夕音の決闘2
おかしい。と気付いたが入ってしまった以上、先に進むしかない。
占領されたとはいえ、人影が全く見えない。
兵士の姿さえも。
いない、と分かっていても一応、ビルの影に潜んでいる。
「史紀ちゃん。どうしようか」
「ここまで来たのに引き返すのはアホでしょ」
不安はあるが、気合で誤魔化す。
そっと顔を出し、辺りを確認するが気配は無い。
以前は昼も夜も多くの人で賑わっていたのだろうが今は街灯が寂しく灯っているだけ。
見回りすらないのか。
それなら隠れている事が滑稽だが、大手を振って通りを歩く気にもなれない。
夕音の街をこそこそと駆け巡る。
「今更なんだが」
人の気配すら感じる事無く、一時間以上隠れていた。
その間もあちこち移動していたが誰も居ない。
遠く離れた住宅街らしき所には、ぽつりぽつりと明かりが見えるがあそこまでは……遠いので行きたくない。行くとすれば最後であって欲しい。
「何?」
がこん、と大きな音を立ててジュースを落とす自販機。
潜入なのに音に気を使う事さえしなくなった。
自販機の横に腰を下ろし、ぷしゅ、と開けて一口飲んで、
「比奈人。何処に居ると思う?」
ボクの言葉に顎に手を当てて考える。
「さぁ、宿舎じゃない?」
最もな答え。
「それは何処だと思う?」
夕音の街を右往左往。
誰に出会う事も無くさ迷っていた。
「今までに行った事の無い場所だと思う」
最もだ。
深く頷いて、
「それは何処だ?」
沈黙。
そして、ごくり、と飲む音が聞こえて、
「知らない」
当ての無い旅がまだ続く。
「将軍の言う通りに潜入をさせましたが」
警備隊長の報告を聞いて、ようやく本気で試せる相手に出会えた喜びに武者震いをして、
「ご苦労」
と、短く答えた。そして俺は剣を携え、
「どちらへ?」
「客人を出迎えに」
警備隊長を部屋に残して出て行く。
その間際に振り返って、
「比奈人を起こして、中央通りに来る様伝えておいてくれ。それと照明を中央通り以外は切れ」
敬礼している彼を残してドアを閉めた。
明かりが消えた。
暗闇に目が慣れるまで理緒と死角を庇いつつ、じっと意識を集中して警戒する。
「史紀ちゃん。気を付けて」
「言われなくても」
走り回ったおかげで体は温まっている。
息を整えて、暗闇を睨みつける。
五分、目も慣れてきたが、襲撃は無い。
じりじりとお互いの死角を庇いつつ移動する。微かな物音、物陰の気配も逃さずに集中する。
目的はなんだ?
ボク達の事を遠くで見て笑っているのか?
それも腹立つな。
「史紀ちゃん。あれ」
真っ暗な街。月や星とは違い、空から照らす明かりでは無く地上から空へと強く放っている明かりがある。
「あそこかっ!?」
理緒と顔を見合わせて走り出す。