史紀と理緒2
湯狭に心ならずも滞在している。
その理由は、
「あれ、ここじゃないとなると」
この女、理緒の財布を捜す為にあちこち歩かされている。
正直、こいつの財布なんかには興味は無い。
しかし、こいつはボクが立ち去ろうとすると袖を引っ張って行かせてくれない。
無理に振り払おうとするとその瞬間、目に一杯の涙を溜める。
そんな目で見つめられて、振りほどけるほどボクも鬼じゃない。
なので、嫌なのだがその目に逆らえずにいる。
それが悔しい。悔しくて悔しくてボクが泣きそうだ。
「警察かな?」
「届けてくれていたらな」
微かな期待だと思うが、一応行ってみる。
期待を裏切る事の無い展開。
肩を落とす、という表現がここまで合う奴は今まで見た事が無かった。
「はぁ〜」
ため息が目視出来そうな程深い。
「じゃ、ボクはこれで」
しゅたっと手を上げて袖をつかむ隙を与えない速さで去って行く。
後で小さく、呟く声が聞こえた。
情けをかけるな。ボクにはやる事があるんだから。
よく分からない罪悪感を必死に誤魔化して走っていく。
街道を一人歩いていく。
心には理緒の泣きそうな顔がちらちらと浮かんでいる。
立ち止まり、後ろを振り返る。
誰も居ないのは分かっている。
見ているのは湯狭の街にいる理緒。
「あぁ〜。くそっ」
地面を蹴り上げて、来た道を走って戻っていく。
街を駆け巡る。
人通りが少ないからすぐに見つかると思ったがそうはいかなかった。
「どこに居るんだ」
ボクは理緒と歩いた場所を順番に巡っていく。
公園、夕べ戦った路地裏、奢らされた店、軍の宿舎近く。
どこにも居ない。
昼を回っている。まさかとは思うが食い逃げなんかしてないだろうな。
万が一していたら、本気で蹴っ飛ばしてやろう。
とりあえずそれを心に近い、警察へ向かう。
良かった。食い逃げ犯は捕まっていない。
逃亡中という可能性はあるが。被害届けは無いから大丈夫か。
「あのアホはどこに行ったんだ」
あ。
玄関で立っている警察に聞けばいいんじゃないのか。
「あの人なら東の方へ」
と聞いたので東の方へ向かう。
とりあえず東方面をくまなく、とは行かないが聞き込みしつつ探索。
あのアホはどこにも居ない。
これで街から離れてたらどうしてくれようか?
探す相手が一人増える事になる。
才蔵達のことが済んだら探し出して、
「お」
物騒な事を考えていると、自販機の横に一人座っている腹を空かせた女を発見。
とりあえず、一発。
「痛っ」
まったく僕に気づかなかったのか、簡単に叩けた。
「心配掛けるな……あ」
「え」
ボクの顔を覗き込むのを、顔を逸らして避けつつ、
「なんて言ったの?」
思わず出た本心を誤魔化す様にまた一発。
「あたた」
大げさに頭を抑える理緒。
「行くぞ」
「何処へ?」
「とりあえず……飯」
時間は三時前。
走り回って小腹が空いた。
理緒の手を引っ張って近くのレストランに入る。
「お金」
「奢る。そのかわり、ボクの荷物持ち。それでいいだろう」
バッグを理緒の前に突き出す。
「分かった。それで」