史紀参上
「ん」
嫌な夢を見た。
薄く目を開け、目の前の壁を見る。
この夢を見るときは決まって、
「お客さん! お客さん!」
ドンドン、とドアを叩く音と慌てた怒声が聞こえる。
「何?」
不機嫌なボクの声がかき消される。
「お客」
その声が突然消えた。
「なんなのよ?」
ベッドから降りて、ドアに向かおうとしていた所で、
「あれ?」
窓の外が明るい。
時計は午後十二時前。間もなく日が変わる時間なのに明るい。
「ん〜?」
ボクが状況を確認しようと考えていると、一、二……五人の武装した男が入ってくる。
「まったく。夢の所為だ」
あの夢を見るといつも面倒な事か、嫌な事が起こる。
ボクの呟きが聞こえたのか、怪訝な顔をする男達。
「お前一人か?」
「見て分からない? 六人いるでしょ?」
「他の連中はどこに?」
「分かんないの? ボクでしょ、次に」
乱入者達を順に指差す。
「分かった?」
「バカにしてるのか!?」
「してないよ。正直に答えただけ」
とりあえずボクは荷物を取りにいく。
「動くな!」
「なんで?」
男を睨む。見たくない夢と叩き起こされたせいで苛立ちが声に乗る。
ボクの言葉に反応した男が一人、ボクの首筋に刃が突きつける。
「生意気な小僧だ! その首を」
言い終わる前に、ボクが男の鳩尾に肘打ちを入れる。
声もなく倒れる男。
「小僧! 何を!」
「誰が小僧だっ!」
向かってくる男を一人殴り倒し、蹴り倒す。
二人倒した所で男達が間合いを取る。
男達を見ながら、鞄を蹴り上げ両手で取って、盾を取り出す。
「まったく」
鞄を背負い、盾を装着。
「余計な手間をかけさせてくれる」
ドアの前に立っている男に狙いを定めて、
「邪魔っ!」
間合いを詰める。
慌てて突き出した槍を左に避けて、顎に裏拳。
残る二人が攻めてくる。
「なんなのよっ!」
左腕に装着した箒星が輝く。
一人の槍をそれで受け止め、もう一人の突きを避け足を払い体勢を崩させて、
「退けっ!」
背中に一撃。
箒星を挟んで男と睨みあう。
ぎりぎりと押してくる。
すっと、後ろに飛んで間合いを開ける。
「アホ」
ボクが後ろに飛んだから男は体勢を崩す。
足を蹴り上げ、それで終了。
「ボクのどこが小僧なんだ」
洗面所の鏡に映るボク。
青い髪のショートカット。まっすぐにボクを見つめる鏡のボクの目はきらきらと輝いている。
「に」
笑うと白い歯がこぼれる。
「この顔のどこが小僧なんだ」
いつも通りの可愛いボクが鏡の中で微笑んでいる。
まったく、見る目がないんだから。憤慨しながらも帽子を被る。
「よし」
倒れた男達を跨いで、一張羅のジャージを羽織りバッグを持って部屋を出る。