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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第六章:そして始まる変革の時
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08-集う転移者たち

 エラルド領東方、ノースティング領との境界線上。

 ノースティングから流入した難民たちは、マーブルの襲来によってその数を更に増していた。彼らはエラルド側の住民と協力し民兵団を設立し、迫り来る脅威と恐怖に抗っていた。


 しかし、彼らの心意気は、残念ながら実際に襲来した怪物に対してほとんど役に立たなかった。弓もなく、魔法もない彼らを、まずは小型四足歩行のマーブルが蹂躙した。防衛線を悠々と走り抜けた怪物たちは武器を持たぬ人々を襲い殺し、兵士たちの士気と希望とを粉々に打ち砕いた。その後ろに控えているのは、人型の怪物。

 それは非常に器用な存在だった。それこそ人間と同じように。まるで影を纏っているかの如き黒い武装を用い兵士たちと相対したそれは、容易く人々を切り裂いた。影の武器は通常の武器を用意に弾き返し、防具を破壊した。


「何なんだ、こいつら! か、勝てるわけがねえ……!」

「だ、誰か! 誰か助けて!」「助けは来ないのか!?」




 悲鳴と絶望が響いたのは、ハルたちが到着する1時間前のことだった。


「間に合わなかったのか……!?」


 光の獣に跨りこの地に向かったハルたちが見たのは、蹂躙され尽した居住区だった。橡の能力はテレポートではなく、またテレポートに必要な発動体も彼は持ち合わせていない。もし、テレポートがあったら。考えざるを得なかった。


「やれやれ、間に合わなかったか。そうだよね、リアルタイムじゃないんだ。

 僕たちが伝書を受け取ってから相当な時間が過ぎているんだから……

 こうなっちゃうのも当たり前」

「橡、貴様! 黙っていろ! いま聞くお前の声は不快だ!」

「そりゃ失礼。なら向こうの連中の唸り声を聞いていた方がマシかもね」


 橡は居住区を指さした。マーブルは人を喰らわない、ただ殺すだけだ。ダークと同じ、だがマーブルは人々の遺体を辱めた(・・・)。凄惨なる破壊を行い、二目と見れないようにした。彼らが抱いている底なしの悪意の一端をハルは見た。


「残っているのならば好都合だ。貴様らは、ここで私が殺してやる!」


 震え声になりながらも、ハルは怪物に向けて宣言した。

 四足獣が走り出す。


「貴様らを一匹残らずこの地上より消し去り、死者への手向けとしてやる!」


 ハルは素早く虚空に魔法陣を2つ描いた。収束した風の魔力は大地に穿孔し、走り迫る怪物たちの足元で炸裂した。足場を破壊しつつ風の刃がマーブルたちを殺傷する。だがその数はあまりに多い。四足獣型だけでも50は下らない。


「行って来なさい、お前たち。戻って来なくてもいいからね」


 橡は自らの能力、『欲望(デザイア)投影(プロジェクション)』を発動させた。彼が普段作り出す怪物よりもやや大きな、トラかライオンくらいの大きさの獣が現れた。彼らは意志を持ったかのようにマーブルの群れに飛び込んで行き、逞しい爪を振るった。マーブルの数体がそれと交戦状態に入り、残りは構わず突撃を続けた。


「使い手を殺そうとしているみたいだね。あいつら、僕らの力が分かってる」

「で、どうするんだお前? この数をどうにかする手があるのか?」

「無いことはないんだけど、間に合ってくれるといいなぁ」


 光の獣と交戦していたマーブルが、一瞬の隙を突き太い首に纏わりつく。そして、マーブルの輪郭が徐々に解けて行った。同化しようとしているのだ。だが橡はそれを読んでいた。指を鳴らすと光の獣が爆弾めいて炸裂した。


「うん、十分操れる。次からはこうやって爆破することにしよう」

「浸食性……!? 相手を取り込み、自分のものにすることが出来るのか!」

「そう言うわけじゃなさそうだ。僕自身を取り込むような動きはないからね。

 相手が放出したエネルギーを吸収するような力を持っているんだろうね。

 おかげで、純エネルギー体を凝縮して自律稼働させる僕の力とは相性が悪い」


 橡は二本の剣を投影し、跳びかかって来た獣型ダークを真っ二つに切り裂いた。ハルは橡の力に戦慄する。ここまで器用に力を使えるのか、と。


「取り敢えず弾丸として放出したものが吸収されるようなことはないようだ。

 数秒、ないしは数十秒の接触が必要なのかもしれない。注意してくれよ」

「ようは掴まれなければいいんだろう? それならば――」


 ハルは右に風の魔法陣を、左に炎の魔法陣を描き放出した。風は炎を巻き上げ、炎は怪物と草木を飲み込み勢いを増す。赤き炎の中で黒い獣が爆散した。


「複合魔法か。お馴染みだけど、実際に見てみるとスゴイな。これは」

「言っている場合か、橡! 第二陣が来る、警戒しろ!」


 ハルは炎に照らされた村の奥、すなわち山際からまだら色の怪物が次々とこちらに向かってくるのを察知していた。橡もそれを見て身構える。と。

 その時、彼らは地を揺るがすほど激しい咆哮を聞いた。そして白み始めた空の向こう側から、漆黒の翼をはためかせる純白の怪物を見た。それは強大な質量を持ちながら、薄く脆弱な翼で空を飛んでいた。それ、すなわち――


「驚いたな。あんなものがこの世界に現れるとは……!」

「ドラゴン……まさか、そんなバカな……!」


 強大な力の使い手たる2人も、さすがに息を飲んだ。こんな怪物を2人は、否、ラナ=グレンの地に住まう者は見たことがない。それは伝説の存在、一笑に伏されるおとぎ話の住人に過ぎなかったはずだ。それが、目の前に存在している。


「! 危ない、春馬さん! 伏せて!」


 ドラゴンが喉をしゃくりあげるのを見た橡は、本能的に障壁を展開した。ドラゴンは吸い込んだ息を吐き出すような仕草をした。その口から黒い球体が発射される。球体は障壁と激突、相殺し、空に黒い霞を撒き散らした。


「『欲望(デザイア)投影(プロジェクション)』の障壁でもギリギリか。勘弁してほしいな」


 橡の額に汗が浮かぶ。

 空の彼方より現れたドラゴンは、1体ではなかった。


「あんなものが、あんな数……私たちだけでどうにかなる相手では……」


 その時、傍らの空間が歪んだのをハルは見た。

 そこから人が現れるのを。


「おっ。呼んでいたのが来た。そろそろだと思ってたんだよね」


 虚空の彼方より、5人の女性が現れた。それは同じデザインのセーラー服を着て、同じデザインのリボンをつけていた。すなわち、高校の指定制服を。


「ヒッヒ……大丈夫かい、橡くん? 間に合ったかな?」

「さすが、いいタイミングだよ。助かった」


 最後に現れたのは、詰襟の学ランを着た少年だった。

 学校指定の制服ではなかったが、しかし。


 ハルはその少年の顔を、声を知っていた。


八木沢(やぎさわ)六郎(ろくろう)……?」


 それは、ハルよりも先に引きこもりになった少年だった。


お読みいただきありがとうございます!


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