06-和平条約締結!
実際に会ったのは初めてだが、威圧感がある。
ハルは気圧されている。
「ドーモ、初めまして。向こうの世界ではお世話になったな、次元皇帝?」
「過去のことはいい。問題となっているのはいまだ、違うかファンタズム?」
まったくもってその通り。俺はそこで話をいったん切った。
「我々は交渉に来たのです、次元皇帝陛下。あなた方と争うつもりはない」
「それは我々もだ、王国からの使者よ。我々はこの世界を早々に離れたい」
意外な回答だ。この世界から離れたいと思っているのはシャドウハンターだけではないらしい。アクアクラーケンも、次元皇帝の意見には同意した。
「いい加減改心したのか? 侵略なんてやめとけ、やめとけ」
「そうはいかん。母星を失って以来、我々は放浪の民となってしまった。
故に、ディメンジアの民安住の地を探し求めることこそ我らが使命なのだ。
しかし……」
そこで言葉を切った。次元皇帝はもごもごと口を動かす。
「……あの転移者とかいう連中のせいで我々の兵力は日々失われている」
「ああ、あんたらでも転移者には敵わないのか……」
「あいつらはいったい何なのだ?
普通の人間にあのような力を与えるとは、この世界の神とやらはおかしいのか?
どういう基準であの力を与えているのだ?」
次元皇帝はキレかけていた。熱くなる皇帝をアクアクラーケンがなだめた。
「うん? でも、あんたらも転移者には違いないだろ? 加護がないのか?」
「我々はそのようなものを持ち合わせていない。ホワイトマスクたちも同様だ。
もしかしたら事前に強化処置を受けていたことも関係しているのかもしれない」
テクノロジーと神の力とは相性が悪い、と言うことか。説得力はある。
「……あのようなバカげた力の持ち主はファンタズムだけでたくさんだ。
我々はこの世界より離れ、より移住に適した環境を探さなければならないのだ」
「まあ、この世界からいなくなってくれるなら何でもいいんだが……」
また地球に行くとか言ったら、今度こそ完膚なきまでに潰さにゃならんが。
「こっちの世界に来ると機撃墜された理由って分かってるのか?」
「まだだ。我々がこの世界を離れられない理由の一つもある」
飛び立ってまた撃墜されてもたまらない、ということか。今度はこっちの世界に不時着できる見込みもないんだから、当たり前と言えば当たり前だろう。
「ならばこうしませんか、次元皇帝。
この世界をあなた方の安住の地にするというのは」
これまで口を噤んでいたハルが、いきなりとんでもないことを言い出した。
「おい、ハル何言ってんだ。こいつらにこの世界明け渡すって言うのか?」
「そうじゃない。そんなことはさせない。だから殺気を収めろ、武彦」
ハルの額には冷や汗が浮いていた。いつの間にか俺は彼女がたじろぐほどの殺気を放っていたらしい。あんなことを言われれば、誰でもああなるだろうが。
「あなた方はこの世界に順応できる。
シャドウハンターと言う先任者がそれを実証しています。
あなた方も、この星に住まう一員となる。それが私からの提案です」
「何と、次元皇帝に傅けと言うのか貴様は! 無礼にもほどがあるぞ!」
アクアクラーケンは激高するが、しかしハルは真正面から受け止めた。
「明日をも知れぬ不安な日々を過ごすのと、どちらがよいでしょうか?」
「グムーッ! き、貴様……ああ言えばこう言う……!」
ある程度の優位を保っているからか、ハルは常人ならば即座に失禁するほど激しい怒り様を見てもたじろがない。次元皇帝は転移者の存在を恐れている、そこを突けば交渉が優位に進むと確信している。この世界で過ごした数年が彼女を強くしたのだ。
「……一考の価値はあるのではないか、そう私は考えるぞ」
「皇帝陛下!? しかし、そのようなこと我々は決して……」
アクアクラーケンは尚も食い下がった。主君の命を受けてまでも。
「あなた方にとっても悪い話ではないはずだ。別に我々の下につけとは言わない。
正式にアルグラナ王国との国交を結ぶことが出来ればメリットもあるでしょう。
奪うしかなかった資材も正式な取引で手に入れることが出来るようになります。
次元脱出を行うにしても、その方が得策では?」
「……力を失った帝国では、この世界で生きていくことは出来ないか……」
皇帝は苦渋の決断を下した。
「ディメンジア1000の民の安住のためならば、私は敵の軍門にも下ろうぞ」
「あっ、そんなにいたんだディメンジア。せいぜい数人だと思ってた……」
「次元城地下には民がコールドスリープ状態で目覚めの時を待っている。
しかし、陛下……おいたわしや! 我々の力が足りぬばかりにこのような!」
アクアクラーケンは嗚咽を漏らした。こいつも大変なんだな、色々と。
「とにかく当面の危機は去ったってわけか。これにて一件落着……」
「そうじゃない。忘れたか、我々はまだ依然として危機に見舞われているんだ」
……そう言えばまだら色の化け物のことがあったな。ディメンジア登場のインパクトですっかり忘れていた。ハルは話を続けた。
「まず、あなた方がこの世界についてどれほど理解しているかだが……」
ハルは2人に確認を始めた。彼らがこの世界に来たのは4年前、出来るだけ外界との接触は断ってきたそうだが、ダークと遭遇したことくらいはあるようだ。交戦記録を確認し、ダーク避けの対策を取り不自由な生活を続けて来たそうだ。
「大変な日常を送ってらっしゃったんですね、あなた方は……」
「すべてはファンタズムに敗北してしまったから……グムーッ!」
「よせ、アクアクラーケン。見苦しいぞ。
ともかく、我々ディメンジアが知ることはその程度だ。
まだら色の怪物についてはすまぬが力になれぬ」
それは予想していたので、特に落胆するようなことはない。
「さて、それでは……私はこれまでのことをシオン様に報告して来ようと思う。
武彦、お前はディメンジアに残ってくれ」
「……体のいい人質とか、そういう扱いなのかな? 俺は?」
「友好の証さ。明日にはこちらに戻って来る、それでは失礼いたします」
ハルは深々と頭を下げ、踵を返して次元城から去って行った。
「まだら色の怪物についてはこちらも聞かなければならないことがある……
それと、あのダークと言う生き物についてもな。
我々はお前たちが知らないことを知っている」
「何だって? あー、つまり……あんたらはダークを科学解析にかけたと?」
この世界になくてこいつらが持っている物、その最たるものは科学技術だ。
「そういうことだ。とはいえ、今日はもう遅いだろう……部屋を用意させる」
そういうと次元皇帝は手をあげた。ホワイトマスクの1人が歩み寄る、彼はそれに耳打ちをした。俺の部屋を用意するように通達しているのだろう。かつての敵の本拠地で眠ることになる、と考えると肝が冷えるが……仕方がないか。
「窮屈だとは思うが、我慢してくれ。精一杯のもてなしをしようぞ……」
いいぜ、やってやろうじゃないか。人質の責務を全うしてやる。




