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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第一章:異世界転移したのに何の力もない!? 当たり前だろ
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01-1秒間に8人が神官になっているんです!

 大丈夫だ、と言ったがシオンさんは念入りに俺の治療を行った。


「あなたの世界ではどうだか知りませんが、こちらの世界ではこれが普通です。

 傷口が化膿してしまえば、もうそこを削ぎ落すしかなくなるんですよ?

 大変な苦痛が伴います、ああ、焼いて塞いでしまうことも出来ますね。

 あなたはそちらの方がいいですか?」


 大人しく治療を受けることにした。


「しかし、お屋敷の中にダークが出るなんて。

 安全な場所じゃないんですか?」

「周辺一帯のダークは駆除したはずなのですが……

 ダークの生態は誰にも分かりません。もしかしたら生き残りがいたのかも。

 警備を強化しないといけませんね」


 消毒液が振り掛けられ、焼けるような痛みが俺を襲った。レニアとファルナはどうしたのか、気になったから聞いた。特に怪我もなく、問題はなかったそうだ。




 翌日。

 ソーナさんの授業はその日も続いた。今日のお題はこの世界の経済、それから仕事についてだ。王国民の実に半分は牧畜を営んでおり、残りの半分は商人や狩人、あるいは工業生産に従事する人間らしい。当たり前だが、日々の糧を作り出すために多くのリソースを費やさざるを得ないのだろう。意外にも農民の数はかなり少ない。


「採集によって木の実や植物と言った類の食べ物を賄うことが出来るんです。

 また、王国民の主食が肉類であるということにも関係があるのでしょうね。

 農地を作るくらいならそこに牛や豚を放った方がいい、という判断です」


 土地が肥沃だとそういう判断もあり得るのか。日本では稲作が大層栄えたが、ところ変われば食文化も変わる。興味深く聞いていると、視線を感じた。レニアとファルナが俺のことを興味深げに見て来ている。気付かないふりをした。


(……気になるなら話かけてくりゃいいのに)


 まあ、一歩前進か。そんなことを考えているうちに午前中の授業は終わった。気を張っていたので疲れた、ちょっと散歩でもして来よう。昼飯まで時間もあることだし。そんなことを考えながら歩いていると、シオンさんに呼び止められた。


「ああ、こちらにいらっしゃいましたか」

「どうかなさったんですか、シオンさん?」

「久留間さんを探していたんです。

 着いて来ていただけますでしょうか?」


「ええ、それはもちろん。ですがどうしたんですか?」

「はい。実は、七天神教の神官様がこちらにいらっしゃったんです」

「七天神教の?」

「あなたのことを話したら、是非とも会いたいと。いかがですか?」


 会いたいというのならば、会わない理由はないだろう。




 七天教会、世界最大の宗教団体、そしてその神官。取り敢えず失礼にならない程度の格好はさせている、とシオンさんは言った。支給された服はノースリーブのジャケットに白のシャツ、それから紺のスラックス。手縫いなのだろう、少し不揃いだ。


 シオンさんは、応接室の扉をノックした。中から『どうぞ』と声がかかる。他人の家にあってどうぞとは。どうやら相手はかなりの高位者のようだ。シオンさんはやや遠慮がちに扉を開き、俺はそれに続いていく。


「お久しぶりです、シオン様。お忙しい中、突然失礼いたします」


 現れたのは、長く燃えるような赤橙色の髪をサイドテールにしてまとめた勝ち気な美女。俺よりは年上だろうが、シオンさんより20は若いだろう。

 特筆すべきはその服装、と言うよりは装備だ。神官と言っていたが腰には剣と2本の短刀を帯びている。柄頭には刻印が施され、柄には金糸をあしらった布を巻きつけている。戦闘用と言うよりは儀礼用の物に見えた。本当のところはどうなのか分からないが。

 だがそれ以上に奇妙なのは、身に纏ったドレス。肩と胸、腰の辺りは金属で作られた鎧になっていた。更に服と一体化した無骨なガントレット、明らかに戦闘を意識したグリーブ。むしろヘルメットを被っていないのが不思議なくらいだった。


「あなたが転移者か。

 シオン様からお話は伺っている、大変だったな」


 彼女は手を差し出して来た。彼女の佇まい、手に出来たマメ、呼吸の仕方。それらから相当の鍛錬を積んで来たということは分かる。この人はきっと、強い。


「よろしくお願いします。久留間武彦と申します」

「まあ、掛けてくれ。突っ立っているのも疲れるだろう?」


 やはり人の家だというのに、まるで家主であるかのように彼女は振る舞った。俺は困惑しながら席に着く。シオンさんも俺の隣に座った。


「私の名はリニア=モルレット、エラルド領七天教会の神官だ。

 知っていると思うが、七天教会は転移者たちを保護する方針を取っている。

 私はさしずめ、教会からのメッセンジャーと言ったところだな。

 諸君らの行く末を明るく照らしてやろう、ということだ」

「えっ。ですが、俺の保護は既にエラルド領が行っているはずですよ?」

「名目上、すべての転移者は七天教会が管理することになっているんだ。

 王国及びその領地は、言い方は悪いが居留地と言うことになるな」


 どうやらこの世界では、七天教会の影響力の方が王国のそれよりも強いらしい。中世ヨーロッパも長きに渡り、封建君主たちよりもしばしば神官たちの方が力を持ったという。それはチラリと習ったが、国の存在を教会が承認するという体制からも明らかだろう。


 七天教会とは北斗七星めいた星に象徴される7人の神を崇める宗教だ。武勇、叡智、魔力、敏速、統治、繁栄、豊穣の七神は絶対神に隷属する。絶対信徒は太陽の化身であり、この世を遍く照らし、所有する存在だという。光の力は宵闇の中においても、七天を通して輝く。闇に虐げられる人々が光を崇拝するのはある意味当然のことだ。

 そして、この世の所有者とは絶対神であり、封建君主とは神からこの地上の支配権を移譲されているに過ぎない。だからこそ、神の下僕たる神官は君主より大きな力を持つ。


「まあ、そう気を悪くしないで欲しい。

 別にエラルド領の自治権だのなんだのを侵害するつもりはまったく無い。

 キミの行動を阻害しようというつもりもほとんどない。

 ただキミがどこに所属するか、誰が責任を取るかを明確にしたいんだ」


 そう言って、彼女はやや劣化した紙を取り出した。


「それに、身柄を登録するのは決して悪いことばかりではない。

 キミは七天教会の武装神官として登録され、行動の自由を得る。

 大陸全土への通行証を手に入れたのと、ほとんど同じようなものだな。

 更に武装神官協会に登録することも出来る」

「武装神官協会?」


 何とも物騒な名前だ。パワーを感じる。


「武装神官協会の主な仕事は人々を傷つけるダークや狐狸盗賊の撃退だ。

 それ以外には所領の警備など……まあ、いろいろだ」


 要するに何でもやれってことか。それが出来るってことが、七天教会の持つ力と権力を表している気がする。大陸全土に広がるってことは、きっとそういうことだ。


「つまり、あなたたちのためにダークと戦えと?」

「然り。だが、それは当然ではないか?

 何事も慈善事業ではやっていられない」


 リニアさんは鋭い視線で俺を見た。

 やはり、彼女は歴戦の戦士だ。


「大きなメリットがある、食い扶持を稼げるようになるということだ。

 どこの世界でも無駄飯位を永遠に置いておける場所などないだろう?

 働かざるもの食うべからず、とな」

「……この歳のガキが戦わなくて済むくらいには平和な場所でしたが」

「そうか。だが、残念ながらこの世界はそうではない。何か職を探せ」


 少し考える。選択肢はないように思えた。


「必ず戦わなければならない、ということではありません。

 戦い以外のこと……例えば知恵を出すこと、人を癒すことも立派な仕事です」

「とは言っても、俺に出来ることはダークをぶん殴ることくらいですがね」


 俺は頭を掻き、そして答えを出した。


「その申し出、有り難く受けさせていただきます。リニアさん」

「ありがとう、久留間くん。そしてシオン様。

 では早速、こちらにサインを頂きたい」

「俺たちの世界の言葉でいいんですか? こっちの世界の言葉はまだ……」

「ああ、教会には翻訳出来る者がいる。キミの世界の言葉で問題ないぞ」


 外国人でなければいいな、と思いながら俺は名前を書いた。


「では、確かに頂いた。それではシオン様、参りましょうか」

「参りましょうか、って……どこかに行かれるんですか? シオン様」

「ハイ、あなたたちを保護したと正式に教会に通達に行かなければ」


 領主としてのお仕事と言うわけか、大変だな。そんなことを考えていると、シオンさんが俺の前に立った。そして、掌をこちらに差し出して来た。


「久留間さん、王都まで向かう途中の護衛を引き受けてくださいますか?」


 俺はきょとんとしてしまった。そして意図を理解した、彼女はそんな名目で俺に行動の自由を与えようとしているのだ。俺はその手を取った。ありがとうございます。


「それでは、さっそく参りましょう。すでに準備はさせております故」

「ありがとうございます、リニア様。それでは久留間さん、参りましょう」

「分かりました……っと、そうだ。少し荷物を持っていく時間を頂いても?」


 衣食住は心配するな、と言われたので、それ以外のものを持っていくことにする。こちらの世界に来てすぐ、記憶を頼りに作り上げたクラスメイトの名簿だ。我が1‐Bは40人学級、更に教師1人。確か当日5人くらい欠席していたので、彼らは除いていいだろう。彼らはどこにいるのだろう?


(……向こうじゃどうなってんだろう。

 心配、してんのかな? ハルとか……ないか)


 この辺りは追々調べて行くことにしよう。いまは目の前のことを解決するだけだ。決意を新たに部屋を出ると、レニアとファリスの姉弟がいた。


「お母様と一緒に、王都に行かれるの?」


 レニアがおっかなびっくりと言った感じで話しかけて来た。


「ああ、お母さんから聞いたのか?」

「お母さんのこと……よろしくお願いします」


 そう言って、二人は同時に頭を下げた。1秒くらいそうしたかと思うと、そそくさと去って行った。そして通路の角に立ち、もう一度頭を下げた。


「……ああ、しっかりやってくる。必ず無事に帰すよ」


 俺は踵を返した。

 母の事と、それから自分たちの事。

 二度の礼の意味を考えた。


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