表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第三章:王位継承選
PR
41/245

03-突然始まる農作業

 暇だ。2カ月くらいも同じようなことを考えていた気がするが、とにかく暇だ。あれからはとにかく暇だった。戴冠式からとっくに2カ月が経過しているのだ。

 ファンタズムの力を振るえるような事態はそうそう訪れない。ダークだってRPGのランダムエンカウントモンスターのようにポンポン出てくるものではない。あの場から逃げた橡も、こちらにちょっかいを出してくる気配はない。つまり、暇だ。そろそろ天井のシミをマス目に見立ててアミダをするのにも飽きて来た。


「久留間さん、いま大丈夫ですか!? あなたの力が必要なんです!」

「何だって!? どうしたんだ、ダークが出たか!」


 ノックもなしにアルフさんが入って来た。

 これは重大な出来事だろう。


「稲刈りの人手が足りないんです! 久留間さんも手伝ってください!」

「は?」




 そんなこんなで、俺は黄金の畑に連れて来られた。稲穂は風に揺れ、幻想的な光景を作り出す。その片隅で、シャドウハンターが険しい表情で腕を組んでいた。


「あーた、ダメだよ。そンなやり方でやったらよぉー、稲が可愛そうだ」

「いや、しかし……稲に感情は存在しない。あれが一番効率的な、その……」


 次元帝国最強の戦士が、腰の曲がった老人に怒られて小さくなっている。傍から見ると滅茶苦茶シュールな光景だし、傍から見ないでも何が起こっているのか分からない。アルフさんは老人たちに声をかけた。


「お待たせしました。

 人手を連れて来ましたよ、力持ちで暇な人がいたんです」


 アルフさん、ここんところ俺への扱いが悪くなっているのは気のせいかい? まあ、アンタが四六時中働いている中俺はぶらぶらしてるから致し方ないかもしれないが……


「おや、手伝ってくれるのかい? ありがたいねぇ」


 村人の視線には期待が滲んでいた。無理もない、シャドウハンターは優れた戦士ではあるが所詮は(・・・)人の心の分からぬサイボーグ。いわんや作物の気持ちなど理解出来るわけはない。

 勝てる、いまの俺ならシャドウハンターにだって勝てる!


「任せてください。稲刈りのやり方は知っている、一瞬で更地に変えてやりますよ」

「いや、じゃからもっと優しゅうやってくれと言うんじゃが……」


 手元でクルリと鎌を回し、稲穂を手でまとめる。

 そしてその根元を一気に……切る……切れる……切れろ!

 クソ、意外と頑丈だぞこいつらッ!


「くっ……イヤーッ!」

「ヒィーッ!?」


 振り上げた鎌が勢い余って後方にいたアルフさんの足首を掠った。


「あの、すいません久留間さん……もしかして稲刈りやったことなんじゃ」

「はっ、ははは。何を言ってるんですかアルフさん? 俺は稲刈りのプロだぜ?」


 疑惑の目が向く。

 ごめんなさい、ウソです。

 子供の頃農業体験でやっただけです。


「はぁ。まあ、人手がおるってだけでええ。手伝ってくれるだけな」


 そう言って老人たちは作業を再開した。俺を見る目はもはやそこら辺に転がっている枯れ枝を見るようなものになった。なんてこった……クソ。


 まあ稲を担いだり、干したりとやることがないわけじゃない。それにしてもご老人の手際はスゴイ、何十年もこの作業に従事してきた人だからこそ出せる凄みか。それにしても、老人ばかりだな。この村には若者だっていたはずだが……


「ああ、この間の化け物騒ぎがあったでしょう?

 あれから民兵団を編成し、各地の防衛に当たるようにしているんですよ。

 七天教会から傭兵を募るって手段もあったでしょうが、何せ金がかかります。

 刈り入れ時の前だから心苦しい、って言ってたんですが」


 橡が生み出した光の獣、『デザイアプロジェクション』だったか? あれの対策が打たれている、ってことか。俺が寝ている間に世界は歩みを進めていたらしい。


「……っていうか、知らなかったんですか? あの時一緒にいましたよね?」

「……朧気ながら思い出して来た。ああ、あれってそういうことか……」


 アルフさんの視線から感じる意志が、はっきりと『呆れ』から『侮蔑』に変わったような気がした。しょうがないじゃん! 殴り合いしか出来ないんだよ!


「ってことは、屋敷の防衛もしなきゃやばいでしょう。いいんですか?」

「いいんですよ、レオールさんがいますから。お屋敷が一番安全です」


 彼に全幅の信頼を寄せているようだ。だから、もし彼が倒れるようなことがあれば……心配だ。エラルド領は瓦解してしまうのではないだろうか? そんなことを考えながら作業をしていると、屋敷の方からメイド服を着た一団が現れた。


「お疲れ様です、皆さま。そろそろお昼も近い、休憩になさってください」


 クールなメイド長、エレオーラさんは手際よくメイドたちに指示を出した。折り畳み式の台座と日傘が設置され、簡易的な休憩所が完成。台の上には焼きたてのパンやスープと言った食事が並ぶ。自然と腹が鳴った。


「んじゃ、飯にすっか。続きの作業は午後からじゃ」


 リーダー格の老人が促すと、みんな一斉に休憩に入っていった。


「はぁっ……染み入る。労働の後に食う飯ってのは美味いなぁ」

「本当ですね。しかし、どうして皆様こちらに? お屋敷のお仕事は?」

「シオン様からご休憩を頂きました。ですので、こちらに参ったのです」


 エレオーラさんは折り目正しく解答した。シオンさんもシオンさんで、現状に思うところがあるのだろう。彼らに無理をさせているのだから、自分も何かをしなければいけないのだ、と考えているのかもしれない。いい領主様だな。


「おお、武彦が働いていると聞いたから来てみれば。本当だったのか」


 舌鼓を打っていると、教会の方からハルとリニアさんが現れた。


「オメーこそ何やってんだよ。俺が働いてる中優雅にお散歩か?」

「普段の仕事量が違うだろうが、普段の。それに散歩に出てるわけじゃない。

 村人から水路の掘削を頼まれたんでな、リニアと一緒にこれから作業するんだ」


 この辺りの水源は山の中腹にあり、村人はそこから水路を引いているのだと言う。全域に張り巡らされているはずなので、作業と言うのは調整とかだろう。しかし、それなら人手が必要なんじゃないだろうか? 2人が地から作業に向いているようには見えない。


「なら、そっちを手伝った方がいいか? どっちにしろ力仕事だし……」

「ああ、問題ない。風の魔法で地面を掘削するんだ。

 掘り出した土砂を退ける作業なんかはあるが、いまは必要ないかな。

 そっちを手伝っていてくれた方が助かるよ」


 2人で出来ることならそれでいいだろう。決してここから逃げたかったわけじゃないんだ。燦々と降り注ぐ太陽の光を浴びながら、俺は穏やかな時間を楽しんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ