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En-gi  作者: 奇文屋
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首都攻防戦2

 王の決断で終わり、始まった昌機平野の戦い。

わずか、三日で楽軍は敗走し、敵軍に包囲された園典。

市民はいつ攻めてくるか分からない緊張と恐怖の中で過ごしている。

兵は半数に減り、主戦派も意気を失い、非戦派は責任問題を追及している。

「のんきですね」

 相変わらずマイペースな藤邑。

「君が言えた事では無いと思うが……まぁいい」

 私も藤邑に倣い、ソファに深くもたれ掛かり紅茶を楽しむ。

「で、どうなさいますか?」

 天井を見る事で分かってもらえた、と思う。

打つ手が無い。

物資は互角でも兵は跋維党。いや、跋維軍の三分の一。

士気に至っては先の敗戦の後だから無い。

兵の恐怖が市民に移り、反乱が起こらないだけマシと言うものだ。

「このまま、負ける気は無いのでしょう」

「それは、な」

 しかし、策は無い。

敵が行動する前に手を打たないと、焦りが思考を鈍らせるのは分かっているが……。

 深く息を吐いて、膝を叩きカップに残った紅茶を飲み干して立ち上がる。

「散歩してくる」

「お供します」

 珍しく藤邑が着いてくる。



 確か、宮殿を出た時は朝だったはず。気付けば日は赤く染まっていた。

いつもは人並みが途切れる事の無い市外には人影は無い。

「敗戦のショックは思った以上ですね」

 藤邑がどことなく嬉しそうに声を出す。

「その上、包囲されているんだからしょうがないだろう」

 その責任問題で軍議は揉めている。

今、しなければならないのはこの局面をいかに打開するか、という議論はされていない。

そんな軍議に参加する気にもなれない。

つまらない権力闘争の坩堝となっている宮殿と悲壮感と恐怖が満ちている市内。


 さらに歩き回り、夜になり、思いついた名案も無く、事態の深刻さと何も出来ない自分に苛立ちながらも宮殿に戻ってきた。

「とりあえずの事態は分かった。後は」

「将軍の知恵に期待してますよ」

 藤邑は私を追い抜いて、

「将軍」

 声を潜めて手招きをする。



 階段の踊り場、花壇に身を伏せ耳を澄ます。

争う声が聞こえる。

 ……この声は。

「早く乗れ、賊はそこまで来ているのだぞ!」

「父上、国民を置いて逃げるなど」

 反対しているのは第二王子の『伯明はくめい』王子。

 最悪の……展開だ。

花壇に背を預け、天を仰いぐ。

藤邑は笑うのを堪えている。

「国民を置いて逃げるのではない。ここを離れ事態の推移を見守り、時を計り事を起こすのだ」

「残された園典の市民はどうなりますか!?」

「軍が残る。それに賊もここを焼き払うなどしない」

「それに、この楽のどこに逃げるのですか? どこに居ても楽に居る限り跋維との戦いからは逃げられませんよ」

「楽には無くとも隣国『せい』にはある」

「他国に逃げるのですか、国民を見捨て!?」

「見捨てないと何度言えば分かる!?」

「その様な事をして、国民の信を得られるとお思いですか!?」

「われ等が滅びれば楽は終わる。それだけは避けねばならんというのが分からんのか!?」


 ……全く、何を言おうと国民は自分だけが逃げたと思うだろう。

昌機平野の敗戦、その上王が逃亡したとなれば……。

後からは怒鳴りあう声が聞こえていたが、車の扉が閉まる音と走り去る音が聞こえた。

逃げる王。

「将軍、王子は残った様ですよ」

 留まった王子。

「藤邑」

「はい」

 私達がいる場所から離れた所に人の気配を感じた。

見られた?

いつまでも隠せる事では無いが、このタイミングはマズイ。

藤邑と目で合図を交わし、私が動いた瞬間に逃げ出す気配。

その反対を藤邑が風の様に追い詰めて、押さえつける。

「手荒な真似は止せ。とりあえず……」

 がさっ。

その後、もう一人居たのか?

「どうしますか?」

 男を押さえつけたまま、聞くが気配は遠くに消えて行った。

「陽動か」

 押さえつけた男に事情を聞く。

食料と金を受け取る代わりにこの時間ここに居ろ、と言われらしい。

間違いなく相手は跋維党。常に先手を打つ読みには驚かされる。

と同時に心に湧き上がる好敵手への敬意と負けたままでは終われないと叫ぶ感情。

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