夕音の決闘3
「こっちか」
誘う様な街灯の明かり。
罠でも良い。この先に居るのは間違いなのだから。
いくつかの角を曲がった先居たのは、
「お。もう来たのか?」
とぼけた声の主は比奈人。
「見つけた」
箒星を走らせて比奈人に向かう。
「おい。待てって。この先には蒼空乃極が」
「問答無用っ!!」
「「えっ!?」」
前後から驚きの声が聞こえた。
「おい。それが目的じゃないのか?」
ボクの攻撃を避けながら、比奈人が呟く。
「ついで。そっちは任せた!」
「マジですか!?」
理緒の声を背に比奈人の懐に潜り込んで、腕を突き上げる。
「マジかよ」
後に飛んで避けられた。
持っている薙刀を構える素振りすら見せない。
まだ、ボクを甘く見ているな。
それなら構える前に終わらせよう。
本気の比奈人と戦いたい訳じゃない。
ボコボコにするのが目的なんだ。甘く見ているのならボクにもチャンスはある。
箒星を左手に戻し構える。
「力の差は分かっているだろうに」
肩に担いだ薙刀が月を照らす。
「さぁ、物分りの悪い方なんで」
良いの? ホントに?
なんとなくイケナイ様な気がしないでもないが本人がそう言っているのだからしょうがない。
私は街灯を頼りにまっすぐに走っている。
後から聞こえていた剣戟は徐々に小さくなっていき今は私の足音だけが響いている。
遠くに人影が見えた。
その直後、突風が吹きすさぶ。
「くっ」
目を閉じ、腕で顔を覆う。
「この風は?」
「おや、一人か。報告では二人だと聞いていたが」
男の声。
手には見ただけで分かる、上級仙具が握られている。
「まぁいい。これの力に俺がどれだけ耐えられるか。試させてもらおう」
剣を構える。
青く朧に輝く剣。人間の力でここまで輝くとは思っても見なかった。
それだけの力を持っているのか。
気を引き締めて、男と対峙する。
「その剣は貴方の手に余る代物。返して頂きます」
「それは無理な相談だという事は分かっているだろう」
地を蹴り、向かってくる。
「それでは」
ひゅん、と鞭を撓らせて男の足元に警告と力量を知らしめる一撃を見舞う。
私の心を見透かし、鞭を避けようともせずに突進してきて私の首元に剣を突きつける。
「油断しない方がいい」
目の前には殺気を帯びた眼差しを持った男。
その気なら私の首は……。
考えただけで背中に一筋の汗が伝う。
「その様ですね」
鞭を返し、背後から攻撃する。
左に避け距離をとる。
鞭は空を切り、地面を叩く。
「大人しく返す気が無いのは分かりました」
「分かってもらえて嬉しいよ」
「では。参ります」