夕音攻防戦
夕音。楽の国内でも大都市と呼ばれる街。
普段は忙しなく人も物も動くこの街は今、壊滅の様相を呈している。
先頭に立つ男の剣が振り下ろされる。風が吹きそれを合図に攻撃が始まった。
迎え撃つ夕音守備隊。
男の剣が振るわれる度に突風が吹き荒び、その後に跋維党の攻撃
砂塵が舞い視界が遮られる敵の数、展開を見誤り背後に回られる。
次第に守備陣に綻びが生じる。
守備隊は光線するも跋維党の勢いに押されて劣勢になっていく。
戦闘は市街地にまで広がった。
我先に逃げる市民に兵隊達。
「くそ……」
私は踏み止まろうとするが、
「少佐! 退却だっ!!」
後ろから大佐の怒鳴る声が聞こえる。
「しかし、市民が逃げる時間を稼がないと」
「ここでは、何も出来んだろうっ!」
燃えるマンション、崩れる家。
その前を駆け抜ける市民。
非難する人波の中、更なる悲鳴と銃声が聞こえた。
ここまで進入を許した!?
慌しくなる人波。パニックになると被害が増える。
これ以上は増やしたくない。
「落ち着いて非難してください!!!」
声の限り叫んで、後ろに下がる。
「少佐っ待てっ!!」
「私は市民を守る為、軍に入ったんです!!!」
市民の誘導を任せて、私は市民に声を掛けながら後ろに向かう。
「おや? まだ逃げないのか」
一人の男の前に、何人も倒れている。
男は薙刀を持ちにやにやと笑っていた。
名乗る必要も無く聞く必要も無い。
倒れているのは、皆、私と同じ軍服を着ている。
スッと腰を落とし、一呼吸入れて、
「やぁ!」
槍を突き出し攻撃する。
「お。闘るの?」
薙刀をひらりと回し、振り払う。
槍を返しそれを受け止める。
なんて力だ……腕が痺れる。
「良い反応だ」
嬉しそうに笑う男。
戦闘狂か。それに付き合う気は無い。
しゃがんで薙刀を外す。男はバランスを崩し、
「お」
踏み込んで、槍を捻る。かちん、と音がして槍が分かれる。
右手を振り払い、一歩踏み込んで左手を突き上げる。
後ろに体重を移動して避ける男。
その眼前で切っ先が止まる。ぎりぎりの間合いを見切られた。
「何それ? 始めてみた」
嬉々とした表情を浮かべる男。
場違いな表情と言葉に戸惑うが、すぐに気持ちを引き締め、
「はっ!」
攻めに出る。払いから突き。男の左に飛んで攻め手を変える。
右手に持った薙刀の反応がさっきより遅い。
「残念」
一閃。
短い言葉を言い終わると同時に、私の槍は打ち払われた。
飛ばされた槍が地面に突き刺さる。
私の首元には薙刀が当てられている。
「ま。相手が悪かったと思え。女」
これまでか。為す術も無くここで、
男を睨みつける。
「あっはっはっは……。じゃ、さよなら」
「少佐っ!!」
「お、また来た」
首もとのの薙刀がはずれた。
声の主に目を向ける。
「大佐」
「逃げ」
その言葉を最後に大佐は力尽きた。
「さて、邪魔が入ったが」
呆ける私。何をしなきゃ分かっているのに体が動かない。
動け、動け。
頭は動く様に命令を出す。体は全てを拒否するかの様に固まったまま。
男は私を振り返り、嬉しそうに笑いながら、
「ま、彼の尊い犠牲に免じて見逃してやるよ」
男は薙刀を払い、そのまま立ち去った。