湯狭の夜3
痛む体をベンチに休め、地面を睨みつける。
「大丈夫?」
隣に座っているのは軍人の女。
「何があったの?」
街灯に照らされたベンチに二人。
体を抑えたままのボクとボクを見つめる女。
「何もない」
顔を上げてそう呟く。
ソレが今の精一杯だ。
「何もないって。そんな訳無いでしょう? あれだけの戦闘をしておいて」
正直、嬉しいがうざったい。
そっとして置いて欲しい。優しくされたら泣いて……なんて事はないが、人には見られたくない状況なんだから。
「おい。誰も来ないぞ」
とりあえず、話を逸らす。
「何?」
「誰か呼んだんじゃないのか?」
「呼んでないわよ。ああでも言わないとどうにも出来ないでしょ。私も武装してないし」
まるでその強さを知っているかの様な言い方。
「お前、あの男を知っているのか?」
「夕音で一度」
その声にはボクと同じ心境だ、と言うのを感じた。
「よく無事だったな」
「手加減されたのと……」
言い淀む。
興味が無い訳では無いが、これ以上関わりたくない。
「じゃ、助けてくれてありがと」
「ちょっと待って」
立ち上がるボクを引き止める。
「何?」
「え、っと」
引き止めたものの話す事が無い様だ。
となると、
「おい。お前はボクを探してたんだろ?」
ボクは理由も無いのに追い掛け回されていたのか?
「あ。そ、そうよ」
「なんの用だ?」
指をくるくると回して、空を見上げる。要するに、
「何も無いんだな。ボクは帰る」
「ど、何処に帰るの?」
「言う理由が無いだろ」
一人ベンチに残り、居なくなった彼女の幻影を思い浮かべる。
言われてみれば会ってどうしようとしていたのだろうか?
なんとなく気になった。
では、初めて会う理由としてはどうなのか?
「うーん。……あ」
ここで考えてる場合じゃない。
宿舎へと戻った。
ホテルに戻り、お風呂に入る。
「いった〜……」
擦りむけた背中にお湯が沁みた。
くそ、もっと強くならないと。
あの男は本気じゃなかったのに、足元にも届いてない。
例え箒星があっても同じ結果になっていただろう。
支障達が敵わなかった相手だからしょうがない。
では、済まない。済ませたくない。
湯船に顔を沈めて泣きそうな自分を覆い隠す。
……この悔しさもおもいっきりぶつけてやろう。
そう考えるのがボクだ。
あの男はまだここに居る。確信は無い。
手には箒星。
夜の街を駆け回れば見つけられるかもしれない。
「今度こそ」
覚悟と決意を心に刻んで走り出した。