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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第五章:向こう側の因縁 次元帝国ディメンジア
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06-赤き斜陽の大地

 馬車のへりから顔を出し、背中を台に預けて大欠伸を掻いた。本日は晴天なり、起きているのも眠っているのも心地いい。空では小鳥が遊び、地ではウサギが駆けまわり、水の中では魚たちが自由に泳ぐ。平和と言うのはこういうことを言うのだろう、きっと。


「自然を楽しむのは結構だが、真面目に仕事に取り組んでくれないと困るぞ」

「何言ってんだ、ハル。俺はいつだって真面目に働いているんだぞ?」


 ツッコミも入れずにハルはため息を吐いた。止めろ、それは俺に効く。


「……でさあ、アイバルゼンってのはいったいどういう場所なんだ?」

「何だ、事前に調べて来なかったのか? 真面目だのなんだのと言って……」


 ブツブツと言いながら話をしてくれる。

 俺には出来過ぎた幼馴染だ。


「この辺りはまだ緑が豊かだが、少しすると不毛の大地にぶつかる」

「そこがアイバルゼンか。地中に含有されている鉱物のせいとかそんな感じ?」

「計測機器もないからそこまでは分からないが、恐らくはそんなところだろう。

 赤土の大地が広がる様は壮観だ。水も結構あるから人が生活するには困らない。

 おもな産業は鉱物の売買と金属加工、結構浅い層から採れるんだそうだ。

 金属採掘と加工のノウハウは貴重だから、それを狙う人々が後を絶たない。

 だから自衛の戦力はあるはずなんだ……」

「それに、西方開拓者連合とやらとも国境を接しているんだろう?」


 シオンさんとの会話に出てきた内容だ。

 ハルは首を縦に振る。


「ただ、大河を挟んでいるから接近はかなり困難だし、事前に察知出来る。

 だから開拓者連合側も迂闊には手を出してこないはずだ。だがいまは……」

「アイバルゼンも混乱している。

 向こうがちょっかい出してくるかもしれない、か」


 人が困っているところに付け込もうとする奴らがいるのは、こっちの世界も向こうの世界も変わらないらしい。戦いの基本だから当たり前かもしれないが。

 更にしばらく、俺たちは馬車に揺られた。沈黙が俺たちの間に立ち込める。


「……なあ、ハル。まだら色の化け物の話、お前はどう思う?」

「私は直接戦ったわけではないから、大したことが言えるわけじゃない」

「いいんだよ、お前が思っていること、考えていることを話してくれ」


 言及を避けようとしたハルを促した。

 彼女は少し考えてから言った。


「……まだら色の怪物に関する記述は、少なくとも文献の中には存在しない。

 それは、これまで存在しなかったことを意味するとリニアは考えている」

「リニアは、ってことはハルはまた別の可能性を考えてるってことか?」

「もしかしたら、もっと昔の話……例えば、陽光と宵闇との戦いの時代。

 もしかしたらその時代に存在していたのかもしれない。

 確証はないが、そう考えているってだけだがな」


 なるほど、俺の考えとはちょうど真反対になるのか。


「俺は転移者がこっちの世界に来たから現れたんじゃないか、と考えている」

「リニアと似たような考えだな。どっちにしろ、確証は存在しないがな」

「いいだろ。仮説を積み重ね、消し込むことでしか真実には辿り着けない」


 話していると、地面の色が突然変わった。茶色から赤褐色へ、あまりにも鮮烈で唐突な変化。俺は思わず馬車の幌を退け、外の景色を覗いた。


「おおッ……! こりゃあ、なんて言うか……壮大な景色だな……!」


 視界いっぱいに広がったのは、赤の世界。抉り取られたかのような渓谷がいくつもあり、底には運河が流れている。恐らくは古代から何度も沈下と隆起を繰り返して来たのだろう、数百m級の山々がいくつも見えるし、山頂からは朦々と黒煙が上がっている。活火山に囲まれた地、こんなところだからこそ鉱物がよく採掘されるのだろう。


「映像でしか見たことはないけど……

 グランドキャニオンってこんな感じだっけ?」

「初めて見た時は、私もそんなことを思ったよ」


 この世界には美しい場所がいくつもある。

 ここももちろん、その1つだ。


「……なんだ、武彦。泣いているのか?

 随分と感傷的になったもんだな」

「っせえな、勇壮なものを見たら涙くらい流すだろ、普通」


 気付けば泣いていた。

 大自然のパワーに圧倒されているのだろうか。


「久留間さん、世木さん。そろそろ村に着きます。

 準備をしておいて下さい」


 御者を買って出てくれたアルフさんが、俺たちに降車を促した。


「おっと、楽しい旅もこれで終わりか。さてさて、何が待っているのやら……」

「恐らくだが美味いものは待っていないと思うぞ。

 運河に近いから農耕は出来るだろうが、なにせ土の質がバルオラほどよくない。

 作物が定着し難いんだ。だから昔ながらの狩猟と採集が主なんだが……

 こういうところは質実剛健、味は後回しだからなぁ」

「何だかこっちの世界に来て初めてテンションが落ちた気がする……」


 飯が美味いのがこの世界の良さだと思っていたのに。俺が内心で落胆していると、馬車が揺れた。何か変なものを噛んでしまったのか? そう思った時、馬が激しい嘶きをあげた。何かに怯えているようだ、俺は馬車から顔を出した。


「アルフさん、何かあったんですか? 尋常じゃない様子だが……」

「あっ、久留間さん! あれを見てください、何なんでしょうかあれは!?」


 アルフさんが青空を指さす。

 そこには、空に不釣り合いなものが浮いていた。


 それは、銀の円盤だった。

 楕円形の本体と、上部に球体が一つ。

 更に下の方に何個かの小さな球体が設置されている。

 アダムスキー型UFOが近い。


「あれは何だ……!?

 転移者の力にあんなものが存在するのか……!?」


 ハルはごくりと喉を鳴らした。

 だが、俺はあれの正体を知っている。


「いや、違う! あれは、ディメンジアの円盤型侵攻船だ……!」


 次元帝国ディメンジアは大量の戦闘員、ホワイトマスクや生物兵器を素早く運用するために飛行船を使っている。普段は次元城に格納されているが、必要に応じて次元の壁を破ってこちら側に顕現する、と言うわけだ。内部には6人の乗員と2体の生物兵器を格納することが出来る。俺が戦ってきた時は、それ以上出てきたことはない。


 下部の球体が開き、生物兵器と4体のホワイトマスクがパラシュート降下してくる。それらはアイバルゼンの村へと進んで行く。これはマズいな……


「アルフさん、アイバルゼンへ急いでください!

 あいつらは強いですよ!」

「まったく、怪物への対策だけで忙しいのにあんな奴らが……!

 分かった、すぐに現場へと向かう! 2人はすぐに降りる準備を!」


 アルフさんが馬の尻を叩き、馬車を加速させる。数分の内にアイバルゼンへと到着するだろうが、しかし間に合うかどうか。敵が運用している生物兵器の強度にもよるだろう。ホワイトマスクだけでも並の戦士よりは強い。果たして……


「武彦、あいつらのことを知っているんだな?」

「シャドウハンターと一緒だ。向こうの世界からの腐れ縁ってやつ……

 まさか、こっちの世界でまで戦う羽目になるとは思ってなかったけど」


 因縁ってのは、目に見えなくて決して逃れられないものなんだな。


「知っているなら詳細を教えてくれ。その方がやりやすくなるからな」

「分かった。時間がないから、大雑把なところだけ説明するぞ……」


 残された数分で、俺はディメンジアのことを説明した。



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