言えるほど、空気が読めない訳ではありません」
「どの様に戦うのだ?」
「それは……」
静かな謁見の間。王子と二人私の策を話す。
「皆に集まって貰ったのは今後の事を話す為だ」
軍議を開く。場所は謁見の間。
王の椅子には王子。
その他の出席者は各々手近な席に着く。
今回の軍議の出席者は以前と違い、少佐や大尉といった階級の者も参加している。
昌機平野で戦死された将校も居るが、大半は来ないし連絡がつかない。
「今後……ですか」
王では無く王子が軍議を取り仕切る事に疑問を持つ彼ら。
「まず、王はどちらに?」
王子の顔が歪む。
「王は……」
言葉が続かない。
ざわめく一同。
最悪の事態を思い描いているに違いない。
しかし、それを上回る事態を王は引き起こしたのだ。
「王は……無事だ。今は静に向かっておられる」
何故? と当然の疑問を問いかける。
「王は……楽の国をわれ等に任せて」
「逃亡されたのですか!!!!」
ざわめきが混乱へと変わる。
「落ち着け、諸君!!」
声を張り上げて冷静さを取り戻させようとするが声は届かない。
王子に詰め寄る者、謁見の間から出て行く者。
「扉を閉じろ」
今は、というかこの事態を乗り切る為には一人でも多くの人材が必要なのだ。
「少将。これ以上ここに留まっていても意味は無いでしょう。王が国を捨てたのに何故われ等だけが命を張らなければならないのですか!?」
「貴官達は王を守る為に国に仕えているのか、それとも国民を守る為に仕えているのか?」
玉座の前で大きく声を張り上げる。