08-時代の終焉、あるいは新たな時代の始まり
転移者の敵。人類の敵。
その言葉が俺に重くのしかかって来る。
「キミが女神によって召喚された人類の敵、ねえ。でもそんな感じはあるな」
「黙ってろ、橡。確かなことなのか、武彦? お前は……」
「確証っていうか、説明出来るようなものはないよ。でも多分、確かなことだ。
俺はこの世界の神と敵対する女神にこの世界に送り込まれた。それは確かだ。
そして俺がやったことを考えれば、そうしなけりゃ納得出来ないだろ」
俺の体を好き勝手操り、多くの人間を殺戮してくれやがったということだ。
あの女神、絶対にもう一度会ってぶん殴ってやる。絶対に許さない。
「私も久留間の意見に同意する。例の黒い剣を解析してみた」
壁にもたれかかり、沈黙を保っていたシャドウハンターが話し始めた。
「寝てたわけじゃなくて、調べ物をしてくれてたのか。ありがとな」
「茶々を入れるな。あの黒い剣からはファズマが検出された」
ファズマが?
しかしあの剣は向こう側の世界のものではないはずだ。
「ファズマ、というと武彦の鎧を形作っているという力……だったか?」
「そうだ。それに、あの剣からは短時間だが通信と思しき波形が検出された。
すでに切断されており、それを追跡することは出来なかったのだが……
考えるに、ファズマのデータを常に何者かに送っていたのではないだろうか?
その何者かというのは……」
「女神のこと、ってわけだ。ふざけたことしてくれやがって、あのアマ」
歯を噛み締める。自分の情けなさに嫌気がしてくる。あの女が何者であるのか考えることもせず、ホイホイとあいつの言うことに従ってしまった。そもそも出会いのシチュエーションからして不自然だったのだ。あの場でぶん殴ってでも止めるべきだった。覆水盆に返らず、最悪の事態を避けられただけでもよしとするしかない。怒りは依然あるが。
「データを送信していたか。どんな意図があってそんなことをしたんだろう?」
「そんなことを考えても仕方がないだろう。実際目の前にいない相手の……」
「いやいや、考えてみることは大事さ。それが突破口になることもある。ね?」
橡は俺に向かってウィンクして来た。
腹立つ仕草だが一理ある。
「なぜ久留間を選んだのか。それはファンタズムの力を持っているからか?」
「確かあの女神は、俺をこっちに送る力もないとか言ってた気がするな」
「と、なると僕たちがこの世界に引き寄せられてきたところに便乗したんだね。
ははっ、まるで密輸の手口だな。大きな荷物に小さな荷物を紛れさせるんだ」
1クラス40人+教師1人という大人数を引き寄せるのに合わせて自分の荷物持ってきた、ということか。この方法なら元々引き寄せる予定にあったものだから、別の神に気付かれることもない。気付いた頃には手遅れになるということだ。
「そして、ファンタズムの力を必要としたのは……」
「ファズマの力を狙ったんだろう。逐一データを送信してたってんだから」
「すなわち女神とやらはファズマの力を解析し、自分のものにしたがっている。
今回の件はある程度制御の方法を理解した、ということかもしれないな」
確かに、あの時はファズマの制御が効かなかった。
「すッ、すいませ……わぁっ、どうしたんですかレニア様!?」
慌ただしくアルフさんが入って来た。
と思ったらレニアも入って来る。
「久留間、さん。その、怪我とかありませんか?」
「……心配してくれたのか? うん、俺は何ともない。ありがとな、レニア」
「それも、そうだけど……あなたの、心。傷ついていない?」
レニアは真剣な表情で俺を見上げて来た。
少し、傷ついている。しかし。
「大丈夫だ、レニア。俺は負けない。この痛みも乗り越えて、戦うさ」
精一杯彼女の安心を勝ち取ろうとしたが、不安げな表情は変わらない。
「……で、いったい何があったんだい兵士くん? 慌ただしいじゃないか?」
「へっ、兵士くん? え、えーっと……ほ、本国から伝書が届いたんです」
まだ夜は明けたばかりだ。
まさか夜を徹して飛ばして来たというのか?
「救援を求む。現在西方開拓者連合の攻撃を受けている……とのことです!」
歴史の歯車は回り出した。
俺たちが、俺が望むものとはまるで違ったが。
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
「っはぁっー……! はぁっ、はぁっ、痛ェッ、痛ェよォッ……!」
「だ、大丈夫六郎くん? い、医者の所まで連れて行くから……!」
テレポートの力を使い、彼らは拠点まで戻って行った。ここは大陸の何処かに存在する村落。彼らはそれを改良し、村人を奴隷化し、必要とあらば旅人をも引き込みこの村を作り上げた。たった10人でこの村を支配していたのだ。
もっとも、その戦力は度重なる戦闘で減少し、いまや彼らとテレポーターを残すのみとなっている。早苗と知美は不安だった。村人が反乱をするのが、ではない。勝てると勘違いして反乱を起こし、人々が八木沢によって惨殺されることが、だ。片腕を喪失しようとも、彼が持つ加護の力は幾分も遜色がないのだから。
「チクショウ! どうして、どうしてこんなことになった! エエ!?」
「わ、私たちが弱いから……私たちが足を引っ張っちゃったから……!」
激高する八木沢を2人は必死でなだめる。
2人の脳裏に邪悪な発想が浮かび上がった。
いまならば八木沢を殺せるのではないか。
暗殺可能だ。
首に縄をかけ、前のめりに重力を駆ければ勝手に自重で死んでくれる。少なくともこれまでよりもずっと楽だ。八木沢は2人のことを完全に侮り切っており、そして注意力を喪失している。いまならば……
『我が子よ、我が眷属よ。立て。
お前たちに与えた力はそんなものではない』
突然、3人の脳裏に低い男の声が響いた。一様にビクリと震え、辺りを見回す。しかしそれらしき声を発する男はいなかった。人っ子一人すらいない。
「まさか、あの時の神様……!? これ以上の力をくれるってのか!?」
『左様! 悪魔を殺すために、世界に真の自由をもたらすための力を与えよう!
その力を振るい、悪鬼羅刹を滅ぼす無限の闘争へと身を投じる覚悟はあるか!』
「ある! もちろんある! もっと力を、もっと大きな力をォォッ!」
八木沢六郎はある意味で純粋だった。どんな力であろうとも……それが他人に貰った力であろうとも、それを自分の力であると受け入れることが出来た。ほんの僅かでもプライドがあれば跳ね除けるような提案も、彼はすんなりと受け入れた。彼の心を守るはずのプライドは、学生生活の中で粉々に砕かれていた。
電撃が彼の体を駆け巡る。ニューロンの奥底、封じられてきた力が蘇る。八木沢の全身を包むのは、これまでとは比べ物にならないほどの力、そして全能感。失われた肘から先を光が包み込み、再形成。新たな腕がそこに生じた。
「ッハ……! ハッハッハ! スゴイ、これが! 俺の力か!」
闇の中に、闇に心を浸した男の叫び声が響き渡った。




