夕音の決闘1
車での移動がようやく終わりを告げようとしている。
ボク達は夕音の手前の街『真菜沙』市に到着。
降りた瞬間にでた一言が、
「体……痛」
だった。
狭い車内からの解放がこんなにも気持ちのいいものだとは知らなかった。
思いっきり体を伸ばし、体中に行き渡る血液の流れを実感しつつ、理緒の方をみるとやはりボクと同じ様に天高く腕を伸ばしている。
「つっかれた〜」
同感だ。ボクは一切運転してないが。
「さて、これからどうしようか?」
「とりあえずは」
お腹を擦っている。
「そうだな」
夕音を目前に望んで食事を取る。
「さて、行くか」
食事を終え、颯爽と車に乗り込む。
士威街道を後、三十分程南に走ると夕音に着く。
車窓を走る風景を見ずに、目を閉じエンジン音に耳を傾ける。
気合と不安がボクの心に入り混じる。
師匠達を相手にして無傷だった二人。その二人とこれから戦いに行く事の不安。
しかも師匠に遠く及ばないボクと理緒だけで。
今更……だな。
覚悟は風仙界を出た時に決めている。
「よし」
「もうすぐ着きますよ」
黙ってハンドルを握っていた理緒にボクの声が聞こえたのだろう。
「分かった。理緒は少し休んでいてくれてもいいぞ」
「大丈夫ですよ。そんな柔な体はしてませんから」
夕音の街が見えてきた。
箒星を左手に装着して到着を待つ。
夕音の手前の丘の下に車を止めて、夜を待ち夕音に徒歩で向かう。
流石に警戒している兵が居るが、それらをやり過ごし夕音の街にたどり着いた。
辺りは真っ暗になり、街灯も何も無い。
ここまでは思い通りだ。
「ここからはどうやって?」
考えてはいない。
湯狭は城壁というより塀といった感じだったからこっちも同じと思っていたんだが、夕音は完全に城壁だ。
登る為の用意など当然していない。
しかし、いつまでもこうやって居ても意味が無いし、見つかったら面倒になる。
うーん。
登るにも手をかける場所すら見当たらない。
弱ったな。とりあえず、城壁に沿って移動する。
しかし、歩いていてもなんの考えも浮かばない。
こうなったらなる様になるしかないだろう。
うん。そうだ。その通りだ。
「史紀ちゃん。何も」
理緒がボクの考えを察知して何か言いかけるが、口元に指を当てて、
「静かに」
素早く左右を確認して、城壁に体を寄せて息を潜めて待つ。
「何?」
耳元で理緒が囁く。
「遠くで人の話し声が聞こえた様な気がした」
そろそろと足を動かして声のした方へと進んでいく。
真っ暗な世界に目も慣れて、視線の先には二人の門番らしき姿を確認する。
退屈を誤魔化す為に話している。
ボク達に気付いた様子は無い。
後の門は開いている。進入するならここしかないな。
理緒の顔を見て、頷きあう。
相手は二人、ボクは箒星を構えて狙いをつける。
どさっと倒れる音が二回聞こえた。
しばらくはその場でじっと待っていた、
五分経過してから門番に近づいて、様子を窺う。
気を失っている。
それから周辺を警戒しつつ夕音に潜入する事に成功した。