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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第四章:マーブル模様と変わる世界
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04-不信心者への罰!

 その部屋に入り込んで、俺は息を飲んだ。

 一際広い部屋、部屋の両端には波打つ円柱が等間隔に置かれており、あたかも古代ローマ神殿に入り込んだような錯覚に陥る。部屋の中央には奥の台座へと続く石畳が敷かれており、その両端には石造りの台座がある。かつては神像を置いていたのだろうが、いまはどれも朽ち果て原形を留めていない。


「相当劣化が進んでいるみたいだな。いつ崩落してもおかしくないぞ」


 多良木は天井を見上げた。部屋の右隅は完全に崩れており、餓獣の咢の如くぽっかりと開いている。先ほど通り抜けた風は、あそこを通って行ったのだろう。更に、ひび割れた天井からは植物の根らしきものが張り出している。あれが皮肉にも崩落を防いでいるのだろうが、しかし自重に耐え切れなくなるのも時間の問題に思えた。


「とっとと終わらせて、さっさと帰ろうぜ。

 こんなところに長居してられるか」


 賛成だ、と多良木は首を縦に振った。少年、ムルタの後ろに続いて、俺たちも歩く。道中のようなトラップがないかと警戒したが、いまのところそれらしきものはない。彼のように無防備に歩き回るのも、果たしてどうかと思うのだが。


「これは、後期宵闇文明に見られる装飾ですね。ここを見てください、この波紋。

 それまでの技術では作れなかったもので、以前の装飾は非常に単純な物でした。

 ところが、ある時からこうした複雑な形状が彫れるようになったんです。

 ですから……」


 ムルタは熱心な解説を行った。そう言われても、俺たちはこちらの世界の歴史などさっぱり分からないので右から左に聞き流すだけだ。っていうか宵闇文明ってなに?


「……お前、好きなんだなこういうのが。話に熱が入ってるのが分かるぜ」


 多良木は遠回しに『黙れ』と言ったが、少年は分からないようだった。


「はい、誰も神話以前の時代に興味なんて持ちませんけど、でも楽しいんです。

 『宵闇』にも『陽光』にも信者がいて、そこで人が暮らしていたんですよ。

 そう考えるとわくわくしてきます、昔の人がどんなことを考えていたのか。

 それを僅かな手がかりから……」

「分かった、分かった。俺の言い方が悪かった。黙って前見て歩け」

 多良木に強い調子で言われて、さすがのムルタ少年も黙った。


(楽しい、か。分からないでもないけどな、こんなのを見ると……)


 むしろ、よく分かる。これほど広大で、そして巨大な建造物を作り出すほどの文明が存在したことが。そして、それが戦争に負けて滅んでしまったという事実が。彼らはいったい何を考えて生きていたのか? そしてどうしてそれを捨て去らなければならなかったのか? 残された手掛かりをパズルめいて組み合わせ、推理する。きっと楽しい。

 しかし、その楽しみは命の危機がないところまで取っておくべきだ。いまのところわなは存在しないが、しかし油断は出来ない。下手をしたらこの部屋そのものが、いや神殿そのものが崩落することだってあり得るのだから。常在戦場だ。


「スゴイ、大きいですね……ここまで来ると、すごくよく見えます」


 神殿の最奥部に、それはあった。すっかりくすんだ銅色の燭台、そして捧げ物を奉納するために作られたのであろう椀のようなもの。祭壇の中央にはすっかり劣化してしまっているが本のような厚みのある紙束が置いてある。経典か何かか。

 中心には神の壁画、その両脇には一辺が5m以上あるであろう巨大な台座と、そこに直立する巨大石像。筋骨隆々とした武具を纏った戦士の像であり、かなり精巧に作られている。関節部は球体になっており、どこかデッサン人形を思わせる。


「オイオイ、冗談だろ……なんだ、こいつは……!?」


 だが、俺を驚かせたのはそれではない。神の壁画そのものだった。


「スゴイ……! こんな状態で女神絵が残っていることなんてないですよ!」


 ムルタはすっかり興奮した様子だ。ゆったりした全身を覆う麻のローブに身を包んだ女性。緩くウェーブのかかった長い金髪と愁いを帯びた表情が特徴的だ。夜の闇の中において、黒い岩肌に描かれた壁画であるにも関わらず、彼女自身が光を発しているような存在感があった。おれは、そう。この壁画のモチーフを知っている。


(こいつ、まさか……こっちに来るときに会った女神……!?)


 間違いない、2カ月以上経つがあの時の経験は鮮烈なものとして俺の記憶に残っている。故に、見間違えるはずはない。ここに描かれているのは、あの女神だ。


(ってことは、この女神が『宵闇教団』に信仰されている神だって言うのか?

 宵闇はこの世界を滅ぼそうとするダークを操る神……

 いや、だがあいつはこの世界を救えと)


 分からん。あの女神はいったい何者なんだ?

 俺に何をさせたいんだ?


「あん……? 何だ、こりゃ。金色の……玉?」


 壁画の前にはまた別の祭壇があり、そこには金色の球体が置かれていた。長い年月、ここで放置されていたのにくすみの一つもない。メッキものか。


「こういうのは、古代文明を調べるうえでとても大事な資料になるんです。

 持って帰ってみましょう、これだけの成果があればきっとみんな浮かばれる」


 ムルタは素早く祭壇に近寄ると、金色の球体を手に取った。それにしても、奇妙な形の台だ。受け皿と言った方が正しいか、末広がりになっており、大きさは均等。ムルタが球体を取り上げると、それに連動して皿が少し持ち上がる……


「あ、ちょっと待てムルタくん! そいつは罠だ、恐らく不信心者を選別する――」


 言ったが、間に合わなかった。地震めいた振動が俺たちを襲う。


「これは……! まさか、神殿が崩れちまうのか!?」

「そんな……! ご、ごめんなさい! 僕が迂闊なことをして……」

「やぁ、それで済めばいいかなぁ。状況はそれより悪いかも……!」


 神殿が崩落するなら、崩れたところから脱出すればいい。だが、そうではない。壁画の両脇に立っていた像が動く、関節をぎこちなく動かし台座から一歩踏み出す。足が地面に打ち下ろされると地面が砕け、凄まじい振動が起こった。


「守護神、って感じか。悪くねえな、退屈で死んじまいそうだったんだ……!」


 俺と多良木は背中合わせに立った。2体の神像が同時に動き出したのだ。


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