夕音
どうにか佳奈を説得して車を一台手に入れた。
「嘘は言ってないですから」
走り出した車中の中でハンドルを握る理緒は後を気にしながらそう呟いた。
「確かに。ボク達はボク達の為に戦うんだから。結果それは向こうの為でもあるのは間違いないし」
窓の外を流れる景色を楽しみながら士威街道を走り続ける。
湯狭から脱出し日暮れ前に夕音に到着した。
やけに物々しいのが気になった。
「疲れている所悪いが、早速話を聞かせてくれないかな」
到着早々、佳乃がお供を引き連れてやってきた。
「了解。寝ている途中よりははるかにマシだ」
「では」
佳乃の後ろについて行き、本営に入る。
その中には緊張感が漲っている。
「また出陣か?」
夕音占領からは日が経っていない。
慎重に慎重を重ねる佳乃らしくない、かな。
「あぁ、上手く行けば次で終わりだ」
「狙いは?」
その言い方でなんとなく分かった。
おそらく、
「園典」
振り返ったその顔には微かに微笑みが浮かんでいる。
「この戦力では足りないだろう」
夕音の戦力を全部出しても足りないだろう。
「南部からも兵を出すから互角かな?」
「それなら、守る方が有利じゃないのか」
「初戦は園典近くの昌機平野。そこで楽軍を徹底的に叩く。そうすれば守備隊の兵数は減るし、他都市の援軍も無い。そうなれば兵の数は同じ。後は士気だがそれも初戦の勝ちでこちらが上だ」
「そんな上手くいくかぁ?」
「気を付けるべきは姫遊だけ。後は問題無いな」
「じゃ、駄目じゃん」
「姫遊は動かない」
「なんでそんな事が言える? それを決めるのは楽軍の勝手だろ」
「姫遊が動くのは昌機平野戦の後、その後は士気を上げる前に決定的な事件が起こる。そうなればいくら奴でも何も出来ないさ」
「何する気だよ?」
「機に臨み応に変じるんだ」
「意味分からん」
話している間に佳乃の部屋に到着。
比奈人の報告によれば、この剣に因縁を持っている奴が居るって事だが。
「仙士、か」
夕音戦の時に使った力の数倍。
この剣を才蔵から譲られた時に見たあの時の力、それを出せなければこの剣を使う意味が無い。
……俺はまだこの剣を使いこなせてはいない。
それが現実だ。使いこなす為には実戦か。
ぎしっと軋みを立てて椅子に体重を預ける。
「よし」
周辺の警戒に当たっている隊に指示を出して、比奈人の所に向かう。
「何? 眠いんだけど」
比奈人の部屋に入る。
どうやら寝ようとしていたらしいが、俺も聞きたい事がある。
無理に起こしている様でなんとなく悪い気がするがこの気持ちは抑えられない。
「すぐに終わる。さっき言っていたお前らと因縁のある相手に会いたくてな」
「今からか?」
「いや、来るだろう。お前を追って」
顔をしかめている。
「来るのか? それなら言ってくれ、自分の事だし」
「いや、そうじゃない。その二人と戦いたいんだ」
寝ぼけているのか、比奈人の頭の回転が鈍くなっている。
「つまりだな、蒼空乃極を使いこなすには実戦が一番だと思うんだ。でも並の相手だと何かを掴む前に決着が着いてしまうし、手を抜いても意味が無いだろう」
「そりゃそうだ」
「だが、仙士が相手となれば」
「ふーん。ま、好きにしなよ」
再びベッドに潜り込んで行く比奈人。
「あぁ、とりあえずお前を囮にするかなら」
返事が無い。
「おやすみ。ゆっくり休んでくれ」
期待はしているが信じる事の出来ない相手に声を掛けて部屋を出る。