06-次元帝国降伏!
鉱山の近くには精錬所がある。熱く焼ける鉄と炭の臭いが立ち込める建物の一角には保管庫もある。それはこの場にある建造物の中で、もっとも強固なものだ。俺たちはそこにアクアクラーケンを引っ立てて、監禁した。気休め程度だが拘束も施してある。
アクアクラーケン投降はUFOにも伝わったようで、残っていたホワイトマスクは大人しく地上に降りて来た。UFOも村人が数人体制で監視を行っている。
「で、どうしてあんたがこんなところに?
他の仲間はどうした、ええ?」
アクアクラーケンを囲むのは俺とハル、そして村の代表である炭鉱主さん。
「待て、そもそもこいつらはいったい何者なんだ?」
「彼は転移者です。我々と同じ存在ですが、危険な力と思想を持っている。
申し遅れましたが私は世木春馬、七天教会武装神官です。
こちらは久留間武彦」
ハルは折り目正しく自己紹介を始めた。彼は俺たちが転移者であるということを、思いのほかすんなりと認めてくれた。彼はかつて西方開拓者連合との戦争に参加しており、その戦いの最中転移者と交戦したというのだ。生き残ったのは彼一人だったらしい。
「転移者と戦ってこれだけの被害で済んだのは、幸運だったと言うほかない」
「あんたらに村を壊滅させる意図はなかった。そうだろう、アクアクラーケン」
もちろん、幸運だったというのもあるだろう。だが、アクアクラーケンたちの動きはあからさまに村人の命を狙ってのものではなかった。武装は非殺傷型の電気銃、人員は最小限。ブラッドゴリラとやらにも非殺傷指令が下っていただろう。
「……我々は村人をいたずらに傷つける意図を持っていたわけではない」
「ふざけるな、ならばなぜ襲撃を仕掛けてきたりしたんだ?」
もちろん、そんなことを襲われた方は信じられないだろうが。
「我々は拠点である次元城を修復するための物資が必要だったのだ。
だから、鉱物資源を豊富に持つこの村を襲わなければならなかった。
我々は金銭を持たぬ故……」
「こっちの世界のもので、お前さんらの宇宙船を直せるもんなのか?」
「モノによるだろう。だが、その可能性は高いと我々は見ていた」
そういうものか。ディメンジアの科学技術は俺たちのそれとはかけ離れた次元にある、余計な詮索をしたところで無駄だろう。他を当たらなければ。
「まだら色の化け物について、知っていることを話してもらおうか」
「まだら色の化け物? 何のことだ。いったい何を言っている?」
「とぼけるな。私たちはそれを探してここまで来たんだ。
この辺りに拠点を作っているのならば、知らないはずはないだろう。
ダークではないまだら色の化け物のことを……」
そこまで行って、ハルは考え出した。
そして、一つの結論を出した。
「化け物を作り出したのはお前たちだ。違うか、アクアクラーケンとやら?」
「だから何を言っている! まだら色の化け物などと言うものは知らんぞ!」
アクアクラーケンは本気で何を言っているのか分からない、という態度を取った。無論演技である可能性はあるが、しかしここまで迫真の演技を彼らが出来るだろうか? 異界からの侵略者である彼らは、人間の感情に疎い。
「あの、世木様。恐らく、彼らはまだら色の化け物とは無関係かと思います」
「? どういうことですか、村長。彼らはこの村を襲った、つまりは……」
「言っておりませんでしたが、まだら色の怪物はエラルド側から出現します。
それに対して、彼らは開拓両側に拠点を持ち、そこから襲い掛かって来る。
場所が合わないんです」
同じ勢力であるのならば、わざわざ隠す必要もないだろう。
「それに、襲撃の時期が合いません。
彼らはまだら色の怪物が現れた、その数日後に襲撃を仕掛けて来たんです。
もし撹乱だとしても、それならば時期を合わせるでしょうし」
「ううむ、確かに筋は通っている……お前たちはあの化け物と関係ないのか?」
「だから最初からそう言っているだろう! ワケの分からないことばかり!」
アクアクラーケンは本気で怒った。
これ以上刺激すると暴れ出しそうだ。
「聞くことは聞いたが……こいつどうする? 始末をつけておくか?」
一応、襲撃を仕掛けてきたことは確かだ。
何らかの落とし前はつけなければ。
「待て待て、腐っても一応転移者だ。すぐ殺そうとするんじゃない、武彦」
「うーん、でもこいつら生粋の侵略者だしなあ。生かしておいても、あんまり」
一度地球を襲って、その上でこちらの世界でも侵略と略奪で生計を立てているのだ。生かしておくメリットがあまり思い浮かばない。が、ハルは渋る。
「ディメンジアとやらのことも聞く必要がある。生かしておけ、武彦」
「うーん、お前がそういうんなら仕方ないか。それじゃあ、処遇は任せるぞ」
村長さんもハル側に立っているようだし、これ以上ゴネる必要もなさそうだ。俺は矛を引っ込めた。アクアクラーケンは安堵したようにため息を吐いた。
「もちろん、落とし前をつけてもらう必要はあるだろうがな。
アクアクラーケン、あんたたちの拠点に案内してもらえないか?
あんたたちのボスと話がしたいんだが……」
「バカも休み休み言え、そんなことが出来るか。
皇帝陛下はお前たちなどと」
「次元城とやらを修復したいんだろ? だが自前では物資がないから出来ない。
エラルド側と正式に取引を行えば、物資を融通出来ないこともないだろう。
お前たちにとってもメリットがある話だと思うが……どうだろうか?
無論、そちらの考え次第だがな」
アクアクラーケンは呻いた。
忠誠心と実利の間で揺れているのだ。
「……いいだろう。しかし、バカなことを考えるなよ」
「相手の拠点で暴れるようなバカじゃないさ。そうだろう、武彦?」
ハルは俺に釘を刺した。
バカを言うな、勝ち目のある戦い以外はしない主義だ。
「いいだろう、ならば皇帝陛下の下へと案内しよう。拘束を外してもらえるか?」
「お前の力なら、そんな手錠如き力づくで破壊出来るだろうに……」
「礼儀の問題だ。それに、私に害意はない。わざわざ警戒を強める真似はせん」
窮屈な手錠を外され、アクアクラーケンは触手を嬉しそうに震わせた。
「それでは、さっそく出発しよう。安心しろ、それほど時間は掛からん」
「ああ、そうだ。先に聞いておくけど、あんたたちの拠点はどこにあるんだ?」
アクアクラーケンが答えたのは、王国と開拓者たちを隔てる大河。その上流にあると言う湖に、自分たちの城が沈んでいるという衝撃的な事実だった。




