表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第六章:そして始まる変革の時
82/245

08-久留間武彦の帰還

 黒い剣が彼の体から外れると同時に、黒い炎は勢いを減じた。炎は剣に吸い込まれて行き、禍々しい甲冑は次第に元の姿へと戻って行った。久留間は極度の疲労状態であるかのように片膝をつき、呼吸を荒らげた。

 ハルは吹き飛んだ剣を回収しようとした。ところで、すべての時間が元に戻った。ほんの数秒間だったが、ハルにとってはまるで数分、数時間であるように感じられた。異常感覚の喪失によってしばしの間、ハルは現実の認識さえおぼつかなくなった。それでも彼女は意志の力を振り絞り、飛んで行った剣の行方を追った。


「こいつが力の源か……! それなら、こいつを使えば!」


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆


 吐き気を催すほどの倦怠感。いったい何があった?

 まるで俺の体が俺の物でなくなったような、そんな感覚があった。おぼろげながら、何人か殺した覚えがある……まあ、それはいい。どうせ敵だ。分からないのはあの激しい憎悪、そしてハルさえも殺そうとしたということだ。俺の憎しみと誰かの憎しみがシンクロしたような、そんな気がする。


「こいつが力の源か……! それなら、こいつを使えば!」


 声が聞こえる。あれは八木沢六郎。ほんの数カ月で顔さえも見なくなった元クラスメイトは何故か学ランを着ている。転校しようとしていたのだろうか? それで試着をしているうちにこっちの世界に送られた? どうでもいいことだが。

 彼は黒い剣を持っている。剣とは言っても短剣サイズ、刃渡りは30cmくらいだろうか? だが磨かれた黒曜石めいた漆黒の刀身は見ていると吸い込まれそうになる。あれはいったいどこにあったものか……脳がチリチリと痛む。


「武彦、あいつから剣を取り返せ! あれは、危険なものだッ!」


 膝を突き、脂汗を流しながらハルが叫んだ。どうしてこんなことになっている? 破壊の痕跡がそこかしこにある。こいつらのせいか? ならば許せない。


「す、スゴイよ六郎くん! それがあれば誰にも負けないねッ」

「そうだ、これがあればそいつにだって負けないぞ!」


 八木沢は勝ち誇り、風紀委員の2人が媚びた声を上げる。その声色にはいつ爆発するか分からない危険な爆弾を扱うような色があった。八木沢はしばらく誇らしげな顔をしていたが、すぐにその顔色が変わる。他ならぬ黒い剣のために。


「これは……!? な、なんだ! ぼ、僕の腕にッ……!」


 どこかから現れた黒い炎が八木沢の腕に纏わりつく。苦し気な悲鳴を上げ呻く八木沢だが、炎は止まらず彼の腕を駆け上って行く。


「ヤバッ……! く、こ、こいつをどうにかしろォーッ!」

「心得た。お前の腕と一緒にいただいて行く」


 バチバチと火花を上げながら、シャドウハンターは電磁迷彩を解除した。鋭い一撃によって八木沢の右腕を切断、剣を握った腕を切り落とし蹴り飛ばした。地面に落ちた腕は炎によって燃え尽き、この世界から消え去った。


「くっ……!? さ、早苗! 知美! 退くぞ、クソ!」


 八木沢は残った左手で呪物を取り出し、何事かを唱えた。次の瞬間、八木沢と風紀委員は掻き消えた。テレポートの力、橡も持っているあれか……


「何なのだ、この武器は。この世界に非ざるものだとは思うが……」


 シャドウハンターは7つ道具の1つ、密閉容器を取り出すと、刀身に触れないよう慎重にそれを中に収納した。幸い、強固な金属素材によって作られたケースを苛むことはないようだった。シャドウハンターは安堵の溜息を吐いた。


「久留間、さん……! 大丈夫ですか?! 意識は、どうですか!?」


 レニアが駆けて来た。腕には傷がある。


 そうだ、思い出した。

 レニアが傷つけられたと思った瞬間、抑えが効かなくなったんだ。

 あの怒りは俺の怒りだ。




 俺たちは応接間へと移された。呆けながら天井を見ていると周囲がにわかに慌ただしくなり、それがいくらか落ち着いた時レオールさんが部屋に入って来た。


「随分大変な目に遭ったようだな。怪我はねえかい、お前ら?」


 そう言う彼も腰に二刀を帯び、まるで油断せずに俺たちを睨み付けている。


「俺の腕は代替が効く。もっとも、次元城まで帰る必要はあるがな」


 シャドウハンターは消失した左腕を見ながら言った。黒い炎とやらに飲み込まれて消えたらしいが、他の連中の中には延焼によって死んだ者もいるらしい。それを分けるのはどこなのか、ハルは有機物と無機物の違いを指摘したが定かではない。その現象を起こしたものがここにはないのだからやむを得ないことだが。


「それで……お前さんは完全に正気に戻ったと思っていいんだな?」

「イカれてた時の記憶があいまいだから何とも言えないけど……多分」


 あいつらをやった記憶はあるが、実感としては存在しない。まるで映画を見せられて、これはお前がやったことだと言われている気分だ。よく分からないが気持ちが悪い、いやよく分からないからこそ気持ちが悪いのだろうか?


「俺のことはいい。で、いまはいったいどういう状況なんだよ?」

「焦るな、小僧。ワシらも情報集めに奔走しておるが、よく分かっておらん。

 陽が昇れば伝書も届くであろうし、使いを出すことも出来る。

 少し待っておれ」

「それよりも聞きたいのは、キミの体から出て来た黒い剣のことだよね」


 橡はさもここにいるのが自然でござい、と言う風な口調で言った。黒い剣、ねえ。そんなものの由来が分かれば、誰も苦労はしないだろう。シャドウハンターがケースに入れた剣を見ても何も思い出せない。そもそもあんな物を見た記憶すらもないのだから当たり前だ。博士だってあんな危険な装置を組み込んだりは……


「……あ。ちょっと待て、もしかして……」

「何か心当たりがあるのか、武彦? どんな些細なことでもいい!」


 些細なことなものか。

 というか、どうして俺はこれを聞かなかった?


「なあ、お前ら。こっちの世界に来るときに見たものはあるか?」

「見たもの……武彦、お前も転移者なんだから知っているはずだろう?

 私たちはこちらの世界に来る前に、一度神を名乗る者と出会っている」

「性別はどうだ? 俺の場合は女性だったんだが……」


 ハルと橡はきょとんとした表情を浮かべる。

 レオールさんは黙ったままだ。


「それはおかしいな。僕たちが出会ったのは男性の神様(・・・・・)だよ」


 そうだ。この現象は女神によって仕組まれたものではない。むしろ……


「俺はな、女神を名乗る奴によってこの世界に送り込まれてきたんだよ。

 つまりこういうことじゃないのか? その男の神と女神は敵対している。

 ということは、つまり……|俺はお前たちの敵とな(・・・・・・・・・・)るべく送り込まれた(・・・・・・・・・)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ