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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第六章:そして始まる変革の時
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07-旅行の準備段階から波乱がいっぱい

 少し寒くなってきた。山から吹き下ろす風のせいだ、とレオールさんは教えてくれた。確かに、エラルドは全域が盆地になっている。そのせいだろうな。

 冬の訪れを感じたある日。シオンさんの話から全ては始まった。


「旅行、ですか」

「ええ、エラルド領が大変な状況の中です。大変心苦しくはあるのですが……」

「ああ、いえ別に文句があるわけじゃないんです。ただ、意外だなと思って」


 シオンさんが申し訳なさそうな顔をするので、俺は慌てて訂正した。彼女が休むことに文句を言う人なんて、エラルド領にはいないだろう。彼女以上に働いている人がどこにいるんだって話だ。むしろ、休まな過ぎて部下を威圧している気さえもしてくるから不思議だ。朝昼晩、働き詰めなのだから少しくらい休んでもいい。

 ただ、そんな心配をさせてしまうくらいのワーカーホリックがどうしていきなり休みを、それも別荘に赴いての休暇を取るなどと言い出したのだろうか?


「毎年、レニアとファルナを連れて南にある別荘に行くんです。

 湖畔にある小さなお家、あの人との思い出の地なんです。

 まだ若かった頃、何度もあそこに行きました……」


 シオンさんは過去を思い出すような遠い目をした。

 目が潤んでいる。


「子供たちのため、と言うわけではないんです。

 ただ、私が行きたいだけ」


 自らの目が潤んでいることに彼女も気付いたのだろう、視線を戻し目元を拭いた。夫、ナサニエルさんとの思い出の地か。行きたくなるのも仕方がない。


「では、その護衛のために俺も同席する……ということでしょうか?」

「はい。他には多良木さんと、それからエレオーラさんとソーナさんも」


 遠方に行くとは言え、世話役は必須ということだ。あとは御者が必要か、とも思ったがそれは多良木で何とかなるだろう。結構少人数で行くことになるんだな。


「レオールさんにはすでに通達しています。後はいつ出発するかです」

「シオンさんの御都合がよろしい時、ですね。いつになさるんですか?」

「4日もあれば仕事は片付くでしょう。

 終わり次第出発します、準備をお願いしますね」


 シオンさんは珍しい、とても楽し気な笑みを浮かべた。

 守りたい、この笑顔。




「と言うことで、俺はシオンさんと1週間の旅行に行くことになった。

 いいだろ?」

「で、そのクソみたいな自慢をするためにお前はここまで来たのか?」


 作業中のハルが凄まじい形相で俺のことを睨み付けて来た。採掘作業が上手くいっていないのだろう、かなりのストレスを感じたので慌てて止める。


「そういうわけで、俺がいない間は村の防備を頼んだぜ」

「お前に言われるまでもない。しかし、南方に旅行か……」


 ハルは作業の手を止め、ため息を吐いてからボトルに入れた水を飲んだ。


「何か問題があるのか? 化け物が出現した、って報告でもあったのか?」

「そうじゃない。だが、エラルド南方は戦争によって獲得した土地だ」


 戦争によって?

 それは初耳だ。俺はハルの言葉を傾聴することにした。


「私も詳しく知っているわけじゃない、いまから15年以上前の話だから……

 シオン様がこちらに来られた時と、ほぼ一致するくらいの時期かもしれん。

 南方部族が武装蜂起し、王国に反旗を翻した。世にいう『憤怒の夜』事件だ」


 名前を言われてもさっぱり分からないが、とんでもないことだとは分かる。


「多数の魔法使いと武装兵士を擁立する南方部族は民を虐殺しながら進軍した。

 それに対して鎮圧に乗り出したのが、ナサニエル公率いる王国軍だったんだ」

「そして氾濫は鎮圧され、王国に平和が戻った。めでたしめでたし、と」

「めでたしめでたしで終わる話じゃない。南方部族は殲滅されていないんだ」


 と、なると武装蜂起し民を殺戮した反逆者を許した、と言うことになるのだろうか? 何とも中途半端な対応を行ったものだな、などと俺は思う。


「仕方がなかったんだろうな。

 大将の首で手打ちにしなければ、泥沼の絶滅戦争が起こっていた可能性もある。

 そうなれば、エラルド側の兵力では対応不可能だったんだ」

「いまも兵力が潤沢にある、って土地柄じゃないし、その頃からなのか」

「レオールさんなんかは、南方戦争で手柄を立ててのし上がって来たそうだ。

 ともかく、この武装蜂起は鮮烈な印象を残した。後の西方戦争に繋がるほどに」


 この世界の歴史にもいろいろあるんだな。

 決してユートピアではない。


「だから気を付けろ、武彦。あそこには未だに火種が燻っているんだ。

 正直、どうしてシオン様がそんなところに行きたいのか理解に苦しむが……」

「ナサニエルさんと一緒に行った思い出の地、だそうだよ」


 それを聞いたハルは納得したような、そんな表情を浮かべた。


「愛する人との思い出の地は、いつまで経っても大切なものなんだな……」


 俺にはよく分からないが、そうなんだろうな。と、そこまで考えて、俺の中に急激な違和感が湧き上がって来た。15年前の戦争、シオンさんがここに来たのは……長くとも18年前。戦争が起こる前の3年間もそこに通ったのだろうか?

 内乱になるほど不満が醸成されていたのならば、敵国の貴族がその地に現れて何もないはずはないのではないか? 素人考えだが、大して間違っていないと思う。人は抱えた憎悪を隠して生きていくことなんて出来ない、にも拘らずシオンさんにはその地に悲しい思い出などなかったかのように振る舞う。と言うことは実際なかったのだろう。


(……ならどうして、内乱なんてものが起こったんだ?)


 もちろん、シオンさんたちと王国とはまた別ものだ。俺が知らないだけで、前王は大層酷い圧政を南方に対して敷いていたのかもしれない。しかし……


(そうなるとその後も強い憎悪が残るんじゃないのか?

 立ち入れないほどの)


 そんなものは存在していない。

 だとすると、どういうことになる?


「……なあ、ハル。もしよかったらでいいんだけど、調べて欲しいことがある」

「あのなぁ、武彦。私は忙しいんだ、これを見て分からない……」

「大事なことなんだ。もしお前がダメなら、別の人に頼むってくらい」


 俺の真剣さを受けて、ハルもやる気になってくれた。シャドウハンターから長距離通信機を受け取り、情報の受け渡し体制を整える。出来るかどうかは分からない、と言っていたが、出来て貰わないと困る。もし今後何かが起こった時のために。


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