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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第七章:転移者戦争 あるいは神の代理戦争
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09-何も殲滅するだけが戦争じゃない

 王国と連合は丘陵地帯を挟んで対峙している。

 いまのところ敵に動きはない。


「いいんですか、放っておいて? このままあいつら逃げちゃうんじゃ……」

「一度ぶつかり合って終わり、などと考えているのならばこうはせんだろう。

 向こうにも退けない理由がある。それが何かは分からないが、好都合ではある」


 それはこの期に乗じて向こうを殲滅してしまいたい、ということだろうか。大義名分はこちら側にある。敵は侵略者なのだから。ドラコさんは手を叩き誰かを呼んだ。天幕の向こう側から、それは音もなく現れた。


「お呼びでしょうか、ドラコ様……って、何であんたたちがここに」

「よっすどうも。意外と馴染んでんなぁ、お前さんも」

「馴染んじゃいない。ここ以外いる場所がないってだけ。それよりも……」


 苫屋春香は視線を俺からドラコさんに戻した。


「西方開拓者連合は西北西22kmの地点にある村を拠点としているようです。

 穀倉地帯ですが畑は焼かれており、物資を調達することは出来ないかと」

「現地からの略奪で物資を賄うつもりだったのだろうが、当てが外れたな」


 ドラコさんは満足げだ。

 いまの中では最良、くらいのものだろうが。


「ともかく、奴らを押し返さねば停戦さえも覚束ない。部隊を編成せねば」

「え? 停戦、って……もしかして、攻めて来たあいつらを許す気なんですか?」


 理解出来ない。あれだけのことをした連中を手打ちにするなんて……


「このタイミングで攻めてきた意図が読めない。

 大規模侵攻があるなら物資が豊富な春か夏を選ぶはずだ」

「そんなの相手の都合次第でしょう。んなことを考えている暇は……」

「だからこそ意図を考えなければならない。不利を承知で攻めて来た意味を。

 私にはこれが、連合の生き残りを賭けた大博打として見ているのだがね」


 生き残りを賭けた大博打……ということは。


「マーブルが攻めて来て、そのせいで危機的な状況に陥っている?」

「私はそう考えている。マーブルは誰もが直面した現実的な脅威だ」


 なるほど。だから多少のリスクを飲んでこっちに攻撃を仕掛けてきたのか。


「確証はないがね。何人か、指揮官クラスを捕虜にすれば確実性は増すだろう。

 マーブルへの対処を行わなければならないのに、人と戦うなど私はごめんだな。

 新時代を迎えるためにも、西方とは上手い付き合い方をしたいと思っている」


 ここで絶滅戦争に持ち込んでもうま味はない、ということか。この男は先のことを見据えて行動している……そのせいでいまがおろそかにならなければいいのだが。もっとも、この国の行く末など俺が考えても詮無きことではあるが。


「いずれにしろ、この国から彼らを追い出さないことには始まらないな。

 それが成ってこそようやく手打ちの条件が整う……騎士団長、あるか!」


 ドラコさんが言うと、重鎧に身を包んだ男性が酒場の中に入って来た。


「西北西22km、オーリスの村を奪還する。部隊を編成しろ」

「分かりました。周辺一帯の地理に詳しいものを中心に編成します」


 鎧をガチャガチャとやりながら騎士団長は出て行った。


「苫屋くん、キミはオーリスのことを現状一番よく理解していると言える。

 キミは案内役を務めてくれ。作戦の成否はキミに掛かっていると言っていい」

「かしこまりました、ドラコ様。ご期待に沿えるよう尽力します」


 ドラコさんは微笑み頷き、酒場から出て行った。外に出て行ったドラコさんの周りにはひっきりなしに人々が行き来する。ある程度の裁量を部下に与えているようだが、それでも彼が処理すべき情報は多いのだろう。改めてすごいと思う。


「責任重大だな。俺もそんなに信用されてみたいもんだぜ」

「茶化すな、久留間。私はやるべきことを見つけた。それをやるだけだ」


 彼女の雰囲気は、いままでのそれとは違っていた。責任感と仲間意識が強い子ではあったが、いまは研ぎ澄まされた刃のような鋭さと冷静さを感じる。


「……変わったな。ドラコさんって、そんなにいい雇い主なのか?」

「やるべきことを見つけたんだ。それを与えてくれたのがあの人ってだけだ」


 彼女は真っ直ぐドラコさんの背を見つめた。大きな背中を。


「あの人の夢を聞いてるとさ。強くなって偉くなるってのが空虚に思えて来る。

 この力をもっと大きなことに、もっと多くの人のために使いたいって思うんだ。

 お前だって、この力をそんな風に使えればもっといいって思うだろう?」


 分からないでもないが……それは依存なのではないだろうか? 結局のところ思考の主体を他人に頼っているということに変わりはない。安仁屋さんと一緒にここに攻め入ってきた時の彼女も、いまの彼女も、俺には同じくらい空虚に見える。


 それでも、いまの彼女は楽しそうだ。空っぽの器にも詰め込めるものはある。この場合はドラコさんの思想だが……それで満たされているならば、あるいはそれは幸せなことなのかもしれない。俺の無言を肯定と受け取ったのか、彼女は軽く別れを告げて騎士団長の方に行った。部隊編成の詰めを行うのだろう。


(……ま、他人の思想は気にしない。俺がやるべきことをやる……)


 考えながら、思った。ドラコさんに詰め込まれた考えに従う苫屋が空虚ならば、条件反射的に設定した目的に向かって進む俺も空虚なのではないだろうか。


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