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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第六章:そして始まる変革の時
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08-暗黒の剣

 久留間は身を低くし、地を蹴った。

 翼がはためき、爆発。爆炎と爆風によって久留間の速度は加速し、彼は圧倒的質量を持つ弾丸と化して突進して来た。振るわれた爪と勝美の防御フィールドとがぶつかり合い、火花を散らす。


「切り裂け、烈風の刃よ! 燃え上がれ、混沌の炎よ!」


 ハルは二重魔法詠唱を行い久留間に風刃と火炎弾を発射した。風の刃が防御のために掲げられた炎の爪を拡散させ、開かれた隙間から火炎弾が甲冑を焼いた。しかし、浅い。衝撃によろめいたものの、久留間は未だに健在である。

 橡は防御フィールドに沿うようにして移動し久留間の側面に回り、指先から10体の輝く鳥を生成した。鳥は複雑な機動を描きながら飛び、久留間の防御を掻い潜って着弾、炸裂。由美の放った光球もまた久留間を苛む。しかし。


「クソ、死ねよ! いい加減死んじまえ、何で死なないんだ!?」


 由美は苛立った声を上げる。

 何発喰らおうとも久留間は止まらない。


 久留間は後方跳躍しながら爪を乱暴に振り回した。空間に黒い墨が撒かれたかのように広がって行き、転移者たちが放った攻撃を飲み込んで行く。事態はそれだけで終わらない、撒き散らされた黒い炎が身じろぎするように揺れ、個々の形を作ったのだ。人、獣、鳥。様々な姿を取るそれは、ダークに相違なかった。


「こいつ、ダークを生み出すことが出来るっていうのか……!?」


 生み出された十数体のダークは転移者たちを狙って攻撃を仕掛けて来る。単体の力ならば問題にもならないが、しかしこの混沌とした戦場にあっては大きな脅威となりえる。しかもその奥には、それをも上回る久留間が控えているのだ。


「ふっ……どれだけ数を出そうとも問題ない。

 僕の力を持ってすればなァ!」


 それまで静寂を保っていた八木沢が動く。彼が指をパチンと鳴らすといくつもの暗黒球体が生成され、その中にダークたちは吸い込まれて行った。もがくが、彼の力には敵わない。数秒の内にダークは掃討された。


「さ、さすが六郎くん! ありがとう、助かった――」


 勝美は一瞬視線を逸らし、六郎を称賛した。いつもなら彼の自尊心を満たしながら安全を確保出来る最良の手段だったのだろう。だが今回に限っては違った。久留間は右腕を弓のように引き絞り、突き出した。距離があるにもかかわらずだ。


「行かん、避けろそこの娘!」


 電磁迷彩を起動させ、背後に回っていたシャドウハンターが声をあげた。袈裟掛けに久留間の背を切りつけるが、攻撃を中断させるには至らない。4本の爪が収束し、槍のように伸びて勝美を狙った。彼女は防御フィールドを収束させ、防御しようとするが敵わなかった。爪は障壁を貫通し、勝美の腹部を深々と貫いた。

 抉られたのは脇腹、致命傷ではない。しかし傷口から黒い炎が彼女の肉体をどんどん浸食(・・)している。彼女は地面を転がり消火しようとするが、しかし呪われし炎はその程度で消えはしない。彼女の体を数秒で包み込んだ。


「ッアアアアアア! ウソだ、私が……!

 こんなの、有り得ない!」


 怨嗟の声を吐きながら、飛江田勝美は爆発四散した。

 転移者たちは激高する。


「貴様、よくも()の女をやってくれやがったなァーッ!?」


 怒りによって口調さえも変え、八木沢が暗黒球体を発射する。早苗の重力場が久留間を押さえつけ、ダメ押しとばかりに倉石の縄が拘束のために発射される。橡のとハルの弾幕が久留間に殺到し、止めとばかりに由美は光り輝く武器を作り出した。


「往生、せえや! クソ野郎がァーッ!」


 怒りをぶつけるべく、光り輝くバットを振りかぶる。


『くたばるのは……消えてなくなるのは、お前たちの方だ!』


 久留間は重力に身を任せて地面に倒れ伏した。予想以上に沈み込んだ体、由美は豪快に空振った。久留間は爪を地面に突き込み、迂回させた。早苗の力は見えている空間だけに作用するものであり、地中を通る攻撃に対しては無力だ。黒い火柱に飲み込まれ、大江由美は爆発四散した。誰も声を上げる暇すらなかった。


 翼が再度爆発し、久留間の体を前方に押し出す。その先にいるのはハル。重力圏内から脱出した久留間は爪を振り上げ、ハルを殺そうとした。ハルは反射的に避けようとした。だが精神に肉体はついて行かず、また久留間も止まらない。黒い炎の爪が自分を飲み込む様を、ハルは幻視しまた確信していた――


「ダメッ……! やめてえぇーっ!」


 それは、幼き少女の願い。

 一切の物理的効力を持たぬはずの声。


 その瞬間、ハルの主観時間が泥めいて鈍化した。ゆっくりと迫り来る爪、彼女はそれよりも少しだけ速く動いた。上体を傾け黒い爪に沿うような姿勢を取り、更に地を蹴り横に跳んだ。頭部と脚部を刈り取る一撃を、ハルは紙一重のタイミングで避けた。


「……!?」


 ハルは攻撃が『見えた』と言うことに困惑した。あの一撃で死んでもおかしくはなかった。空振りを悟った久留間は着地しながら両手の爪をなぎ払った。その軌跡も、ハルには見えた。屈んで爪を避ける、他のメンツは避けきれないか、あるいは遠く離れていたから助かったかだった。八木沢の悲鳴がゆっくりと聞こえる。


(何だかわからんが、いまの私にはあいつの攻撃が見える!

 それに……)


 ハルの知覚は研ぎ澄まされていた。

 だから胸元に輝く黒い剣が見えた。


(かつてのファンタズムにはなかったパーツ!

 あれが原因のようだな……!)


 ハルは指先に魔力を込める。1つ、2つ、3つ……理論上、印を描く動作を増やせばいくらでも魔法陣を描ける。1つの魔法陣に複数の意味を込めれば複数の魔法を発動させることが出来る。多くの魔法使いは片方の腕で1つの魔法陣を書くので限界、天才で2つまでだ。ハルはもたらされた力によって天才と同じことをしていた。


 だがいまのハルはそれさえも超える。

 描かれた魔法陣の数は、10。


「行くぞ、行くぞ……行け! 吹き荒れる風神の従僕たちよッ!」


 彼女が最も得意とする風の魔法を放った。

 不可視の弾丸が久留間に襲い掛かる。

 久留間は爪の防御を行い、そのうち9つを無力化した。しかし。


 ほんの少し発動のタイミングを送らされ、そして他の魔法よりも少しだけ速く、そして少しだけ軌道の違う魔法が勝敗を決した。久留間を大きく迂回するように放たれた風の弾丸が彼の胸を抉り、黒い剣を弾き飛ばしたのだ。


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