09-本当に守らなきゃいけないものは何なのか
王都危機。
その報はすぐさまエラルド中を駆け巡って行った。
「絶対に反対です。いまのエラルドから兵力を動かすべきじゃあない」
「かと言って、このまま手をこまねいていたら絶対に共倒れになるよ?」
「お前さんの気持ちも分からんでもないが、ここは私情を優先すべきじゃない」
目下の話し合いは、攻撃を受けた王都に兵力を送るか否かだ。俺は否を繰り返したが、レオールさんもナーシェスさんもそれに取り合わなかった。シオンさんという最高指導者を失った今、暫定的にこの領土の支配権は2人に移譲されていた。
「このままじゃエラルドを守り切れません。絶対に行くべきじゃない」
「ここには教会軍も駐留しているし、多良木くんやハルくんもいるだろう。
ある程度の勢力であれば撃退出来るだろうし、過剰な戦力を送るとは思えない。
ここは有数の穀倉地帯だけど、ここじゃなければいけないっていうのもない。
ましてやここから先にあるのは不毛の大地だけ。戦略的価値も高くない。
余剰兵力は他所に回すべきだ」
「だからって……レニアとファルナを危険に晒すわけにはいかないでしょう!」
2人とも俺の強固な態度にいい加減うんざりしている、という風だった。
「何度言ったら分かる、小僧! ここだけの問題じゃねぇンだよ、もうな!」
「そんなこと俺が知るか! 国同士の争いなんて勝手にやってりゃいい!」
「嘆かわしいなあ。義姉さんが見たらキミのこと、どう言うだろうね?」
言葉に詰まる。
もういない人を持ち出してくるなんて卑怯だ。
「下がってろ、小僧。お前は冷静に話し合いが出来る状態じゃねえ。いいな。
元より手前にエラルドのことを決定する権利なんぞねえ。分かったな!」
レオールさんに一喝され、俺は部屋から追い出された。
クソッタレ。
俺は中庭に出た。が、あまり良くなかった。中庭は中継基地めいた様相を呈しており、様々な物資や食料が馬車に積み込まれていた。メイドや使用人の人々がせわしなく走り回り、準備を行っている。戦争のための準備を。ため息が出て来る。
「……久留間、さん? どうしたんですか、こんなところに……」
声を掛けられ振り返ると、レニアとファルナの姉弟がいた。
「追い出されちまったよ。こんなところにいても邪魔だ、ってよ」
「そっか。それじゃあ僕たちと一緒だね。出来ること、何もないから」
ファルナは寂しげな笑みを浮かべた。レニアもどこか寂しげだ。
「……こんなところで突っ立ってるのもなんだ、茶室にでも行くか?」
2人は頷いた。俺たちは中庭に設置されたティーラウンジへと向かったが、しかしそこにも先客がいた。丸テーブルに地図を広げて、それとにらめっこをしているのはハルとリニアさん。その横から橡が何事か口を出している。
「おお、久留間。戻っていたか。大変なことがあったようだな」
俺はリニアさんに頭を下げた。彼女もそれ以上のことを言う気はないようで、すぐに地図に目を戻した。エラルド、王都間の地理を表示した地図だ。
「……本当に行く気か、ハル。そんな危険なところに、わざわざ」
「もはや一領土で対抗出来る事態ではないからな。転移者どうこうではない。
もしかしたら我々の常識を超越した存在……神が関わっているかもしれない。
備えて備えすぎる、ということはないだろう。何が起きても不思議じゃない」
ハルも、リニアさんも、橡でさえも戦っている。
いま、この瞬間も。
「……久留間、さん。ドラコ義兄様を、助けてあげてください……」
「……レニア。ダメだ、俺にはそんなことは出来ない。俺は、もう二度と」
「失いたくないのは僕も一緒だよ、武彦。でも僕たちじゃ無理なんだ、まだ。
だから僕たちは、それが出来る人に頼むことしか出来ないんだ……
情けないし、卑怯だけど、でも」
レニアとファルナは俺の目を真っ直ぐ見つめて来た。赤と青の瞳が。
「お願い。大切なものをどうか、守ってください……」
それは、切なる願い。同時に、俺はそこにあるはずのない面影を見た。あの人がもし生きていたなら、自分の命の勘定など置いてそう言うだろう。だからこそ、あの時、あの人は笑って死んだんだ。ああなれないし、なりたいとも思わない。
それでもそれに応えるのが俺のやるべきことなのかもしれない。
「……ハル。どれだけの兵力を向こうに送る算段になってるんだ?」
「歩兵150に魔法使い30、いずれも魔素強度は0から1だ。
指揮官としてリニア。それから15日分の食料と水を持っていくつもりだ」
「減らしてくれ。こっちの防備が必要だ。減らした分は俺たちがやる」
腐ってなんかいられるか。
守ってやる、レニアとファルナの願いを。
その邪魔をする奴がいるんならば容赦はしない。
全部俺がぶっ飛ばして越えてやる。
「俺『たち』? 久留間くん、キミは戦力にアテがあるのかい?」
「この期に及んで、あいつらだって拒否するような真似はしないだろうからな」
あいつらにだって守りたいものがあり、取り戻したいものがある。
だったら乗ってくるはずだ。
そうでないのならば、あいつらは仲間になっちゃいない。
「ディメンジアの連中にも手を貸してもらう。化け物には化け物を、だ」




