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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第三章:王位継承選
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03-腹を空かした獣はすぐに懐柔される

 翌日。指定された時間よりも少し早く俺は牢獄の前に来た。それより先にハルが到着しており、俺たちはしばらく話して彼らが来るのを待つことにした。


「しかし、あのテレポート能力で中に入られたりはしないのかね?」

「もし奴さんのテレポートがそこまで万能なら、もっと直接的な手を取るさ。

 恐らくは力とリンクした呪物がなければテレポートを行うことは出来ない。

 橡や苫屋さんが持っていた石を覚えているな? 恐らくはあれだ。

 あれがない限り、相手は単なる人間に過ぎん」


 そういうものか。中西さんも治癒を行った相手とはリンクが生じると言っていた、それがなければ使うことも出来ない力とは、不便な力もあったものだ。


「そう言えば、お前もこっちの世界に来て加護に覚醒してるんだよな?

 この期に及んで勿体ぶるなよ、そろそろ加護を使ってもいいんじゃないか?

 もしそれを使ってたら」

「残念ながら、私はもう加護の力を使っているんだよ。武彦」


 どういうことだ?

 申し訳ないがそんなのを見たことは……


「加護には2つのタイプがある。任意発動型と、常時発動型だ。

 私のは常時発動型で、発動の際エフェクトを伴わないから傍目に分かり辛い。

 まあ、そのおかげでこの世界に適応出来ているということも出来るがな。

 私の力はな、学習能力の底上げなんだ」

「学習能力の底上げ? 短時間で物事を覚えられる、ってことか?」

「そうだ。特に魔法関連に対して高い適性を持っているようでな。

 通常の半分程度の時間で魔法を覚えるが出来るようになる。

 それが『深淵の(アルティマ)叡智(ノウリッジ)』」


 ああ、あの恥ずかしい二つ名は自分で考えたわけじゃなかったのか。


「しかし、なんて言うか……地味な能力だな、オイ」


 一瞬で傷を修復したり、青銅めいた強固な鎧を生成したりする力に比べるとかなり地味だ。発動時エフェクトを伴わない分、この世界でも屈指に地味な能力ではないだろうか? もっとも、地味だということが弱いこととは直結しないのだが。


「しかし、おかげさまでこの世界の常識にいち早く適応することが出来たんだ。

 学習能力の底上げは魔法に優れてはいるが、他の面にも応用出来るんでな。

 1年で読み書きを完璧にマスターし、古代語や歴史にも習熟することが出来た。

 確かに戦闘能力ではほかの転移者に及ばないかもしれないがな。

 この世界で生きることについては負ける気がしない」

「だな。裸一貫で放り出されたら、きっと先に死ぬのは俺の方だ」


 ハルはニヤリと笑った。彼女も彼女なりに、俺のことを理解しようとしている……のかもしれない。話していると、ドラコさんが護衛を伴ってこちらに現れた。その中にはローズマリーさんの護衛、織田くんの姿もある。彼は俺たちに気付くと手をあげた。


「よう、ダンスホールではご活躍だったみたいだな。

 俺はお嬢様を守るために引っ込まざるを得なかったんだけどさ……

 とにかく、みんなを守ってくれてありがとな」

「お安い御用さ。それではドラコさん、参りましょうか?」

「うむ。キミたちの手腕に期待しているぞ、久留間くん、織田くん、世木くん」


 ハルのことを『世木』と呼ぶ人間は珍しいな。そんなことを考えながら、俺たちは石段を下って行った。カツン、カツンとよく音が響く。降りてすぐ正面のところに苫屋さんは捕まっている。たった1晩で相当消耗したように見える。


「おはよう。よく眠れたかな? 食事を用意しようか?」


 ドラコさんを睨むが、その目には覇気が感じられない。ドラコさんは俺を促した。牢屋の中に踏み込んで行き、口枷を外す。途端、彼女は荒い息を吐いた。


「キミが喋るのならば、我々はキミに然るべき待遇を用意しよう。

 しかし、そうでないならばここでずっと孤独な夜を過ごすことになる。

 どちらがいいか、選んで――」

「何でもッ、喋る! だから、ここから出してくれ!

 こんなところ耐えられない……」


 彼女の心は昨日からとっくに折れていた。ただ、それを自分自身に確認させたかっただけだ。折れたことを認識させれば、人は容易には立ち上がれなくなる。ドラコさんは深い笑みを浮かべ、俺に枷をすべて外すように言った。手枷、足枷が解除され、彼女は床にへたり込んだ。たった一晩の拘束が、残酷なほど彼女から力を奪っていた。


「それでは、話を聞かせて貰おうか。

 いや、それよりも先に身を清めるか」




 そんなこんなで、一同は応接間へ。身を清めた苫屋さんは、いままでのそれとは比べ物にならないほど小奇麗になった。すらりと伸び、引き締まった手足が活動的なワンピースルックに映える。切り揃えられたショートカットの髪、切れ長の目と相まって健康的な魅力を見る者に与える。彼女の前には多種多様な料理が置かれている。


「……飯で私を懐柔しようって言うのか? そんな……」

「懐柔しようなどと。これは王国が転移者に与えるごく平均的なものだ。

 犯罪者はその限りではないが、我々は普通にこれを享受することが出来る。

 遠慮なく食べなさい」


 毒は入っていない、などとは言わなかった。言う必要もないだろうが。腹を空かした子供は、一瞬逡巡するがすぐにそれに手を付けた。そして目を見開く、どうだ美味いだろう。考えられる限り丁寧なテーブルマナーを駆使してそれを貪る。


(早速落ちた、って感じだな。っていうかチョロ過ぎるような……)


 もっとも、欠乏を味わったことがない人間などこの程度なのかもしれないが。俺だって腹いっぱい飯が食えるからエラルド領でゴロゴロしているのだし。テーブルいっぱいに置かれた料理はものの10分くらいで消えた。メイドが彼女の口元を拭う。


「気に入ってくれたようで何よりだ、苫屋くん」


 今更目の前に人がいることを思い出したのか、苫屋は赤面した。まあ、あれだけがっついているところをイケメンに見られたら恥ずかしくなる……のか?


「さて、それでは話を再開しよう。私の質問に答えてくれればそれでいい」

「僕からもお願いするよ、苫屋さん。包み隠さず、全部話してくれよ」

「手荒な真似はさせない。七天神教がそんなことを断じてさせるものか」


 2人とも真摯に彼女を説得した。俺は口を噤んでおくことにする、彼女の友達を殺した相手から何かを言われたら、意固地になる可能性だってある。


「……何が知りたい? 私だって、すべてを知っているわけじゃないんだ」

「キミからもたらされる情報が、我々の知ることを結びつけることもあるさ」


 だから何でも話しなさい、とドラコさんは優しく言った。


「まず、キミはいつここに来た? どこからここに来たんだい?」

「……1年前。家に帰ろうとしてたら、空が突然黒くなって。それで……」


 たどたどしく話し始めた。

 まずは牽制、ここまでは誰もが知っている話だ。


「1年間キミたちはどこで過ごした? たった1人で生きてはいけないはずだ」

「仲間たちと一緒に必死で生きた。この力があるって分かってからは楽だった。

 わざわざ獲物を探したり、危険な植物を採りに言ったりする必要がなくなった。

 私たちが転移したところの近くに、その……集落が、あったから。

 そこから奪って生活していた」


 基本的には中西さんと一緒か。

 力の使い方は己が富むために、当たり前だ。


「それから半年が過ぎた頃……あいつらが、私たちに接触を仕掛けて来た」

「あいつとは誰の事だろうか? それは『界渡りの連合(プレーンウォーカーズ)か?』」


 苫屋さんは顔をあげた。プレーンウォーカーズ、40人の転移者のうち両国に属さなかった者たちの集まり。俺も話しだけは聞いていたが。


「……そう。私たちは、プレーンウォーカーズに拾われた。

 あいつらは、自分たちで食べるものを生産して、着るものを作っていた。

 住居を立てて、そこで生活していた」

「それがどこかは分かるかい? どうすればそこに行くことが出来る?」

「分からない……気が付いたら、そこに移動していたから。本当に」


 テレポートの力か。

 誰にも場所を知らせずに生活しているというのか?


「……そこを統括している者の名は? 知っている者でいい」

「……八木沢(やぎさわ)六郎(ろくろう)


 八木沢六郎? あのクラス委員長の? 彼の優しげな、眼鏡越しの視線が俺の脳裏によみがえる。酷薄な転移者の印象とは一致しない。


「大変結構。集落の状態など、教えていただきたいことは多くある。

 しかし、今日はこれくらいでいいだろう。ご苦労だった、苫屋くん。

 ゆっくり休むといい」


 ドラコさんはメイドに指示を出し、彼女を部屋へと案内させた。


「最後に聞きたいことがあるんです。

 亮子は……水の子は、どうなりました?」

「死んだ。申し訳ないが、転移者相手では手加減は出来ない」


 電流が流れたかのように、彼女の体は震えた。そして、嗚咽を漏らした。メイドは彼女を促し、部屋を退出させた。嗚咽は涙へと変わり、そして叫びとなった。


「俺が殺したって言えばよかったのに」

「そうした欲しかったのかね、久留間くん?」

「そうすれば憎悪は俺だけに向く。

 この国がリスクを負うことはないはずだ」


 一国の王としては、国の安全を第一に考えるものなのではないだろうか? 転移者と言う爆弾の反感を買う理由などないはずだ。しかしドラコさんは首を振る。


「キミもまた守るべき国民の一人だ、久留間武彦くん」


 慈悲深き笑みを浮かべる彼の真意が、いまいち俺には分からなかった。


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