士威街道追撃戦
「どうします、追いますか?」
一通りの報告を済ませる。
「いや、目的は達したし、今は敗走する楽兵を追っても利は無い。兵を休ませてやってくれ」
何より俺も疲れている。
「了解」
兵達に休息を取らせる。そして、小隊長達を集めて、
「休息後、被害報告と街の巡回。本隊到着後復興作業を開始」
いつも通りの確認と報告。
の筈だったが。
「あれ、一隊足りないが?」
居ないのは仲間内でも評判の悪い『麻路』が率いる一隊。
「あの……その」
口が重い。なるほど。
「帰ってきたら、俺の所に来る様に言っておいてくれ」
面倒だが、しょうがない。これも上官の役目。
盗賊や夜盗が主体の部隊を率いてきたのだからしょうがない。
おそらくもう始まっているだろう、北の空を見る。
帰ってきたら軍法に照らした罰則を与えないとな。
そうしないと軍を維持出来ない。
出来得るならば、それを超える功を上げて欲しいものだ。
その手柄がほかの部隊の発奮に繋がる。
盗賊主体の部隊には罰則によって規律を高めるよりもこれ以上ない事なのだが……。
夕音襲撃後、私達は生き残った兵達を集めて『士威街道』をまっすぐに北へと進路を取った。
普段は静かな街道に、エンジンを唸らせ走り抜ける車が四台。
「少佐っ! 後ろに砂塵が!!」
「くっ、もう追い付かれた!?」
思ってたより速い。
流石、と敵を褒めてる場合じゃない。
街道にエンジン音以外に銃声が響く。車体に何発か当たる。
「射撃手!! 用意!!」
先に行った市民達との差はまだある。
ここを守らないと。
速度を落とし十分引き付けて、
「撃てぇー!!」
休む間も無く放たれる弾丸。
後ろを確認する。砂塵が舞っている、それを抜けてきた車が……五、六、七台。
「射撃手っ!」
再び街道に銃声が響く。
まだ、数が多い。全部は無理でも、狙う事で相手の足を遅らせる事が出来れば。
私の願う通りに運ぶほど現実は甘くない。
弾丸は無くなり射撃手は敵の攻撃により徐々に減り、車の速度を上げる事も出来ない。
「少佐ぁ」
運転手が弱気な声を出す。
その間も銃撃は止まらない。
「きゃっ!」
大きな衝撃音と共に隣を走っていた車が視界から消えた。
「くっ」
直後、私達への銃撃は無くなった。
銃撃がその車に集中しているのだろう。
手を握り、目の前に持ってきて目を閉じる。
ゴメン、済まない。
今の私達には助ける事も何も出来ない。
出来る事はただ、逃げる事だけ。
「少佐ぁ」
声が涙声になっている。
「各車、捨てられる物を全て捨てなさい。それで少しでも時間を稼ぎましょう」
捨てた物が敵の進路に行けば……。
運任せの作戦だがしょうがない。
私は後ろに行き、手当たり次第に投げ捨てる。
その中に、
「これは?」
小型のバイクがそこにあった。
「手伝います」
射撃手が手を出す。
「いえ。これで向かいます」
前においてある槍を取り、バイクのエンジンをかける。
そのまま後方から車から降りて、
「先に行きなさい! 私も後から行きます!」