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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第六章:そして始まる変革の時
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08-西よりの使者

 刀を持った少女、宮城(みやぎ)東子(とうこ)が駆け出す。その後ろから2人の少女、ソフトボール部のバッテリー飛江田(ひえだ)勝美(かつみ)大江(おおえ)由美(ゆみ)が続く。大江が手を振ると、光の球体がいくつも出現しマーブルたちに向かって飛んで行った。接触すると爆発する光の弾丸だ。隙を見せた敵に宮城が切り込む。

 彼女たちを後方からサポートするのは風紀委員の美河(みかわ)早苗(さなえ)倉石(くらいし)知美(ともみ)。突撃を仕掛けたマーブルたちはまるで上から重しを乗せられたかのように倒れた。立ち上がろうとするが、腕を上手く動かすことも出来ないようだ。倒れた怪物に宮城が刀を振るう。一太刀で7体のマーブルが切り殺された。


「キミともまた会えるとは思っていなかったよ、春馬さん」


 いきなり現れた詰襟学ランの男、八木沢の態度にハルは違和感を覚えた。彼女が知っている八木沢は、いつも覇気がなく、主体性がなく、おどおどしている男だった。そのせいでクラスの不良からいじめられていたとも聞いている。彼女が不登校を決意するよりも先に、彼は環境に耐えられなくなり学校から姿を消した。


(……転移者の圧倒的な力が、彼から不安を取り去ったのか?)


 ハルの不審を、八木沢はどうやら別方向に解釈したようだ。


「ああ、こんなことをしている場合ではないね。邪魔者を排除しないと」


 八木沢は見もせずにドラゴンの方に手を伸ばした。彼の手元に7つの暗黒球体が発生、ドラゴンに向かって飛んで行った。飛来する球体はドラゴンに激突、爆発することすらなく、その体を削り取った(・・・・・)。苦悶の悲鳴が辺りに響き渡る。


「なっ……!?」

「これがこの世界に来て僕に与えられた力だ。いいだろう、これ?」


 途端に、ハルは目の前の存在が恐ろしく思えて来た。ただ念じるだけで相手を削り取り、殺す存在など。今まで出会ってきたどの転移者とも違う力だ。


「お待たせ、六郎くん。終わったわよ、助けてくれてありがとう」


 自律稼働する光の獣の力も使い、5人の少女はマーブルを即座に掃討した。彼女たちの口調にも、なるほど恐れの色が滲んでいる。この5人、特にソフトボール部の2人は彼を苛めていた側に属する人間であり、その態度には隠し切れない侮蔑が見て取れる。そんな相手を連れている八木沢にも、どこか屈折した感情が見える。


「……何年も探して見つからなかった相手と、こんなところで会うとはな」

「僕は6年前この世界に来たんだ。ずっと、隠れて生活して来た」

「なぜ隠れる必要があった? その力があれば何でも出来ただろうに……」

「目立つのは好きじゃないんだ。分かるだろう? それに利用されたくない」


 目立ちたくないと言うが、どこか言い口は誇らしげだ。そして、ハルは直感していた。能力の性質、外見、転移時期。それらから鑑みて、八木沢六郎が大跳躍(オーバーライド)の日に両軍を、すなわちリニアの父とナサニエルを殺した張本人だと。


 問い詰めるべきか、そう考えた時シャドウハンターから通信が入った。


「すまない、急用だ。ちょっと待っていてくれ。こちら春馬……」

『簡潔に言う。エラルド領が西方から襲撃を受けた。すぐに戻って来い……!』


 ハルの頭は真っ白になった。何故、どうしてこの時期に……


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆


 ハルたちが出発してから数時間が経ったエラルド領。無限に続くかと思われた夜は白み、ようやく希望に満ちた明日が始まろうとしていた。そのはずだった。

 ベッドに横たわった俺はいつの間にか寝ていた。目を覚まして天井を見て、窓の外を見てようやく時間を把握したくらいだ。認めなければならない、予想よりも疲れている。あの人の死が、俺の心に重くのしかかって来ているのだ。


「……何か食うもん。いや、酒か。何でもいいや、気を……」


 気を紛らわすことが出来れば何でもいい。いまの時間ならば誰か起きているだろう。そう思って部屋を出ると、予想通り厨房から明かりが漏れていた。重い足取りで扉を開くと、メイドや使用人たちがせわしなく歩き回っていた。


「っとっと、そこ退いて下さい……ってどうしたんですか久留間さん?」

「何か、飲むものいただけますか? 酒とか」


 メイド、ソーナさんは俺の顔をじっと見て、はっきりと言い切った。


「ダメです。今のあなたには一滴だってお酒を上げることは出来ません」

「ちょっとでいいんです。ちょっともらったら飲んですぐ寝ます」

「だから、ダメです。お酒に逃避するようになったらおしまいですよ?」


 クソ、逃げて何が悪い。こっちはもうボコボコにされてるんだぞ? それでも彼女の真っ直ぐな目を見ると何も言えなくなり、俺は逃げるように踵を返した。仕方がない、飲めないなら体を動かそう。そうすりゃ少しは気がまぎれるだろう。

 裏庭に出ると、爽やかな秋の風が吹き抜けた。風に草木が躍り海鳴りめいた音色が聞こえる。世界はこんなにも過酷なのに、ここだけはそこから隔絶されていた。


「……久留間、さん? あなたも、眠れないんですか?」


 ドキリとして声のした方を向いた。ベンチにレニアが座っていることなど、まったく分からなかった。そう言うレニアの方は単に眠れないだけではないだろう、両目は泣きはらしたせいで真っ赤になっている。俺は頷き彼女に近付いた。


「風が気持ちいいな。俺、これが好きだからここにいようって思ったんだ」

「はい……私も好き、です。優しくて、お母様みたいで……」


 自分で言って、レニアは両目に涙をためた。痛々しくて見ていられない、俺は視線を空に向けた。白み始めた空、明と暗のコントラストが浮かび上がる。


「どうして、守ってくれなかったんですか?」


 ポツリと出た言葉に、俺は答えられなかった。ただ視線を逸らす。


「……ごめんなさい、久留間さん」

「言って当たり前だ。俺は、守ると誓ったものを守れなかったんだから」


 ギュッと手を握り締める。俺のことを殺したいほど憎んでいるだろうに、彼女はそれをおくびにも出さない。そんな冷静な判断をさせてしまう世界が憎い。母親の死を『仕方のないこと』だと受け入れなければいけない世界が憎い。


「もう二度とこんなことはさせない。キミたちの事は絶対に守る……!」


 誓う。

 俺はもう二度と彼女を不安にさせたりはしないと……


 その時、山の向こうから何かが飛んでくるのが見えた。巨大な翼をはためかせ、凄まじい速度で屋敷に向かって近付いて来る。俺は立ち上がり、彼女を守るため前に出た。陽が昇り、それがはっきりと姿を現す。あれは……


「ウィンドイーグル!? あいつ、アイバルゼンにいるはずなのに……」


 空の彼方より飛び出でたウィンドイーグルは、明らかに負傷していた。しかもその手で人を担いでいる。それは、フレイムバイソンその人だった。


「久留間ちゃん! 大変なのよ、あたしたち! 陛下が、クラーケンが――」


 言いかけたイーグルだが言葉を切り、旋回機動を取ろうとした。だが、一瞬遅れた。翼が抉れ、体勢が揺らぐ。音は遅れて聞こえて来た。それでもイーグルは見事な空力制御で落下の衝撃を軽減し、ゴロゴロと転がりながら地面に降り立った。


「イーグル! お前、どうしてこんなところに!」

「西方の連中が攻めて来たのよ……! 応戦したけどこの子はやられた。

 それに……クラーケンが、殺された」


 死んだ?

 ディメンジア4大幹部が、アクアクラーケンが、死んだ?


 味方ではない。敵だった。だが目眩がするような気がした。

 それでも現実は無慈悲に進む。

 西方からイーグルを追って現れた愚かな転移者が現れたのだ。


始まる新たな戦い!


お読みいただきありがとうございます。

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