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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第六章:そして始まる変革の時
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07-傷痕

 紅葉の道を進んで行くと、広場に辿り着いた。中心には石のモニュメントが置かれており、その表面にはいくつもの名前が刻まれている。そこには『南方内乱犠牲者』とも書かれている。王国側、南方側両方の名前が書かれているようだ。


「スゲエ……こんだけの人が犠牲になったってことかよ……」


 名前が書かれているだけでも200を越えているだろう。もしかしたらここに書かれていない犠牲者もいるのかもしれない。戦争ゆえに仕方がないこととはいえ、あまりにも多すぎる。ファルナやレニアはそれを見上げて黙っている。

 その時、シオンさんがフゥと息を吐いて近くにあったベンチに座り込んだ。


「少し疲れてしまいました……少々休憩してもいいでしょうか?」


 俺たちは何も問題はなかったが、2人の子供は少々不満顔だ。


「なら、俺が2人の面倒を見ますよ。多良木、シオンさんたちをよろしく」


 俺は多良木が反論する前に2人の手を引き歩き出した。あの状況なら、多良木も文句は言うまい。尊敬するシオンさんとひと時を過ごすがいいわ。


「ねー、武彦。どこに行くんだい? 僕、1人でここまで出たことがなくて」

「安心しろ、俺だってない。歩き回ってりゃそれだけで楽しいんじゃねえ?」


 まったくのノープランだったが綺麗な村だ、回っているだけで十分だろう。最初はブータレていたファルナだが、見事な紅葉を見るにつれてそれもなくなった。それにしても、本当に見事なものだ。まるで世界そのものが燃えているような……


「そうだ、あそこの高台に行ってみよう。きっとスゴイぞ、これは」


 その提案には2人とも頷いてくれた。俺たちは村の東側にある、山間にほど近い丘に登って行った。それなりに険しく、レニアには手を貸さなければならなかったが彼女も楽しそうに昇って行った。そして、その労力に見合うだけの価値はあった。

 赤と緑、そして青。山肌の鈍色さえもコントラストとなり、村全体を鮮やかに彩っていた。どんな観光地だって、この景色には負けるだろう。


「スゴイ……上がってきてよかったね、ファルナ」

「うん、よかったねレニア。母様にも教えてあげないとね」


 2人はころころと表情を変えながら笑い合った。この2人は、本当に母親のことが好きなんだな。だから無理をしたり、間違えたりしまったりすることもある。例えこの子たちが善意から道を間違えてしまったとしても、それをフォローしてあげなければ。無垢な笑顔を見て、俺はそんな決意を新たにするのであった。


「……ん? なんだ、ありゃ。あんなところにも……家があるのか?」


 視線を横にちょっとずらしてみると、眼下に住居のような物が見えた。ここからはかなり距離があるから実際のところは分からない。しかし……


(人がいるようには見えない……っていうか、あれは本当に村か?)


 単なる廃村ならばいい。人々が生活の軸足をこっちに移したというだけかもしれない。しかし、俺は考えながらそれとはまた違う、異質なものを感じていた。


「どうしたの、武彦? ……あそこにも村があるのかな?」

「行ってみようか、ファルナ? あそこなら、母様も許してくれる……よ」


 レニアがファルナの手を引いた。ファルナは笑顔でそれに頷く。仕方がない、俺も着いて行くしかないか。幸い、眼下の村への道はそれほど険しいものではない。下草が生えているので足下には気を付けなければいけないが。

 歩きながらも、俺は抱いていた疑念が正しいことを確信した。仮に人が住んでいるのならば、こんな風に雑草だらけになっているはずがない。人はおろか動物でさえも近付いてこない、と言うことがそれだけでも分かる。はしゃいでいたはずのレニアとファルナでさえも押し黙り、辺りの様子を冷静に伺っているようだ。


「……これは、廃村。いや、戦乱で放棄された村か……」


 降り立つとまず、破壊された家屋の壁が目に付いた。この辺りでは良質な土が採れるらしく、寒さに強い煉瓦造りの家が多い。その煉瓦が崩されている。中には火であぶられたように真っ黒になっているものもある。破壊があるのは建物や壁だけではなく、天井部分や井戸、祭壇、柱と言ったものも無残な姿を晒している。


「……ひっ! あっ……あれッ……!」


 レニアは何かを見つけて言葉を失った。目を向けると、そこには白骨化した死体があった。ボロボロの衣服を身に着けた農民の死体、だが武器は持っていない。南方内乱に巻き込まれた人の死体だろうか? 死因は剣を突き刺されての心臓破裂、あるいは失血死といったところだろう。肋骨に引っかいたような傷が見える。


「……お前たち、こんなところでいったい何をしている!?」


 背後から野太い声を掛けられ、俺たちは竦み上がった。


「うん、その恰好……もしや、エラルド様のところの方か?」

「……ええ。シオン様の護衛と、それからご子息です」


 振り返ると、そこには麦わら帽子を被った老人がいた。しわがれ日焼けた肌、蓄えられた白い髭、背には多くの荷物。農民と言うより狩人みたいな出で立ちだ。俺たちが身分を明かすと、老人はにこりと微笑んだ。媚びるようなものではない。


「この辺りは南方内乱の戦場になった場所だ。子供の来る場所じゃない」

「南方内乱……あの石碑に刻まれていた被害者は、この村の人でしたか」


 そんなことも知らないのか、と言う風に老人は俺のことを睨んで来た。レニアとファルナが俺のことをフォローしてくれる。老人は驚いたように呻いた。


「転移者、そんなものが本当にいるとはな。実際見たことはなかったわ」

「気を悪くされたなら、申し訳ありませんでした。知らないこととはいえ」

「いや、いいんじゃ。たった15年前のことなのに、知らない人の方が多い」


 そう言って老人は村の中心にあった井戸の前に荷物を置き、それを解いた。中に入れられていたのは保存食、花、それから日用品と言った雑多なものだった。お供え物のようなものだと理解するのに、それほど時間は必要なかった。


「とにかく酷い戦いじゃった。どちらも憎悪に心を支配されているようだった」


 そう言って老人は村の端から端までを指さした。あそこからあそこまで、死体が列を成して並んでいたのだという。老人の言葉には真実味と重みがあり、2人はそれを聞いて竦み上がった。老人なふっと笑う。


「知らなんだか。まあ、そんなものよ。ワシも思い出したくもないからな」

「……あなたはこの土地の人なんでしょう? 恨んでいるんですか、王国を」

「そんなことを聞いて、ワシが答えるとでも思っているのかね?」


 そりゃそうだ、無駄なことを聞いた。だが意外にも老人は答えた。


「恨みに思わん奴はおらんよ。だが恨み続けられる奴もいないんじゃないか。

 人の事を恨んでいるのは、結構な重労働だ。それだけしか出来ないんだからな」


 爺さんは供え物を丁寧に置き、祈りの句を唱えた。そして立ち上がる。


「日が暮れるとこの辺は一気に暗くなる。あんまり長居しちゃいけんぞ」


 そう言って彼は去って行った。俺たちはしばらくはそうしていたが、寒風が吹いたのを合図に我に返った。彼の警告を思い出し、足早にそこから立ち去った。


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