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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第四章:マーブル模様と変わる世界
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04-デストラップ・ダンジョン

 荒れ果てた洞窟、外の光が届くのはほんの数メートルまでだった。確かバッグの中にたいまつセットがあったはず、と思って取り出そうとしたら多良木が指を虚空に走らせた。青白い光の帯が魔法陣を描き、彼の手の内に白い光球が生まれた。


「魔法か。加護の鍛錬だけじゃなく、そっちもやってたってことね」

「こっちはほとんど使えねえけどな。だが明かりくらいにはなると思った」


 助かった。天然の岩肌を削って作ったのであろう洞窟は、足元さえおぼつかないくらいゴツゴツしていた。苔が生え、地下水が染み出しているところもあり、非常に滑りやすい。俺たちは足を滑らせないように、慎重に進んで行った。


「……おお、スゴイなこれは。本格的な作りになってるみたいだ」


 少し進むと視界が開け、人工的な建造物が姿を現した。床は平坦な石畳になり、壁も滑らかな材質へと変わる。ここまで境がはっきりしていると逆に不自然だ。


「どうやってこんなものを建てたんだろうなぁ。

 決して交通の便がいいわけじゃない、むしろ森の奥で入るのも苦労するだろう。

 それなのに、どうしてこんなところに遺跡を?」

「かつてはよかったんじゃないのか? 人が森の中で住んでいた時代はよ」


 人類がまだ文明を持っていなかった時代は、ということか。かつて人類は森の中に住まい、森の中で生きた。やがて森を切り開き、平原を自らの手で作り上げ、安全なテリトリーを築いた。ここはそうなる以前に作られた場所なのだろう。


「っかし、いいところかもな。

 ひんやりと涼しくて夏を過ごすには最適……」


 ところどころひび割れがあるのは気になるが、それでも保存状態は極めていい。外の植物が中に入り込んでいないのもその一因だろう。遺跡を観察しながら歩いていると、多良木が突然立ち止まり、俺のことも制止して来た。


「見ろ、久留間。あんなところに血黙りがある。何もねえところにだぞ」


 この暗闇の中でよく見えるもんだ。目を凝らすと、10mばかり先に血黙りが見えた。あの面積から考えて、恐らくは致命傷を負ったのだろう。しかも、血が滴っている。俺は手近にあったそれなりの大きさの石を掴み、床に投げた。


 カチン、と作動音がして天井が凄まじい勢いで落ちて来た。


「吊り天井か。忍者屋敷かっての……」


 多良木は四股立ちになり、呼吸を整えた。そして、正拳一撃。衝撃が吊り天井を駆け巡り、破砕させた。粉々になった天井、そこから何かが落ちて来る。


「……!? 岩崎(いわさき)知美(ともみ)だと……!」


 吊り天井にはご丁寧にスパイクが付いており、彼女はそこに挟まっていた。串刺しにされたのだ。生前の姿を保っていたのが、果たして幸運なことなのか。かっと目を見開き、呆然とした表情のまま死んだ彼女に生前の利発さは伺えなかった。ピクリ、と手が痙攣し、やがて彼女の体が黒色の炎に包み込まれ、爆散した。


「如何に転移者であろうとも、想定外の場所から大質量に襲われれば死ぬか」

「悪趣味なトラップだぜ。しかし、何でこんなところに……」

「一人じゃなかったんだろう。何人かでここを調べに来たんだ」


 外の燃えカスの周りには、複数人分の足跡があった。恐らく、ここの調査か何かに来たのだろう。転移者たる彼女の仕事は護衛だ、それが一番最初に死ぬことになるとは驚きだが。引き返していないところを見るに、この先にも人がいるはずだ。


「で、どうするんだ多良木? このまま俺たちも先に進んで行くのか?」

「戻るに戻れなくなってるのかもしれねえ、ってことだろ? 行くぞ」


 助けに行ってやる、ってことか。

 思っていたよりもヒーローだな、この男は。


 その後も俺たちは色々なトラップを潜り抜けて行った。下に剣山を仕込んだ落とし穴だの、槍衾だの、鉄球だの。俺たちの知覚力を持ってすれば、この程度のものを回避することなど造作もない。先行して引っかかった連中がいることも大きいだろうが。


「いやー、参ったな。マジで死ぬかと思ったわ」

「つーか、神殿なんだろ? なんでこんなに大量のトラップを仕掛けてんだ?

 こんなんじゃ参拝客が根こそぎ殺されちまうだろ……」


 確かに、これはおかしい。まるで要塞みたいな感じだ。誰かを招き入れるためにあるというよりは、人を寄せ付けないためにあるようにも見える。それとも、この程度のトラップを潜り抜けられなければ宵闇教徒として認められないのだろうか?

 風が奥に流れて行く。恐らく、天井か何かが抜けているのだろう。俺たちは遺跡の奥へと向かって行った……ところで、気配を感じる。刺すような気配を。


 曲がり角の向こう側、隠れているがピリピリとした警戒感を抱いていると分かる。俺たちは気を引き締め、その先へ足を踏み入れた。そこで、物陰に隠れていたものが動く。手には大振りなナイフ、突き込んで来る手首を多良木は取った。


「なんだぁ、手前は?」


 万力の如き力で握り締められ、『ギャッ』と悲鳴を上げた。ナイフが地面に落ち、カランと転がった。多良木はナイフを蹴り、捕えたそれを放してやった。


「ひぃっ、助けて下さい!

 こんなところに入ってごめんなさい、殺さないでーッ!」


 そしてすさまじい勢いで土下座を始めた。こちらの世界にも土下座ってあるんだなー、と思ってそれを見る。その小さな影はプルプルと震えていた。


「顔を上げなさい。別に俺たちはキミに怒っているわけじゃないよ」

「それにしちゃあ、とんでもなく態度がデケぇ気がするんだが……」


 土下座した少年が顔を上げる。分厚い眼鏡越しに、赤い目が俺たちを見た。ボサボサになった(オレンジ)色の髪が風に揺れてたなびく。べそをかいていた少年は俺たちが普通の人間であることに気付き、ようやく震えと恐れを治めたようだった。


「こ、怖かったぁ……ば、化け物かと思いましたよ……」

「ちゃんと確認してから光物を使えや、小僧。

 俺じゃなかったらヤバかったぞ」

「はいっ、すみませんでしたッ! 以後気を付けますッ!」


 ほこりを払いながら立ち上がると、やたらとハキハキした態度で言った。さっきまでとはテンションがまるで違う、あるいはこっちの方が素なのか。


「ムルタ=エンディスと申します。

 七天教会、武装神官協会所属。探索部の見習いです」

「探索部? 神官協会にはそんな部署もあるのか……」

「知らねえのか? 俺は教わったがな。

 七天教会の持つ大きな役割は3つ、1つは精神的支柱、2つは兵力の派遣。

 そして3つが古代遺跡の探索だ、ってな」


 古代遺跡?

 気にした事もなかったが、この世界にもそんなものがあるのか?


「古代遺跡はアルグラナ王国が成立するよりも前の時代に建てられた建造物です。

 『陽光』と『宵闇』、どちらの教団のものも古代遺跡として扱われるんです。

 『陽光』の遺跡には優れた技術で作られた、再現出来ない物品が存在します。

 逆に『宵闇』の遺跡には危険な埋設物が眠っていることも多くあります……

 僕らの仕事は、その調査です」


 ニュアンスは違うが、どちらにも人類の手に余るものがあるってことか。


「太古の戦争で失われてしまったものを取り戻すことが僕たちの使命です」

「相当危険な探索だったみたいだな。お前の仲間が死んでいるのを見たぞ」


 多良木が言うと、少年は苦々し気な表情を作った。


「ベテランの探索師、それに転移者の方も護衛としてついて下さいました。

 今回こそは無事に終わるだろう、みんなそう思っていたんです。

 なのにこんな事になるなんて……」


 彼の目には涙が浮かんでいた。悲しいだろうが、仕方のないことだ。


「大人しく帰ろう。これ以上探索を行うことなんて、出来ないだろう?」

「……いえ! こんなところで帰ったんじゃみんなに顔向けできません!」


 気合十分、と言った様子で彼は言った。そして踵を返し奥へと向かう。


「チッ、あのガキ……放っておくわけにもいかねえだろ。行くぜ」

「面倒臭ェな……冗談だよ、冗談。行くよ、行くに決まってるだろう?」


 多良木がスゴイ目つきで睨んで来たので、俺は慌てて続いて行く。

 まあ、あのガキだってここまで辿り着けた猛者だ。

 変なことにはならないだろう……


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