04-裁きなんて絶対にごめんです
動き出した巨大神像が石の剣を振り上げる。全長10m、剣だけでも軽く5mを越える。と、すると剣自体の質量も極めて大きいだろう。あんな物で押し潰されたら絶対に死ぬ。俺は全力で横に跳び、巨大剣の一撃を避けた。石畳が砕け散弾めいて打ち出される。
「オイオイオイオイオイ! んだよこいつ、こんなの聞いてねえぞ!」
「こ、古代遺産の自動人形! 初めて見た、実在してたんだ!」
ムルタは恍惚めいた声を上げる。
学術的興味は後で発揮してくれ!
「で!? どうすりゃこいつら止められる! 俺たちが死ぬ以外でさ!」
「えっ! えーっと、魔力の糸でゴーレムは操られているんです!」
魔力万能か。
いや、まあそういうものなんだろうけどさ。
「だから魔力の発生源……そう、頭についている宝石を壊せれば止まります!」
あれか! 俺はゴーレムの額に輝く白い宝石を見た。
「あっ、でもこれは貴重な歴史資料……こ、壊したりしないで下さいよ!?」
「ふざけんな、どっかぶっ壊さねえと俺たちがぶっ壊されちまうわ!」
左の神像も動き出す。左手には丸盾、右手にはトゲトゲのメイスを持っている。地面すれすれになぎ払われたメイスを屈んで避け、ファンタズムROMを取り出す。
「レッツ・プレイ。変身!」
0と1の風が俺を包み込む。右の神像は双剣を振り上げ、垂直に振り下ろした。多良木はそれを右に避け、俺は左に避ける。ゴロゴロと転がりながらシーフROMを取り出し再変身。ファズマシューターをゴーレムの頭部目掛けて放った。
ファズマの矢は、しかし着弾の寸前で消散する。恐らく、何らかの魔力的な防御フィールドが張られているのだろう。魔力万能か、こうなれば直接壊すしかない。
「多良木ィッ! 右の奴は頼んだ、俺は左のゴーレムをやる!」
「うるせえーッ、命令してんじゃねえよ! 久留間!」
そう言いながらも多良木は拳を打ち付け、力を発動させた。彼の全身から半透明のオーラが浮かび上がり、体を包み込む。振り下ろされた剣に飛び乗り、そのまま上を目指した。バカげた身体能力なしには出来ないことだ、俺も頑張らないと。
「馬鹿力が取り柄みたいだが、俺のスピードについて来れっか?」
トン、と踵を打ち鳴らす。主観時間が鈍化し、この世のありとあらゆる出来事を俯瞰するかのように鋭い知覚が俺にもたらされる。シーフ、高速戦闘モード。返す刀でなぎ払われたメイスの下を潜り、俺は駆け出した。
ゴーレムの足元に辿り着いた時、まだメイスは振り切られていなかった。迎撃を行おうとすれば体勢が崩れる、だから何も出来ない。ゴーレムの制御系インターフェースは優秀なようだ。俺は跳び上がり、膝関節のアーマーを蹴って再跳躍。盾の持ち手を蹴り更に跳ぶ。目指すは額の宝石、ただ一直線にそれだけを狙っていく。
ベルトのボタンを押し込む。『シュート・ストライク!』の機械音声が流れ、俺の右足にエネルギーが収束する。射撃ではなく蹴撃、ゴールの向こう側まであれを蹴り込んでやる。ファズマを纏った右足を振り抜き、額の宝石を打った。
蹴り足に触れ白い宝石がひび割れる。それでもなお力を緩めず、俺は宝石を蹴り抜いた。宝石は圧力に負けて飛び出し、岩を貫通して壁に激突。すべてのエネルギーが崩壊の一点に収束し、宝石は砕けた。同時にゴーレムも動きを止める。
一方で、多良木も三角跳びの要領でゴーレムを蹴りながら跳躍。目にも止まらぬ速さでゴーレムの頭部まで登ると、足を振り上げた。そして、気合と共に宝石を何度も踏みつける。魔力シールドも連続で打ち込まれるストンピングには耐えられなかった。宝石がひび割れ、そして砕ける。2体のゴーレムはほぼ同時に力を失い、崩れた。
「す、スゴイ……古代遺産が、まるで相手にならないなんて……」
頭部を蹴って跳躍、崩れゆくゴーレムから脱出し地面に降り立った。
「ざっとこんなもんよ。調べるならもっと慎重にやってくれよ、なあ?」
「うっ、ご、ごめんなさい。で、でも貴重な文化財を守れましたし……」
文化財を守れりゃおれたちの命が危険に晒されていいってのか、この野郎。まあ、結果論から言えば怪我はなかった。この遺跡を調べるために犠牲になった人々には申し訳ないが、まあその辺りは彼らも覚悟していたんだろう。
「で、お前さんはこれからどうするんだ? いったん帰ってから報告か?」
「そうですね。僕一人じゃ何も出来ないでしょうし、仲間を呼ばないと……」
言っていると、再び揺れが俺たちを襲った。
遺跡の防衛機構? 違う。
「地震だ……! クソ、マズい! 崩れそうだぞッ……!」
天井が崩落し、壁が落ちる。経年劣化に遺跡自体が耐えられなくなったのだ。屋上の耐荷重も限界を迎えたのだろう。いずれにしろ、この遺跡は遠からず崩落する。
「脱出するぞ! 入り口まで戻っている時間はない、あそこから出る!」
「ええっ!? ちょ、ちょっと待ってください! も、持ち出せるものが……」
「ンなこと言ってる場合か! さっさと来いや、命の方が大事だろうがッ!」
多良木がムルタの体をひっつかみ、天井に開いた穴目掛けて一目散に駆けて行った。俺もさっさと行かなければ。トントンと爪先の調子を整え、駆け出す。落ちて来た天井に押し潰される寸前で俺は駆け出し、闇の世界から脱出した。
崩落した穴は山の中腹辺りに続いていた。脱出しても油断は出来ない、この辺りの崩落も始まっているのだから。俺たちは領域を越えないように注意しながら走り、遺跡から逃れた。やがて最初の広場まで辿り着き、振り返ると遺跡は完全に消えていた。
「間一髪、ってところだな。何とか生きてここまで帰って来ることが出来た」
「ううッ、遺跡が……ぼ、僕の初仕事だったのに。こ、こんな……!」
「っせえな、いつまでもウジウジ言ってんじゃねえ。生きただけ儲けもんだ!」
多良木は吐き捨てるが、しかしそう簡単に割り切れる話でもないだろう。彼らは遺跡の探索に命を賭けていたようだし、文字通り命を削られるような話なのだろう。
「取り敢えず、ここを離れようぜ。遺跡の崩落で野生動物も殺気立ってる。
ここにいる方がむしろ危険だ、宿場町まで戻った方がいいな、こりゃ」
「賛成だ。帰ってさっさと休みてえ。オラ行くぞガキ。いつまでも座ってんな」
「ううッ、初仕事で何でこんな事に……僕が何をしたって言うんだよぉっ……」
「っせえな! グチグチ言ってんじゃねえ、さっさと帰るンだよ! 行くぞ!」
とか何とか言っておきながら、ムルタのために背中を貸してあげるあたり彼には同情しているんだろう。なんだかんだ言って、心優しい男なのだ。
シーフの視覚が闇を切り裂き、聴覚が危険を察知する。一番安全なルートを探りながらも、俺の心は別のことを考えていた。すなわち、遺跡で見たもののことを。
(あの壁画に描かれていたのは、間違いなく俺がこっちに来る時会った女神だ。
七天神教で同じものを見なかったことを考えれば、女神は宵闇側の存在。
だが……)
確かにあの時聞いた。
世界を救ってくれと、切実な口調にウソはなかった。
だが同時に、思い出したことがある。血族を守ってくれとも言っていた。血族とはいったい何か、文脈から考えれば女神の一族ということになるのだろうか? 神の血を引く存在が、この世界に存在しているのだろうか? それも、邪教として断罪される定めにある宵闇の女神の血を引く一族などというものが、本当に。
(いや、邪教と断ぜられているからこそ守られる……って考えることも出来る。
宵闇教徒は意外と多いって話だからな。それに気付いていないのかも)
自分の出自にすら気付いておらず、自分が宵闇に組みしていることに気付いていない。その方が可能性としては有り得るのではないだろうか? ということは、女神は俺の無知につけこんで邪神の子供を守らせようとしていたのだろうか?
(こっちの世界で調べれば簡単に分かる。反発される可能性だってあるだろう。
そんな簡単なことを見落としているとは思えない……だとすると……)
俺の近くに、邪神の血を引く子供がいるということか?
まあいい、いまは休もう。
ムルタを引き連れ、俺たちは正気の世界へと戻って行った。




