首都攻防戦1
吹き抜ける風の向こうに広がる雄大は大地。
東には穏やかに流れる『加名差川』
西から南にかけて聳える『菜弧山脈』
ここ『園典』の城壁に登ると、いつも心が大きく羽ばたいていく。
楽の国の首都。振り返ると朝靄に煙る街、いつもと同じ様に暮らしている人々がまだ眠っている。
「『姫辰』」将軍
城壁に登ってきた『藤邑』少尉。
まだ若いが有能な女性。まぁ、私の秘書的な立場なのが不思議な程に。
「何か」
「勝手に出歩かれるのは遠慮して欲しいのですが」
表情を変えず、かといって呆れた様子も無い。
「散歩位構わないだろう」
「言ってくださればよろしいのですが」
「いちいち言うほどの事でも無いだろう」
「将軍の行動を知っておくのが私の仕事ですので」
なるほど。
「分かった、で、今日の予定は?」
「十時より軍議です」
……意味も無く答えの出ない軍議に意味など見出せないのだが。
「出席は」
「分かっている。ちゃんと出るよ」
サボりたい。という気持ちは当然この優秀な秘書には見抜かれている。
「……」
家柄や地位で戦争に勝てる戦争など無い事に気付くのにどれ程の血が流れれば良いのだろうか?
「ここは『昌機平野』で敵を迎え撃つのが上策です」
「敵をそこまで進軍させて守りきれるのか?」
「腰抜けの発言は控えろ!」
「万一敗れれば園典の防衛はどうされるおつもりか?」
「戦う前から敗戦の事など語るものではない!!」
当然、主戦派は軍と政府上層部が中心、非戦派は前線で命を張って戦う仕官が中心だ。
主戦派は非戦派を腰抜けと罵り、蛮族と怒鳴り返す。
「王! 昌機平野にて敵を迎え撃ち、その勢いを持って夕音を落とすのが最上です!!」
「危険すぎる! 各地の都市と連携して夕音奪還を!」
「いつまでも軍議をしている場合では無いのは、皆も分かっていると思う」
王が結論を出す。
皆が王を見る。
「我が楽軍の精鋭を持って敵を迎え撃ち、反乱の首謀者、礼儀を討つ」
王の決断が軍議の結果。
その結果が自分の望むものでは無いとしても従うのが我等の務め。
私はこの戦いをいかにして最小限の被害に抑えるのか、に思考の全てを傾けていた。
「お疲れ様です」
自室に戻ると、藤邑がソファでのんびりと紅茶を飲んでいた。
目の前には雑誌が広げられている。
「紅茶でいいですよね」
私の答えを聞くまでも無く紅茶を淹れてくれる。
「どうなりましたか。軍議の方は」
「私の考えた中では最悪だな」
「どうなさいますか?」
「とりあえず、出撃部隊によって行動を変えないとな」
「誰が出撃なさるのですか?」
「私では無いのは間違いない」
「それはこちらにいらっしゃるので分かってますが」
私は主戦派からも非戦派にもついていない。
なので、軍部や政府からは距離を置かれている。
「敗れるのは必定。そうなった場合、園典での内部分裂そして同士討ちが始まるな」
「楽の滅亡も近いですね」
まるで他人事の様子。
「で、どう動きますか?」
表情は変わらない。
「どうもこうも無いよ。事態を見守るだけだよ」
窓の外は我等の心配を他所に澄み渡っている。