10-強い奴らを暗殺する(出来るとは限らない)
両目を狙って薙がれた銀の光を、俺は反射的に引いてかわした。バックステップで距離を取りつつ襲撃者を見る。ピッチリとした黒い服に身を包み、顔すらも覆い尽くし隠している。両手にはナイフを握っている、ツンとした臭いが鼻に突いたことから毒を縫っていると推測出来る。殺し屋、というわけか。
「何の目的で来たか知らねえけど……
加減してどうにかなる相手でもなさそうだ」
ファンタズムROMを取り出し、変身しようとした。ところで何かが飛んで来た。かわし切れずROMが弾き飛ばされ、階下に落ちて行く。ロッジの側面から上がってきたもう1人の暗殺者だ。更に逆方向からもう1人。
「……殺し屋さん、ガキ1人にちょっとやり過ぎじゃないの?」
問答無用とばかりに3人は一斉に飛びかかって来た。ロッキングチェアの脚に足を絡め投げ飛ばし、正面の暗殺者を牽制する。横合いから飛びかかって来た2人が喉と膝を狙ってナイフを繰り出す。連続ステップでそれをかわすが、絶え間なく繰り出される斬撃を前に反撃の機会を失う。こいつら、練れているな……
同時に繰り出される左右の刺突。俺は後方に跳び室内に入った。ロッジと酒場とを隔てる扉は狭く、人1人がようやく通れるくらいだ。彼らとしては絶対に飛び込みたくないだろう、だが入らざるを得ない。俺を始末するために。
右側の暗殺者が一歩踏み込み、右のナイフを振り上げて来た。これは読めている、狭い室内で行える行動はそれほど多くない。突きか、振り上げか。俺は地を這うように振り上げられたナイフを踏みつけた。弾き飛ばされるナイフ、引き戻した左のナイフを突き出そうとするが、遅い。一本貫手の形を作り、喉に拳を叩き込む。
白目を剥きのけ反る暗殺者。その影から左の暗殺者が室内に入り込み、側面から俺を襲おうとした。左のナイフを逆手に持ち、右手を柄頭に当て、体重を乗せた刺突を繰り出してくる。俺は打った暗殺者の襟首を掴み、引き寄せた。白目が黒目に変わる、脇腹を鋭く貫かれてしまったからだ。盾越しに俺は暗殺者を壁に押し付けた。
始末しようとしたが、ダメだ。殺しきれない。最初に牽制した暗殺者が再び動き出したからだ。暗殺者は鋭い跳び蹴りで俺の喉を狙った。上体を逸らし回避、更に地を蹴りサマーソルト気味に蹴り上げる。慣性に従って進んだ暗殺者の股間を俺は蹴り上げた。何かを潰す嫌な感触。暗殺者は激痛に呻き、背中から落ちた。
地面に降り立つ。その眼前に銀色の光。突き出された手首を掴み、捻り上げる。暗殺者は激痛に叫び、ナイフを取り落した。更に捻り男を床に引き倒す。
「手前らいったい何者だ? 殺し屋だろうが、誰を殺しに来たんだ?」
暗殺者は唇を歪めるだけだ。骨の5、6本くらいへし折ってやらなきゃならんか、と思った時背後でガラスが割れる音がした。あの部屋はドラコさんが使っている部屋だ。そりゃそうだな、ここで殺したい相手なんてあの人しかいないもんなぁ。顔面を床に何度か叩きつけて気絶させ、ドラコさんの部屋に向けて急いだ。
部屋は施錠されている。舌打ちし、扉を蹴る。蝶番が悲鳴を上げ、3度繰り返すと扉は壊れ、倒れた。中ではガウン姿のドラコさんが暗殺者に囲まれていた。剣で暗殺者を牽制していた彼の視線が、一瞬俺の方を向いた。
その瞬間暗殺者が動く。俺も動く。一番手近にいた奴の襟首を掴み引き寄せようとした。すると、それを予測していたそいつは電撃的な速度で振り返りナイフを薙いだ。手を放し屈み頭部を狙った一撃を回避し、全身のバネを使って体を跳ね上げアッパーカットを繰り出した。暗殺者の体が瞬間、宙に浮いた。
ドラコさんは1本の剣で巧みに襲撃者を捌いている。斬撃を受け流しその場で回転、逆方向から繰り出された刺突を滑るように回避。更にその場で剣を薙ぎ、暗殺者2人を吹き飛ばした。さすがに強い、伊達に王はやっていない。
「お前が彼らを呼び止せたのか、ローズマリー」
うん? 浮かせた暗殺者に回し蹴りを叩き込み吹き飛ばすその瞬間まで、俺は彼女の存在を意識していなかった。だがよく見てみると確かに、部屋の片隅にローズマリーさんがいる。激しい憎悪の炎を目に宿らせ、ドラコさんを睨む女が。
「不意打ちでも殺せないなんて。あなたはやはり化け物だわ……!」
「なぜこうしたのか、理由を聞かせて欲しいものだな。ローズマリー」
ローズマリーさんは答えず、両手に魔素を収束させる。ドラコさんでさえ驚いた様子だ、彼女が魔法を使うことなど想像もしていなかったのだろう。俺は止めようとした、だが横合いから飛んで来たナイフが俺の行動を阻害した。彼女の魔法は完成し、俺たちと彼女たちを隔てるようにして炎の壁が出来上がった。
「っちい! 何だよ、これ……!」
「マリー、お前いつの間に魔法が使えるように……!」
ドラコさんでさえも驚いている。
彼女が魔法を使える、ということに。
「この戦いを終わらせる、永遠に。そのためにあなたは邪魔なのよ……!」
ローズマリーさんと暗殺者2人は開いた窓から脱出した。炎は延焼することなくすぐに消えるが、2人を追跡するには少々距離が開き過ぎているようだ。
「仕方ねえ、追い掛けます。ドラコさんはここにいてください」
「頼んだぞ、久留間くん。それと……彼女は絶対に殺すな」
鋭い声だった。俺は振り返り、その目を真っ直ぐ見つめた。
「あの女はアンタを殺そうとした。これからも殺そうとするでしょう。
何故です?」
「彼女が私の妹だからだ、久留間武彦。もう一度言う、彼女を、殺すな」
折れてくれる気はないようだ。ドラコさんからの恨みを買って王国を敵に回すのも面白くない。俺は仕方なしに頷き、部屋を飛び出した。
酒場の中は段々と慌ただしくなって来る。暗殺者たちは正面からの戦闘はあまり得意ではないように思えた。3対1でドラコさんを殺せなかったところからも明白だ。ならば奴らはどうする? 逃げるだろう。追い掛けなければ。
ロッジに飛び出し、柵を飛び越え1階へ。ショートカットの意味合いもあるが、もう1つ落とされたROMを取り返すためというのもある。幸い雪溜まりに落ちたROMはあっさりと見つけることが出来た。俺は足跡を探し走り出した。




