08-赤い実、弾けた
常識を超えたスピードで大地を駆けて来るのは身体増強系能力者か。更には半透明のオーラに覆われ、空を浮遊している者さえもいる。ご丁寧にオーラは山の向こう側から伸びて来る、シーフの知覚能力でも捉え切れるかどうか。
ファンタズムに変身し、山の向こう側から放たれたもう一発の攻撃を弾いた。重い、そして正確だ。いずれにしてもまず対処すべきは地上部隊。シーフに再変身しファズマシューターで襲来した転移者を狙うが、しかし彼らは攻撃に見事対応する。
「逃げるな逃げるなァ……! お前らには戻って来てもらわないとなァーッ!」
「やらせるかってんだよ、お前はァーッ!」
イーグルに蹴りを繰り出した高柳翔真との間に割り込み、蹴りを受け止める。そのまま手首を返し蹴り足を受け止め、力任せに投げ捨てた。高柳は猫めいた動作で体勢を立て直し、ザリザリと地面を削りながら着地した。
「なぁーんだ、お前。よく分からねえけどよー、カッコイイな」
フォローを行うべく追走していた染井大翔が俺に手を向ける。掌からドロドロとした液体が零れ出し、そして俺に向けて放たれる。全身を覆うほどの量、見た目から推察するにトリモチのような力を持っているのかもしれない。素早く側転を打ってトリモチをかわす。地面に纏わりついたそれが黒い煙を上げた。
(トリモチだけじゃなくて、酸みたいな力もあるみたいだな)
まずは染井を殺す。いや、待て。そうでない、もう1人いた。まるで影に紛れるように消えた男が。完全に気配を消し俺の背後に回った大垣信二の刺突を、半ば本能的なバックフリップで回避、同時に迎撃。大垣もまたバック転で避ける。
「この連携で殺れないたぁ、やるな。一気にかかる必要があるな」
高柳たちは一斉に身構えた。俺はそちらではなく、狙撃手に警戒していた。俺の隙を突いて放たれた狙撃、だがそう思っていたのは向こうだけだ。俺はしっかりそれを見ている。飛来する弾丸を叩き落とす。
「実弾攻撃か。超音速、超長射程でも認識出来るんならそれしかないわな」
少なくともビームやレーザー、あるいは魔法めいた攻撃ではないようだ。
「あれを防がれるとはな……こっちも、気合入れてやらなきゃ……」
そう言った高柳の胸から刃が生えた。
一同は目を見張りそれを見る。
「ごちゃごちゃ喋り過ぎたな。そう言う奴は最初に死ぬ……!」
激しい動きについていけず、電磁迷彩がバチバチと音を立てながら解けていく。その中から現れたのは当然ながらシャドウハンター。両目には怒りが迸る。
「なんだぁ? 消える加護……面白ェ、けど俺よりも弱ェッ!」
しかし、心臓を貫かれながらも高柳は生きていた。バックナックルで背後のシャドウハンターを狙う。シャドウハンターは舌打ちしながらも刃を捻り、横に跳んで攻撃を避けた。剣を振り抜き、更なるダメージを与えるのを忘れない。
「ッハッハッハ! バァカ! どんだけ切ろうが無駄なんだよ!」
赤黒い血を吐きながら高柳は哄笑した。胸の傷が急速に塞がって行く。ダメージ回復、それにより人体の限界を無視した機動を取ることが可能だということか? そうであるならば頭部を切断するのが上策。だが奴の身体能力を前にして、そんな小器用な真似が出来るだろうか? サポートを行おうとするが、染井と大垣が俺の前に立ちはだかって来る。
邪魔をするな。ファイターにROMを交換、0と1の風の中再変身。染井がトリモチを放つのに合わせて盾を投げつける。トリモチは拡散する前に盾に絡み付く。投擲と同時に俺は跳躍し、染井の無防備な頭部を狙った。その前に立つのは大垣、ご自慢の運動能力と隠密能力を発揮することもなく剣を重ね防御しようとする。
バカが。
振り下ろした剣は大垣の防御ごと彼の体を両断した。
「チッ、役に立たねえ……! だが、あいつなんぞいなくたって俺1人で!」
高柳の視線が一瞬俺に向いた。バカが。シャドウハンターは一瞬で腰を低く落とし、跳ね上げるようにして剣を振り上げた。そして高柳の頭部を切断。
「た、高柳くん! 大垣くん! そ、そんなバカな……」
気弱な叫びをあげる染井の喉元目掛けて、俺は突きを繰り出した。必殺のタイミング、しかし突きは避けられた。正確に言うならば染井の体が後方に向かって凄まじい速度で引かれたのだ。そのせいで狙いは逸れ、染井は命を拾った。
しかも、異常はそれだけではない。切断された高柳の頭部がくっつき、そして修復されたのだ。あの力は飛行能力ではなく、サイコキネシスだったか。
サイコキネシスに包み込まれていたのは高柳だけではない、大垣もだ。しかもサイコキネシスの『線』は高柳のものとも繋がっており、そこから送られたエネルギーによって大垣の体も再生し始めた。能力を伝導させる能力ということか。
「ハハッ……! 禰屋ァッ! 俺とお前のコンビは無敵だァッ!」
全身を乱暴に振り回す素人丸出しの戦闘行動。しかし、転移者の能力と魔素によって強化された身体がそれを絶望的な凶器とした。シャドウハンターは風車蹴りをギリギリのところで受け止めたが、衝撃によろめいた。着地した高柳は地面を強く蹴り、全身を跳ね上げるようにしてアッパーを放った。そちらを避けることは出来なかった。
「こいつら……! ただのザコのくせして、鬱陶しい……!」
染井がトリモチをばら撒く。バックステップで回避。だが跳んだ瞬間山頂から弾丸が放たれた。その程度のスピード、隙を見せても避けられないと思っているのか。俺は剣を盾代わりに掲げ、高速で迫る飛翔体を防御しようとした。
だが、弾は俺の予想に反して曲がった。想定しておくべきだった。人体ほどの重さを持つ物体を操作することが出来るのであれば、それよりも小さな弾丸程度ならば高速であろうとも操作することが出来るのだ、と。考え違いは最悪の結果をもたらそうとしていた。すなわち、俺の背後にいる守るべきものへと弾丸は恐るべき速度で迫っていた。
「レニア、伏せろ――!」
レニアは振り返ることしか出来なかった。射線上にイーグルが立ったが、弾丸はイーグルの方を掠めただけだった。彼は障壁にはならなかったのだ。
分厚いズタ袋を引き裂くような、重い音が辺りに響いた。
続けて鮮血が舞い、遅れて悲鳴が辺りに響いた。
幼い少女の悲鳴が。
赤い飛沫を見た瞬間、俺の頭の中で何かが弾けた。




