出会い
ホテルを出ると、あちこちで悲鳴と怒号。それと火が燃えている。
この街に着いた時は、陽も高く観光客らしい人たちがアチコチ見ていた。
ボクが泊まっていたホテルの近くには桜の名所があるらしいが、今は赤く燃え上がっている。
「な、何?」
昼と今の変貌振りに驚いたが、すぐに事態を理解した。
あの時と同じ。胸が痛く、心がざわつく。違うのはそれが大勢の襲撃だ、という事。
近くにたむろっている盗賊の襲撃かと思ったが違う様だ。
やっていることは盗賊そのものだが、ある程度の訓練を受けている様にも見える。
「まだ、居たのか?」
市民を追いかけていたのかそれとも火事場泥棒をしていたのかは分からないが、数人の男達がボクに気付いた。
「何?」
目の前に男達が立ち塞がる。
「持っている物を」
「うるさい」
脛を蹴り上げる。
そのまま立ち去ろうとするが、
「待て!」
「何!」
振り返り様に、左腕で裏拳。
外れても良かったのだけど、当たった。
ついてるな。今日は。
「貴様っ!」
でもないか。状況が状況だし。
「油断してたコイツが悪い」
「我らが『跋維党』に手を出しておいて」
白璧……?
「あ〜。ゴメン、知らない。じゃ」
「待て!」
「何!」
いい加減、……いらいらして来た。
「ボクになんの用があるの?」
「持っている物を大人しく置いていけ。そうすれば命は助けてやる」
そんなの、
「いや」
「それならっ!」
「痛い目見せて分からしてやるよっ!」
箒星を戦闘体勢に移行。
目の前にいる男達の動きを見定めて、近い所から倒していく。
受けては引いて、避けては打つ。
すっと構えて、男達を見る。
この中で、一番偉いのを探す。
いた。アイツかな。
ソイツに向き直って、
「まだ、分からない?」
ボクに気圧されたのか、黙っている。
「余計な体力を使わせないでよね」
ふぅ、と息を吐いて呼吸を整える。
歩き出したボクの後ろには倒れた男達が炎に照らされていた。
燃える町。逃げ惑う人達。
電線が燃えてショートして道に火花を散らし、ガラスが炎に溶けて割れる。
ボクに気付いた盗賊共が、お約束通り向かってくる。
それも鬱陶しい程に。
「うっとうしぃーわぁっ!!」
何人目かは知らない盗賊を放り投げる。
箒星を使った事をちょっと後悔している。
箒星を使って戦うと体力を使う。
その消費量は使う時間に比例する。
あの程度なら、どうって事ない筈なんだけど。
「ちょっと、怠けすぎたかな」
日頃の鍛錬不足を今嘆いてもしょうがない。
明日からやるか。と、決意を心に誓う。
「またか」
前から走ってくる子供。
その後ろには盗賊が追ってくる。
「あ」
ボクに気づいて立ち止まって右左と確認している。
失礼な! ボクがアイツ等と同じに見えたのか!?
立ち止まっていても後ろからは追ってくる。
「助けてっ!」
ボクの優しい顔に気づいて、助けを求めてくる。
正直、面倒なんだけど。
子供はボクの答えを待たずに後ろに回りこむ。
「お願いします」
「されてもなぁ」
もう、どうしようもないじゃない? この状況は。
当然、盗賊達はボクに向かってくる。
「はぁ〜〜〜」
深いため息と共に、向かってくるやつ等を殴り飛ばす。
「強……」
僕の後ろに隠れている子供がそう呟く。
「当然だ。ボクは『仙士』なんだから」
最後の一人を殴り飛ばして、振り返る。
「で、ここから一番近い町の出口はどこ?」
「あ……あっち」
指差す方を見つめる。
「そう、ありがと。気をつけてね」
この状況で何に気をつければいいのか? 言った自分でも分からないが。
子供は、
「ありがとうございます」
礼儀正しくそう答えた。