史紀と理緒3
「あ。理緒、お前車に乗れる?」
「乗れるけど?」
「運転出来るかって意味だけど?」
確認しとく。こいつは天然だから。
理緒はグッと親指を立てている。
「乗れるのか?」
「これが答えよ」
更に指を立てた手をボクの顔に近づける。
「乗れるんだな」
「当然」
なんとなく腹が立つが今はその技術が必要なんだから我慢しよう。
「じゃ、とりあえず車を一台。手に入れよう」
「なんで?」
「移動に便利」
「電車の方が楽だよ? 座ってるだけで目的地に到着出来るし」
「電車は何か問題が起こるとその目的地にも着けないだろう」
「なるほど」
「どこかに無いかな?」
「車屋さんに行けばあるけど。高いよ?」
「う〜ん」
予算はあまり使いたくないな。
しかし、足は必要だ。
「それに史紀ちゃんは乗れるの?」
「車か? 乗れんぞ」
「それじゃ買ってもしょうがないじゃない」
あはは、と笑う。
「何を言っている。運転するのは」
箸で理緒を指す。
なんのお約束かは知らないが、後を見るが誰も居ない。
「私?」
「以外誰が居る」
から揚げを一つ頬張って答える。
「え、なんで?」
「旅費。必要だろ」
「それは、まぁ……ねぇ」
「野宿はきついぞ」
「だからと言って」
「ボクのやる事を手伝うのなら旅費出してやってもいいけど?」
「何、やる事って」
ボクがここに居る理由。風仙界で起きた事、師匠達、才蔵と比奈人の事。
静かに聴く理緒。
「手伝うのなら旅費はボクが持つ。嫌ならそれも構わない」
しばらくは会話も無くお互いの顔を見合わせているだけだった。
動いたのは理緒。お茶を啜り、
「分かった。手伝うよ」
湯飲みを大事そうに持って、
「そんな危険な仙士を放っとく訳には行かないし、ここで起こってる戦争にも関わってるみたいだし、仙士としては止めないと」
天然な理緒の目はいつしか真剣な目へと変わっていた。
「じゃ、これからよろしく」
差し出される手。
それを握り返す。手から伝わる暖かさが嬉しかった。
とりあえず、車をどうしようかと話していたが結論は出なかった。
食事も終わったので店を出て、ぶらぶらと歩いている。
「あ。佳奈さんに相談してみるってのは?」
手伝う事はしない、と言った手前恥ずかしいがそれしか方法は無いか。
守備隊の宿舎の玄関口で佳奈を呼び出してもらう。
駆け足でやって来るその顔には微笑が浮かんでいる。
「どうしました」
心に変化が生じたのを期待している様な口調。
それを制したのは、
「えっと、車を一台欲しいんですけど」
理緒の天然が炸裂して、佳奈の意気を削いだ。
「車、ですか」
なんの事なのか分からない佳奈に事情を説明する。
「……て事だから、そちらにもメリットはあるんじゃない」
うんうんと頷いている理緒。
「確かに、そうですが」
決めかねている様子。
「お二人はこれからどちらへ?」
意表を付かれて顔を見合わせる。
「夕音」
頭に浮かんだ地名をそのまま言ってしまった。
「夕音、ですか。ご存知かと思いますが夕音は今跋維党の支配下にありますが」
「大丈夫ですよ」
何を根拠に大丈夫なのかは分からないが、理緒なりに佳奈を説得しようとしているのは分かるので止める事はしなかった。
「しかし」
「あ。もしかして私たちも跋維党に入るかも、とか考えてるんじゃないですか?」
バツの悪そうな顔をする佳奈。
言い難い事をさらりと言える理緒と一緒に行動する事はある意味正解かもしれない。
「大丈夫ですよ。さっきも言った通り佳奈さん達にもちゃんとメリットがありますから」
きゃろきょろと辺りを見回して、佳奈の耳元に口を近づけて、
「私達は向こうに協力している仙士を倒しに行くんですよ」
そう呟いた。