07-コミュ障に恋バナは難易度が高すぎる
赤く燃える木々が俺たちを迎え入れた。エラルド領南方、ワードナ。バルオラからは結構近く、街道が整備されているのもあって1日で着くことが出来た。とはいえ、もはや陽も落ちかけている。本格的に何かをするならば明日から、と言った感じだ。
「ようこそおいでなさいました、シオン様。
どうぞ、お楽しみください」
村の守衛がシオンさんを手厚く出迎える。顔パスでもいいと思うのだが、セキュリティの観点があるのだろう。防御はしっかりしておいた方がいい。
村全体は緩いすり鉢状の地形になっており、一番窪んだ村の中央には湖がある。夜でよく見えないが樹木もいくらかあるので、陽が出ていれば最高に綺麗だろう。村の東側には畑や農場が集中しており、北側には住宅が、そして南側にはシオンさんの別荘がある。村を見下ろすことが出来るくらい高くに建てられた、あれだ。夜によく映える。
「わぁ……久しぶりです。ファルナ、お出かけしよ……」
「うん、姉さん。色々行きたいところがいっぱいあるもんね」
明日のことだと言うのに、子供たちははしゃぎまわっている。俺も子供の頃旅行に行った時は、こんなにはしゃいでいたのだろうか? きっとそうだろうな。この子たちは普通の子供と何一つ変わらない、と言うことは逆説的に言えば俺だってこうだったと言える。
「このところ、あなたたちには不自由を強いてしまいましたからね」
ノースティングでの幽閉や、王位継承選のことを言っているのだろう。子供の時分には少々ハード過ぎる経験を、2人はたくさんしてきた。だからその分、シオンさんも気に掛けているのだろう。彼らに心の傷が出来ないように、と。
「いやはや、楽しみですね。こういうところにはあまり来たことがない」
ナーシェスさんが、そうナーシェスさんが言った。旅行と聞いて飛んで来たのだ。多良木あたりは渋ったが、主であるシオンさんが許可したので渋々引き下がった。
「到着いたしました、シオン様。久留間、荷物持ってさっさと降りろ」
「はいはい、分かりましたよ。なーんだか俺の扱い、最近悪すぎないかなぁ?」
愚痴りながらも荷物を持って外に出る。結構重い、生活必需品の類をかなり多く持って来ているからだろう。食料品はないが皿やコップなどの配膳用品、包丁やまな板と言った調理器具が盛り沢山。劣化を防ぐためだろうが、ちょっと多すぎる気がする。
「それでは久留間様、荷物を置きますのでこちらにお越しください」
エレオーラさんは慣れた感じで玄関の鍵を開け、中を確認。迷うことなく進んで行く。俺とソーナさんは分担して荷物を持ち、手早く室内に入れた。そのうちエレオーラさんはシオンさんたちの世話に入り、俺たちは3人で黙々と荷物を運び続けることになった。
「これで全部か。旅行って言うより、引っ越しって言った方が正しそうだ」
凄まじい量の荷物を見て、俺は嘆息した。今時の一人暮らしだって、こんなに荷物を持っちゃいないだろうってくらいの量だ。これを一々運ぶのだからスゴイ。と言うことは、帰る時はこれを回収しなければならないということか。初っ端からテンションが下がる。
「お疲れ様でした、皆さん。少し休憩して下さいな」
シオンさんは茶を注ぎ、俺たちに振る舞ってくれた。失われた水分が補給され、現金だがもう少し頑張れるのではないか、という気持ちになってくる。
「まずは食材を調達いたします。重いので分担しましょう、久留間様は――」
やっぱりダメかもしれない。エレオーラさんの冷たい声を聞いてそう思った。
重労働だった。シオンさんが来る、という話は事前に通達されていたためか、食料は用意されていた。ただし、保存技術が未発達なこの世界では長期保存が効かない。なので別荘の蔵に入れておく、なんてことが出来ない。そのため、生産者の方の家まで直接取りに行かなければならなかった。これが滅茶苦茶キツかった。
なにせ、この村は起伏が激しい、往復してくるだけでも大変な重労働だ。比較的軽いものを持ったソーナさんでさえ息が切れているのだからそのキツさが分かるだろう。多良木は自分の加護のおかげで、結構楽をしているみたいだが……
「精神の集中を保つのがキツい、別に楽をしてるわけじゃねえ……!」
言葉が切羽詰まったものなので、ウソではないだろう。代わりと言っては何だが、労働に見合うくらい飯は美味かった。エレオーラさんが台所に立ち、ソーナさんと多良木がフォローし、俺が邪魔をする。最善のコンビネーションで作り出された努力の結晶だ。
「美味い……本当に美味い。俺ここに来てよかった……」
「そうですか。お褒め頂き、恐悦至極にございます」
エレオーラさんはクールなものだ。
しかし飯は美味いので仕方がない。
食い終わると、シオンさんと子供2人はすぐに床に就いた。移動の疲れが溜まっているのだろう。どうせ明日からは、休む間のなく動くことになるだ。エレオーラさんとソーナさんは台所の片づけ、男衆は追い出され、ナーシェスさん以外は居間に集まった。
「お前のせいで、俺まで追い出されちまったじゃねえかよ」
「まあまあ、多良木。お前も働き過ぎなんだ。時には力を抜けよ」
「いつも力を抜いてる奴に言われると、説得力がスゴイな……」
皮肉を受け流し、俺はウッドデッキに出た。風が気持ちいい、エラルドでも感じるとことが出来なかった清涼な風だ。多良木もそれに惹かれて出て来る。
「……いいところだな、ここは」
「だろ? 気を張ってるのもいいけどよ、楽しめ楽しめ。それが一番だよ」
しばらく俺と多良木はそうしていた。
そこで彼女たちの言葉が蘇って来た。
「……なあ、多良木。お前さあ、シオンさんのこと好きなのか?」
多良木はいきなり吹き出した。
そして怪訝な表情で俺のことを見る。
「……お前いきなり何言ってんだ!? 何考えてやがるんだ、エエ!?」
「えーっと……ちょっと他人のことを理解してみようかなー、と思ったんだ」
やはり多良木は理解出来ない、という表情だ。俺の胸中にあったのは、シオンさんの『対話を打ち切っている』という言葉。そしてハルがいった『人を信じる』ということだ。信じるためには……それを知らなければならない。
「……好きとか嫌いじゃねえ。あの人はそんなもんじゃあねえんだ」
多良木は忌々し気に舌打ちし、デッキから室内に戻って行った。
「……分からねえなあ、どういうもんなんだ。オイ」
答えは帰って来ない。
対話をするって難しい、そう思い俺も部屋に戻った。




