04-この恨み晴らさでおくべからず!
跳びかかってきたまだら色の怪物をいなし、構えを取った。等間隔に俺たちを包囲する怪物、マーブルとでも呼べばいいだろうか? それともネオダーク? 黒の部分は徐々に白を浸食しているに見える、完全に黒く染まった時に何が起こる?
「ボッとしてる場合じゃねえだろうがッ! 気ィ引き締めろや!」
横合いから腕を伸ばした多良木が怪物の首を掴み、引き寄せた。太いとはいえあくまでそれは高校生の太さ。そこからは想像も出来ないような、それこそ怪物じみた膂力で多良木はマーブルを持ち上げた。そして、跳びかかって来たマーブルの盾代わりにした。
仲間の蹴りを受けたマーブルの背中が鋭角に曲がる。生き物であるならば腰骨を粉砕される威力だが、怪物であるマーブルはそれを意にも介さない。エビ反りになりながらも腕を振り回し、多良木の拘束を解こうとした。多良木はマーブルを投げ捨て距離を取り、腕の一撃をかわすと踏み込んだ。腕が引き戻されるよりも先に鋭いストレートを叩き込む。
盾にしたマーブルと攻撃を仕掛けて来たマーブルが吹っ飛んだ。多良木の力は単純な身体能力増強系、鍛錬によってどこまでも伸びて行く。聞いてはいたがこれほどとは。
「こりゃあ負けてはいられんな、ファンタズム」
繰り出されたパンチを手甲で逸らし、側面に回りつつ足をかけ転倒させる。起き上がる前に脛骨をへし折り戦闘不能に陥らせる……だが、首を折られてなおマーブルは死ななかった。倒れながらも痙攣するような気持ちの悪い動きで俺に再び攻撃を仕掛けて来た。
「ウワッ、気持ち悪ィ。マジで化け物めいてるな、こいつァ」
足首を狙った攻撃をショートジャンプで避け、無防備な背を思い切り踏みつける。マーブルの体は風船のように弾け、全身が爆散。今度こそ動きを止めた、肉体が維持できないほどのダメージを受ければ死ぬらしい。
「急所狙いは無意味だな。とにかくデカい威力の攻撃を、って感じだ」
「ワケ分からねえ連中だぜ。こいつらはホントに生き物なのか……!?」
そうではないかもしれない。こいつらから生気だとか、とにかく生きていると言うのを感じない。まるで操り人形か何かのようだ。
「ウウゥゥゥッ……グググッ、この、恨み……!」
俺たちのことを遠巻きに見つめていたキツネの化け物が動いた。多良木が繰り出したショートフックをスライディングで避け、まっしぐらに俺を目指す。スライディング体勢から繰り出された蹴りを脚甲で受け止める、痺れるような衝撃が走った。キツネは素早く立ち上がると、鋭い鉤爪を振り払う。手甲で受け止めるが、衝撃を殺しきれない。
後方跳躍で距離を取る、キツネもそれに呼応して距離を詰める。多良木が背後からキツネを攻撃しようとするが、他のマーブルがまとわりつくようにして彼を妨害する。何らかの意思を、知性を感じる。少なくとも獣並みの知性はあるということか。
「この、恨み……! 晴らさで、おくべからず……!」
「恨まれる筋合いはないな。
いつも美味しいご飯になってありがとう、ってくらいか」
喋った。いままでダークが喋るようなことはなかったが、こいつははっきりと発言した。聞き間違いなどではない、多良木だってこいつの発言を聞いただろう。それにしても、恨みとはいったい何だ? こいつに恨まれるようなことが何かあったか?
多良木はマーブル相手によく立ち回っている。やや力押しの感もある、マーブルに敢えて自分を噛ませ、それを地面やほかのマーブルに叩きつけたりと、生命力と我慢強さに頼った戦い方も見られる。だがそれは不思議と彼のスタイルにマッチしているように思えた。そんな風にボーっと戦いを観察していると、キツネが動いた。
踏み出し、矢のように鋭いジャンプキックを繰り出す。クロスガードで受け止めるが、やはり衝撃を殺しきれない。その理由は明白、奴がピンと立てた尻尾で地面に立っているからだ。ジャンプキックの鋭さと、踏み込みを乗せたキックの力強さを併せ持った攻撃。俺は再び吹き飛ばされ、崖の手前まで追いやられる。このまま俺を落すつもりか?
落ちても死にはしない。マジシャンもあるから復帰だって簡単だろう。だが、確実に時間はかかる。多良木はマーブルの波状攻撃を受けている、いまはタフネスで耐えているがそれだって永遠じゃない。こいつを速攻で片付けなければ。
ファイターROMを取り出し、交換。0と1の風の中で俺は剣士へと変わった。
手元で剣を回転させ、踏み込む。ここからは反撃の時間だぞ、化け物。
剣のトリガーを1度引く、『スラッシュ・エフェクト!』と機械音声が響き、刀身が鈍い輝きを帯びる。俺は剣を振るう、キツネの化け物は困惑したことだろう。未だ俺とあいつの間には10m以上の距離がある、剣など届きっこないと。
ところがどっこい、届くのだ。鈍色の光は刀身から離れ、伸びる。光が危険なことに気付いたキツネは半身になってそれをかわそうとするが、やや遅い。胸を袈裟掛けに切られて悲鳴をあげた。黒い鮮血が辺りに舞い飛び、汚した。
これが輝煌剣ブラスターエッジに内蔵された機能、スラッシュ・エフェクトだ。刀身を構成するファズマエネルギーを瞬間的に分解し、再構成することによって、斬撃を拡張する。ようするに遠く離れた相手を切ることが出来るのだ。射程は最大でも10m程度、威力も落ちるし、攻撃の瞬間は刀身も柔くなる。使い勝手はよくない。
「ハァァァァーッ!」
だが、こういう時はいい。相手への不意打ち、足止め。そう言った用件があり、かつシーフにも変われないような時はこいつが役立つ。また、なんだかんだ言って一撃の威力はファズマシューターのそれよりも上だ。キツネの相手にはもってこいだ。
盾を掲げキツネに跳びかかる。キツネは裏拳でそれを迎撃しようとしたが、盾の質量と俺の突進力を跳ね除けることは出来なかった。キツネは押し倒され、地面に転がった。立ち上がろうとした狐のくるぶしを切りつけ、切断する。キツネは悲鳴を上げ、腕の力で立ち上がろうとした。一瞬の隙が命取りだ、クソ野郎め。
盾を持った手でベルトのボタンを押す。『スラッシュ・ストライク!』の機械音声が響き、刀身が眩い輝きを帯びる。俺は大上段に剣を構え、振り下ろした。体勢を崩した相手に受け止められるような攻撃ではない。防御のために掲げた爪をあっさりと切断し、ブラスターエッジはキツネを真っ二つに切り裂いた。キツネは爆発四散し、消えた。
(何とかなったとはいえ、強かったな。こいつらはいったい何者なんだ?)
俺はトリガーを引きながら考えた。剣を薙ぐと拡張した斬撃によってマーブルが3体ほどまとめて切り裂かれた。多良木に跳びかかった化け物は、これで2体にまで減ったわけだ。傷だらけの多良木は左フックで右側の敵の顔面を砕き、右のブローで正面から突っ込んできた敵の胸を破裂させた。マーブルは残らず爆散し、あとに残るものはない。
「お疲れさん、多良木。どうやら化け物どもはこれで全部みたいだな」
「……宿場の人が削っておいてくれて助かったな。全部いたらどうなってたか」
多良木は先頭の緊張感が解けたからか、膝を突き樹にもたれかかった。全身血だらけ、傷だらけ。出血は止まっているとはいえ、これでは死人のそれと大差のない姿なのではないかと思った。慣れている俺でさえ目を背けたくなってくる。
「この化け物どものことを知ってるか? ダークじゃねえみたいだが」
「ダークじゃない化け物とも戦って来たけど、そういうのとも違うみたいだな。
どっちかって言うと、ダークに近いものを感じるよ。言葉には出来ないが……」
少なくともディメンジアの生物兵器、通称『怪人』とは違うように思えた。あれも複数の生物を掛け合わせたような姿をしていたり、あるいは巨大化した虫のような姿をしたりしていたが、こんな風に白黒まだらの生き物を見たのは初めてだ。
「取り敢えず、宿場に戻ろうぜ。何事もなけりゃ、それで仕事はおしまいだ」
俺は多良木に手を差し伸べた。多良木は自分で立ち上がろうとしたが、無理だった。彼は渋々ながら俺の手を取り、立ち上がった。空にはいまだ、眩く輝く天球があった。




