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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第四章:マーブル模様と変わる世界
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05-共闘! 宿命のライバル

 薪取、狩猟、採集。様々な用途にこの森は用いられる。人々の憩いの場としても。今日に限っては血生臭い、とても安らぎなど得られるような場所ではなくなっていたが。


「……いた、あそこか! シャドウハンターッ!」


 シャドウハンターは木々の間、少し開けた広場にいた。恐らくは雑樹を刈り取る作業を行っていたのだろう、足元には鎌や斧。そして彼の足元には妙齢の女性が横たわっている。死んではないだろうが、危険な状態だ。彼女を守るために、シャドウハンターは受け身にならざるを得ないようだ。待っていろよ、いま助けてやる!


 狼めいたしなやかな体躯をしたマーブルが爪を振りかざし突進。シャドウハンターはそれを受け流すが、深追いはしない。右側から熊めいた巨体のマーブルが突進してきたからだ。受け流した剣を引き戻すには時間が足りない、だからシャドウハンターは脇の下から左手を通した。格納されていたハンドキャノンが展開し、砲弾を発射する。

 腹を撃たれる、だが撃ち抜かれはしない。たたらを踏んで後ずさる熊。更に背後から小型のキツネマーブルが鋭利な牙を剥き出しにして噛みついてくる。シャドウハンターはその場で跳躍、バックフリップを打ちキツネの顎を蹴り上げた。ここまでは無傷で対処出来たが、しかしここまでだ。空中から突っ込んで来るタカマーブルには対応出来ない。


「待たせたな、シャドウハンター! 俺が来てやったぜーッ!」


 俺は切り株を足場に跳躍、タカ型の怪物にインターラプトを仕掛ける。不意を打たれた怪物は右フックをまともに喰らい体勢を崩し、太い木の幹に激突。地面に落ちた。しかしすぐに立ち上がり、その姿を鳥の特徴を残した人型に変えた。


「お前の報告にあった、まだら色の怪物と言う奴か。凄まじい戦闘能力だ」

「あのシャドウハンターがここまで手こずるんだもんなぁ。そりゃスゲエだろ」


 シャドウハンターはじろりと俺を睨むが、しかし無駄口を叩いたりはしない。


「彼女を死なせるわけにもいかん、さっさと終わらせよう。

 レッツ・プレイ、変身!」


 ファンタズムROMをベルトに挿入、変身。0と1の風が吹く中、マーブルたちが一斉に突撃を仕掛けて来た。変身中に襲い掛かって来るのはマナー違反だろ、もっともすぐに終わるんだけどさ。爪を振り上げて来た熊の手を殴りつける。

 熊の手を弾き、のけ反らせる。反動で回転し、背中から俺に蹴り掛かって来たタカマーブルの胸に蹴りを叩き込む。鋭い鉤爪は俺に届く寸前で止まり、タカが弾き飛ばされる。オオカミとキツネはシャドウハンターが止めてくれている、問題はない。


「これ以上、貴様らの好きにはさせんぞ!」


 シャドウハンターは直刀、シャドウブレードを振り上げた。狼の爪と爪の間に差し込まれた剣は手を切断、狼は苦し気な悲鳴を上げて後ずさった。シャドウハンターは左手を樹上に向け、ノールックで発砲。キツネがクラスター弾に撃ち抜かれ、悲鳴を上げた。キツネは蹴り上げられた状態で器用にも体勢を立て直し、樹上から襲撃の機会を待っていたのだ。もっとも、バレていたのならば意味のないことなのだが。


「オォォォォォッ……この、痛み。この、恨みィーッ……!」


 マーブルは怨嗟の声を上げて、一斉に後ずさった。逃げるのか?

 そうではない。マーブルが一点に集まったかと思うと、それらの体が解けた。


「こいつはいったい……!? 合体でもするつもりか、こいつら!」


 その通りだった。マーブルは解け、一体化し、3mほどの怪物に変わった。


「何でもありだな、オイ。これ以上何をやられたって驚かねえぞ」

「バカが。実際その段になってから狼狽するのが目に見えているぞ」


 3mの獣は両腕で地面を掴み、両足でしっかり大地を踏みしめた。4足歩行の化け物の右肩からは狼の頭が、左肩からはキツネの頭が生まれた。全身の張り詰めた筋肉は熊のように強固なものであり、背中からは鷹の翼が生えて来た。


「キマイラって感じか。面倒くさい相手っぽいが、どうする?」

「どうするもこうするもあるまい。この巨体では空を飛ぶことも出来んだろう。

 ようするに、形が変わっただけの雑魚だ。やることは一つも変わらん……!」


 シャドウハンターは構えを取り、キマイラの攻撃を警戒した。


「オォォォォッ……おのれ、貴様……このっ、恨み!」

「またかよ、うんざりだ。アンタに恨まれる覚えはないんだけどなぁ」


 キマイラは咆哮をあげた。すると、キマイラの体からどす黒い色のオーラが立ち上る。それらは鷹の形を取り、翼をはためかせ俺たちに向かって飛んで来た。シャドウハンターは剣で鷹を打ち払い、倒れた女性を守る。俺も拳で鷹を迎撃しつつ、キマイラに向かって行った。キマイラは近付いて来た俺に向けて太い前腕を振り上げる。

 なぎ払われた爪を屈んで避ける。と、同時に右肩にいた狼が腕の表面をズズズと滑り、俺に向かって噛み付いて来た。攻撃を行えばカウンターで噛みつかれる、舌打ちし側転を打った。地面に転げた俺に追撃を繰り出すべく、キマイラは左前腕を振り上げた。


 狐の目がギョロリと動き、俺を睨んだ。腕から尻尾が現れ、俺の喉を掴んだ。凄まじい力、このまま俺を押さえ込んで踏み潰す気か? そうは行くか。

 足を跳ね上げて振り下ろされた腕を弾く。首に巻き付いた尻尾に渾身の力を込めて、千切った。キマイラは悲鳴を上げて後ずさる、俺は素早く立ち上がり再びキマイラに向けて構えを取った。相も変わらず、憎悪を込めた視線を俺に叩きつけて来る。


「恨み、恨み、恨み……オォォォォォォッ」

「しつけえっての。決めてやろうぜ、シャドウハンター!」

「貴様に指図を受ける筋合いはない。だがこいつが邪魔なのも事実!」


 シャドウハンターは納刀し、中腰姿勢になった。俺もベルトのボタンを押し込む。『フリーダム・ストライク!』の機械音声が周囲に響き、ファズマが右足に収束する。右足を引き腰を落とし、必殺の一撃を繰り出すため己が身を弓の如く引き絞る。


 まずシャドウハンターが動いた。左腕のハンドキャノンを展開、クラスター弾を連射しながらキマイラへと迫る。キマイラは散弾の雨を避けることが出来ず、その身にいくつもの弾丸を受ける。その隙にシャドウハンターは懐まで跳び込んだ。


「変射抜刀――!」


 右足で大地を踏みしめ、右手で柄を握る。左腕で剣の軌跡を隠し、極め付けとばかりに大気の撹乱で立ち筋を惑わす。キマイラは目の前にいながら、シャドウハンターの剣をまったく見切れなかった。銀の光が閃き、キマイラの腕が飛んだ。

 薙いだ剣を持ち上げ、袈裟掛けに振り下ろす。キマイラの左腕が肩口から切断される。ダメ押しとばかりにシャドウハンターは切り上げ、丁度Vの字の軌跡を描く斬撃を繰り出した。キマイラの体に赤い線が一つ、刻まれた。


 地面を蹴り跳躍。体を丸めホイールの如く回転し、その身に物理的エネルギーを蓄える。キマイラはやぶれかぶれに頭突きを繰り出したが、無駄だ。遠心力を乗せた右の踵落としを繰り出す。蹴り足はキマイラの頭の真横を滑るように通過、頭突きが俺に到達するよりも前にキマイラの体を打った。打点からファズマがキマイラの体に浸透し、破壊する。


 キマイラの眼前に着地した俺は残心を決めた。シャドウハンターも剣を鞘に納める。浸透したファズマの力を受け、キマイラは爆発四散した。


「ははっ、いいなこのコンビネーション。俺とお前の前に敵はいない」

「不愉快だな。一瞬でも貴様とコンビを組むなどと……ふざけるな」


 シャドウハンターはクールに言い切り、気絶した女性を抱え踵を返した。まったく、クールな相棒を持つと苦労する。しかし、なぜこいつらはここに?

 マーブルの出現パターンは分からない。だが、かつてこいつらを倒した俺のところに現れたのは決して偶然ではないのではないか。そんな思いが俺の胸中には渦巻いていた。それに、マーブルが発していたあの言葉……


(恨み、ね。恨まれる筋合いも記憶もないが、あいつらは確かに……)

「何をしている、久留間。さっさと村に帰るぞ、仕事の続きだ」


 シャドウハンターの叱責によって、俺は現実に引き戻された。


「へーへー。それにしても、仕事って。お前本来の所属忘れてねえよな?」

「例え時を待つためのかりそめの姿であろうとも、全力を持ってして対処する。

 それが俺の流儀だ、久留間。例え貴様であろうとも、文句など言わせんぞ」

「……いや、文句はねえけどさ。ただ、真面目だなーと思っただけさ」


 へらへらと笑う俺に、シャドウハンターは不快そうな表情を作った。そんなことを言い合いながらも、俺は心中では別のことを考えていた。すなわち、このマーブル模様の化け物どもについてもっと真剣に調べなければならないのではないか、ということだ。


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