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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第六章:そして始まる変革の時
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08-悔悟を胸に

 御手洗を地面に押し付け首をへし折る。

 黒い炎が俺の手の内で爆ぜた。


 シオンさんが黒い炎に包まれ、消えて行く。

 俺は、また、間に合わなかった。


 何かが何かを喋る。何かは黒い靄に包まれた両腕を振りかざし、俺に向かって突っ込んで来る。隙だらけの顔面にジャブを打ち込み動きを止め、怯んだところに全力のストレートを叩き込んだ。吹き飛んで行く何かを追い掛け跳び、踵落としで地面に押し付ける。地面を砕く一撃をもってしても死なない。タフな奴だ。


 死ね、死ね、死んでしまえ!

 俺の大切なものを傷つける奴はすべて!


 俺は腕を振り上げ、手の内に収まった黒い剣(・・・)を何かに突き立てた。




 何かは死んだ。

 俺は振り返り怯える子供たちを見た。ナーシェスさんが立ち上がろうとする。地面に腕が転がっているのを見つけた。多良木の腕だろう。そう言えばさっき吹っ飛ばされていた。助けなければ。ナーシェスさんに腕のことを頼んだ。吹っ飛ばされた多良木は死にかけていた。だが何とか死んでいなかった。


 正直なところ、俺が覚えていることは少ない。脳みそが沸騰するほどの激情に身を任せた反動か、あの時の記憶がほとんどない。分かっているのは何かを殺したことだけ。後で聞いたところによると、あのなにかはエレオーラさんだったそうだ。あの人は南方内乱の犠牲者の末裔で、ずっと機会を伺っていたのだ。


「酷い状態だね、人も、モノも。そしてキミたちも。大丈夫かな?」


 軽薄な声を投げかけられ、俺は顔をあげた。ようやく追いついた橡とノースティングの2人がそこにいた。こいつらさえ助けなければ、シオンさんは……


「ねえ、キミ。こんなところでボーっとしていていいのかな?」


 その一言で我に返った。この状況、バルオラが危ないんじゃないか!

 俺は多良木の服を漁って長距離通信機を取り出し、ハルに通信をかけた。


「ハル、ハル聞こえるか! 聞こえるならさっさと返事をしろッ!」

『ッ……うっさい! こっちだって、手が混んでるんだ! 後にしろ!』


 通信が繋がった。ほっとして胸を撫で下ろす。

 生きていてくれればいい。


「いまからそっちに戻る。大変だと思うけど、そっちも頑張ってくれ……!」

『そっちもな。どういう状況だ、あのまだら色の化け物せいでどこもてんてこ舞いだ。

 王国も西方もキツいらし、もしかしたら帰ったらすぐ出て貰うかもしれん』

「……ハル、よく聞いてくれ。シオンさんが、亡くなられた……!」


 口にするのも辛かった。しばらく、ハルからの返事もなかった。


『……とにかく戻って来い。すべてはそれからだ、分かったな?』

「……分かった、すぐ戻る。すまんが、それまでは頼むな。ハル」


 通信を切り、1秒だけ心を落ち着けた。そして振り返る。


「橡、悪いが足やってくれや。お前のガキどもでもいいけどさ」

「お安い御用だよ、久留間くん。僕にはそれしか取り柄がないもの」


 そう言って橡は子供たちに向かって微笑みかけた。あの洞窟でこいつに殺されかけたら2人はあからさまに警戒感を見せる。あれから遠くに来たものだ。


「ナーシェスさん、ちゃんと歩けますか? どこか打ってたりは……」

「いやいや、問題ない。多良木くんに比べたら、傷が軽すぎる」


 ナーシェスさんは多良木に肩を貸し歩き出した。切り落とされた左腕は出来るだけ状態を劣化させないよう冷やして運搬する。ただ、傷口がかなり汚くなっているのでくっつくかどうか。シャドウハンターが何か持っていればいいが。


「ファルナ様、お辛いとは思いますがどうかお気を確かに……」


 ミーナがファルナの手を取ろうとする。純粋な善意から出たのかもしれないが、ファルナは手ひどくそれを振り払った。その目には怒りが浮かんでいる。


「こんな時までッ……そんなことをしないでください!」

「そん、な……わ、私は別にそんなつもりでは……」


 2人が馬車に乗り込み、ナーシェスさんがそれに続く。俺とミーナ、それからラウルさんが馬車に入る。気まずい沈黙の中、光の獣が馬車を引いた。

 並の馬よりも遥かに速い怪物は、1日も経たずに俺たちをエラルド領に送り届けてくれた。さすがに目立つし禍々しい、斥候の村人は逃げ出し、すぐさま応対の兵士たちが出て来る。その中にはレオールさんとハルの姿もある。


「待ってくれ、俺たちだ! こいつの名は橡光満、一応は仲間だッ!」

「小僧ッ! シオン様が亡くなられたと……それは本当のことかァッ!」

「ッ……ああ、真実だ! だが話の前にシャドウハンターを呼んでくれ!」


 呼ばれるよりも先にシャドウハンターが人ごみの中から現れた。


「何たる無様。もっとも、俺に貴様を責める権利などないが……」

「いくらでも聞く。だがその前に多良木を見てやってくれ、腕を切られた」


 シャドウハンターは馬車の中に入り込み、多良木を見た。内蔵生体(バイオ)モニターを作動させ、多良木の容態を診察。少ししてからほっと溜息を吐いた。


「止血が早かったな。腕を冷やしておいたのも幸いだ。再生手術は可能だ」

「多良木を頼む。レオールさん、詳しい話をしましょう」


 俺は馬車から降りた。ナーシェスさんもそれに続く。時々痛みに耐えるように顔をしかめた。そう言えば、何かに吹っ飛ばされた時の傷が痛むのかもしれない。


「なぜだ……転移者が2人もいながら、何故こんな事に……!」

「あの方がたくさんの人を守ろうとしたから……いや、そんなのは言い訳だ」


 歯を噛み締める。もっと早く到着していれば。御手洗なんかに気を取られるべきではなかった。すぐに殺して先に進むべきだったのだ。いや、もっと言えばノースティングなんかに行っている場合ではなかった。あの時が一番危険だったのに! それなのに俺はそんなことにも気付かず、余計なものに気を取られた。


 すべては俺の責任だ。

 言い訳も弁解の余地も存在しない……!


 世界が燃える。だがそんなことはどうでもいい。もう二度とこんなことを起こしてたまるものか。俺が守るべきものはただ一つ、エラルド領とそこに住まう人々ただそれだけだ。それ以外はすべて些事、捨て置かなければならないものだ。


 もう二度と間違えない。

 だからそのために、力をください。シオンさん。


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