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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第六章:そして始まる変革の時
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08-死

 赤。

 山頂に登った俺の目に飛び込んで来たのは、真っ赤に燃える村だった。


「そん、な……多良木、あいついったい何やってやがる……!?」


 村が燃えていた。それどころか、いくつも立ち昇る火柱が見える。ノースティングで見たあの炎。あれをやった奴がここに来ているということか?


「おい、橡。手前の相棒のテレポーター……この件に噛んでやがるのか?」

「まさか。それならどうして僕がキミの手助けなんてしているんだろうね?」


 イラつく言い回しだが、こいつらはこの件に関与していないってことか。いや、そんなことを気にしている場合ではない。俺は走り出した。ミーナの悲鳴が遠く消えて行く。とにかく速く、もっと速く!

 あの場所に辿り着かなければ!


 しかし、俺が1秒後に到達するであろう場所に膨大な熱量を感じた。俺は急停止、鼻先を炎が昇って行く。それが晴れた時、そこには1人の男がいた。


「手前……いったい何者だ? いや、その制服……」


 格好には見覚えがあった。学校の制服、フレームの大きな眼鏡、綺麗に七三に分けられた髪の毛。俺たちのクラスメイト、御手洗(みたらい)(のぞむ)だ。


「退け」


 そう言ったが御手洗は退かなかった。

 むしろ炎を滾らせ、威圧的に俺を睨んで来る。


 殺すしかない。

 俺は駆け出し、腕を振り上げた御手洗の首を掴んだ。


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 多良木は屋敷の窓越しに外を見た。武彦が出かけてからしばらく経つが、村は平穏さを保っていた。出る時に武彦が始末していったのかもしれない、そう多良木は思った。振り返り部屋を見ると、震える子供たちと落ち着いた大人3人がいた。


(ホントに、スゴイ人だ。こんな状況だってのに、少しも……)


 彼女に抱いているのが敬意なのか、愛情なのか。多良木には分かりかねていた。愛情を注いだことも、注がれたこともないから。だが、彼は自分の命を賭けてでもシオンを守りたいと、そう思っていた。不意に、それが口から出そうになる。

 その時、村から火の手が上がった。慌てて振り返ると村の中央、湖の辺りから火柱が上がっているのが見えた。最初に見たあれと、ほとんど変わらない。


「あれは……! ヤバイ、みんな逃げないとッ!」


 多良木が言って振り返った瞬間、テーブルの中心点が陽炎めいて揺らいだ。考えるよりも先に多良木は床を蹴り、シオンに向かって飛びかかった。彼女を押し倒すのと同時に炎の帯が地面から伸び、ありとあらゆるものを焼き溶かした。


「ッ……! ここにいたら危険だ、外に出ましょうッ!」


 恐らくこの力は地面を起点として炎を発生させる能力だ。と、なると地面が見えない建物の中では攻撃の兆候を掴みづらく、攻撃を避けることすらもままならなくなる。少し危険だが外に出た方がまだマシ……であるはずだ。確証が持てない。


(っそ、久留間なら……忌々しいが迷いなく決断するだろう……!)


 彼の脳裏に忌々しいほど合理的で、吐き気を催すほど迷いのない男の顔が浮かんだ。そしてそれを掻き消す、いまここにいる人々を守れるのは自分だけだ。多良木はシオンを助け起こした。ナーシェスは子供たちの手を引き、屋敷から脱出する。多良木が促すと少し遅れてエレオーラも屋敷から脱出する。彼らが全員家から出た、それから少し間を開けて屋敷が炎に飲み込まれた。呆然と多良木はその様を見る。


(少し脱出するのが遅れてたら……いや、何故こんな真似を?)


 最初からこうしていればよかったのだ。転移者の攻撃を阻むものなどいなかったはず、ならばどうしてこんな嬲り殺すような真似を?


「……シオン様。あなたはこの惨状を見て、どのように思いますか?」


 ぞっとするほど冷たい声が、エレオーラから吐き出された。多良木は、否、そこにいる誰もが振り仰いだ。エレオーラの目にあるのは、純粋な憎悪のみ。


「どんな気分ですか? 焼け出され、逃げるしか出来ないというのは?」


 多良木は頭上の黒い天球を見た。そこから1つの彗星が落ちて来る。彼女目掛けて。異常を察知しナーシェスが飛びかかる、しかしあっさりと跳ね返された。


「我々の絶望が。我々の怒りが。あなたに、少しでも分かりますか?」


 彼女に黒い霞がまとわりつく。

 白と黒のまだら色……マーブルのそれ。


「エレオーラ、さん……アンタ、いったいどうなってしまったんだ……!?」

「どうなったのか? よく分かりません。分かるのは力を得たということ」


 エレオーラの両腕に黒い炎が灯る。本能的な危機感を覚え、多良木は駆け出した。全身に神の力が駆け巡る。常人を遥かに上回る反射神経、そして筋力――

 全力で繰り出したストレートを、しかしエレオーラは真正面から掴み取る。女の細腕とは思えない凄まじい力。あまりにも強い力を受け、握り締めた拳でさえも開かれる。エレオーラは多良木のことを、酷く侮蔑的な瞳で見た。


「この女に組みするならば――あなたにも死んでもらわなければならない」


 腕が振り上げられた。多良木はギリギリでそれを見ることが出来た。そして、自らの左腕が根元から切り取られたのを見た。悲鳴を上げる暇すらなかった。エレオーラは腕を投げ捨て、多良木の胸に槍めいたサイドキックを打ち込んだ。多良木は何度もバウンドしながら20m以上吹っ飛んで行った。誰もが息を飲む。


「そうですか。あなたは、南方内乱の生き残り」


 エレオーラの正体を察知し、シオンは一歩足を踏み出した。エレオーラも近付いて行く。誰もが彼女を制止した。だが誰もが動けなかった。


「恨みを知れ、シオン=グラナ=エルラド。そして、死ぬがいい」

「あなたの魂に安息が訪れんことを、私は祈っています」


 奇妙な音を誰もが聞いた。砂袋を叩くような、それでいて何かを貫く様な音。空気の詰まった袋が破け、萎んで行くような音。シオンから発された音。エレオーラが放った手刀の一撃は彼女の胸を貫通し、その体を真っ二つに切り裂いた。


「――なぜだ。何故、笑う?」


 それでも、シオンは慈母めいた優し気な笑みを浮かべていた。エレオーラの腕から黒い炎がシオンの体へと伝わって行く。彼女を不浄の炎が包み込む。


「シオンさんッ!」


 人の首根っこを掴んだ久留間武彦が現れた時、すべては終わっていた。


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