湯狭の夜5
振りかぶる男を睨みつける。
「良い目だ」
振りかぶった薙刀を振り下ろす。
私にはスローモーションに感じられる数秒。
場違いな微笑み。鉄の臭いと暗闇。そして全てがコマ送りの世界。
空を切る音。
私に触れる直前の薙刀が軌道が変わり、私の頭の上を通り過ぎる。
呆気にとられる私。
それは男も同じだったらしい。
視線は私じゃなく、巻きついた何かの先に向いている。
事態が分からずに戸惑う私。
「誰?」
男が口を開く。
「人間同士の闘いに加わる気は無いけど見てしまった以上は」
そう言って薙刀を引っ張っている。
「お前が闘うのか?」
「貴方が退けばそれで終わるけど」
ぎりぎりと引っ張り合っている。
「じゃ、ついでにお前も」
男が迫る。
ひゅん、と空を切り巻きついていた何かが男の前方を打ち据える。
それで、男の足が止まった。
それでもまだ、ひゅんひゅん、と空を切っている。
「どうしたの?」
言葉はからかっている様に聞こえるが、声色は真剣だ。
何が動いているのかは、私の目では見切れない。
しかし、予測はつく。
「鞭……か?」
男の目にもはっきりと見えないのか、確信は無いがそうだと思っている様な言い方。
「見切れる?」
夜、明かりはあるがこんなに速く動く鞭を見切る事は無理だろう。
「やってみなきゃな」
男は怯まない。
楽しそうに薙刀を構える。
男の目には私は映っていない。
「貴方、何者?」
私の鞭を避け、攻めて来る男に声を掛ける。
「さぁな。お前は?」
声にはまだ余裕すら感じる。
輝きを増す薙刀。それで何者なのか解った。
なるほど。
「仙士? なら手加減は入らないね」
鞭を避け、薙刀を振るい、また鞭が空を切る。
闇に慣れた目で、鞭を操り闘う女を見た。
鞭を撓らせるたびに踊る長い髪。カツカツ、と地面を蹴る音と舞うスカート。
この隙に槍を取り、後ろから攻めれば勝機はあるが体が動かなかった。
目の前の闘いは私の入れる闘いじゃない。
私はただただじっとそれを見ている事しか出来なかった。
殺気。
それを感じて、足を止める。
ようやく見つけた。
感じたのは大きな建物へと続いている路地の先。
「ふぅぅ」
深く息を吐いて、ゆっくりと呼吸する。
「よし」
ぱぁん、と頬を叩いて気合を入れる。
殺気が徐々に強くなってくる。
誰かが男と闘っている。
が、構わずに、
「箒星っ!」
迷わずに割って入る。
ボクの事に気付いた二人はお互いに離れる。
もう一人の女は誰なのか知らないが、関係ない。
「まだ、居たのかっ!」
「当然!」
男の薙刀が箒星に向かう。
「飛盾!?」
驚く声を聞きながらその横を駆け抜ける。
二度、三度と軌道を変えて、
「このっ」
男の注意が箒星に向いた瞬間にボクが一気に間合いを詰める。
「生意気なっ」
箒星を男の眼前を通過させる。
「え、貴女は何者?」
女が声を掛けてくる。
「うるさいっ!」
男に集中してないと、さっきの繰り返しになる。
箒星が目眩ましになって軌道が甘い。
それを避けて、
「らぁっ!」
思いっきり顔を殴りつける。