03-撃滅スイッチを切ることは出来るのか?
捕縛された苫屋さんは牢に移送された。牢なのに小奇麗で、気品があるようにさえ見えるからこの城は不思議だ。使われている床石が綺麗なのが原因だろうが。
「逃げようなどとは考えるな。
お前が持っていたものは既に回収済みだ」
そう言ってドラコさんは掌大の石を彼女の目の前に差し出した。十字架の印が刻まれた、本当にどこにでもありそうな石だ。彼はそれを床に叩きつけ、砕いた。
「知っていることを包み隠さず話してもらおう。
そうすれば手荒な真似はせん」
苫屋さんは頑丈な手枷と足枷を付けられ、その上で口枷を外された。あの奇妙な超音波を放つようなことはなかった。最初のアクションと絡めてみると、コウモリみたいな生物の特徴を備える加護だろうか? 地味だが強力なものだ。
「……仲間を売るような真似はしない。
何をしたって無意味だぞ」
彼女は臆さずドラコさんを睨んだ。小中一貫でソフトボールのシニアリーグに在籍し、高校でもそれを続けている。それだけに縄張り意識というか、仲間意識はかなり強い。群れのルールに従う彼女を切り崩すのは容易なことではないだろう。
「それならば粘り強く聞くだけだ。
さしあたり、一晩ここで頭を冷やすといい」
ぐっ、と苫屋さんは呻いた。如何に清潔とは言え、こんなところで一晩過ごすのはかなり心細いだろう。しかも枷を嵌められ、身動きさえも自由に出来ない状態で、だ。部活の罰で立たされ続けるのとはワケが違う。ご丁寧に口枷も嵌め直された。懇願するような目は加齢に無視され、無慈悲に鉄格子が閉じられる。
「明日まで誰も通すな。しかし、気配は絶やすな」
周りに誰もいない孤独感、そしてどこからか監視されているというストレスは精神をじわじわと蝕むだろう。さすがは国王、やることがえげつない。
「やられた側からの意見を言わせてもらうとな、あれは効く」
「ああ、最初は幽閉されたんだ。まあ、命あるだけマシだろ」
などと俺がいうのはあれか?
せめて安仁屋さんの冥福を祈るしかないな。
「一晩頭を冷やせば、彼女も冷静になってくれるだろう。
そして、我々と敵対することがどれほどバカバカしいか分かってくれる。
転移者を引き入れることが出来れば、我々の戦力は大きく拡充されるだろう。
そのためには、キミたちの協力が必要だ」
ドラコさんは歩きながら言った。戴冠式は一時中断されたが問題なく進行し、彼は名実ともに王になった。戴冠の日に転移者を打ち倒した王など、他にはいないだろう。鮮烈なデビューを飾った新たな王を、もはや敬わぬものなどいないそうだ。
「明日、彼女の尋問を改めて行う。キミたちもそこに同席してもらえるか?
なに、別にそう構える必要はない。キミたちがいるということ自体が大切だ」
要するに、苫屋さんの気持ちを解きほぐすのが目的と言うことか。
転移者が持つ弱点、それは精神的な弱さだ。文明も文化も向こうの世界より貧弱で、明日の寝床や食料さえも確保することが難しい世界。誰もが何かをしなければ生きていくことさえ許されない世界。そんな世界で暮らす人々とは、心の芯の強さが違うのだろう。
そして日本人、それも高校生と言うのはこの世界でもっとも心の弱い人間なのではないだろうか? ありとあらゆる文明を享受する人間たちなのだから。
「分かりました。シオンさんの許可も貰わなければなりませんが……」
「恐らく彼女も許可してくれるだろう。彼女は無駄な死を好まないからね」
それには同意する。俺が転移者を殺したと知った時、彼女は本気で怒った。その禁を破った形になる。会わせる顔がないとはこのことか、いや合わせないといけないんだけど。いまの俺に出来ることは、包み隠さずすべてを話すことだけだ。
途中でドラコさんと別れ、ハルとも別れた。シオンさんたちに怪我はないはずだ、戦いの混乱の最中、彼らは無事に逃げ出すことが出来たはずだから。
「失礼します、シオンさん。いま、お時間よろしいでしょうか?」
部屋にはシオンさんとレニア、それからファルナがいた。2人は俺のことを見て恐れるように震えたが、シオンさんは笑顔で俺のことを出迎えてくれた。
「……怪我がないようでよかったです。安心しました」
「こちらも安心しましたよ、久留間さん。
ここが襲われるとは思いませんでした」
彼女が笑顔だったのはそこまでだった。領主の顔へと戻る。
「何があったのか聞かせてください。
あなたが何をしたのか話してください」
了承の意を伝えて、2人の方を見た。またショッキングな話になるからだ。しかし予想に反して、2人は頑としてそこから動かなかった。ファルナが口を開く。
「……全部聞きます。あなたが、何を思って、何をしたのかを」
「あなたが、私たちを守ってくれたことは分かって……ます。だから」
信じてくれている? それとも、理解しようとしているのだろうか?
俺のことを。
ともかく決意は固いようだった。シオンさんも2人の意思を尊重し、ここに残るように言った。仕方がない。俺はダンスホールで起こったことを、包み隠さずすべて話した。
「……あなたが再び、殺人と言う罪を犯してしまったことは残念です」
すべてを聞いて、まずシオンさんはそう言った。
「あなたには多良木さんやシャドウハンターさんを殺さない理性がある。
かつて敵だったものを味方に迎え入れることが出来る度量がある。
それを何故かつての友に、少しでも分け与えてやることが出来ないのですか?
そう出来るだけの力があるでしょう」
「多良木たちと他の転移者たちとは違う。彼らとは話になる気がしない」
「それはあなたが、初めから対話を諦めているからではありませんか?
いえ、そういうのは適当ではないかもしれませんね。
あなたは会話を打ち切っている」
新解釈だ。そしてそうかもしれないと思えて来る。敵と判断したものと、基本的に対話を行うことはない。その切り替えは、俺の頭の中で行われる。
(うん、そうだな。確かにその通りだ。的を射ている……)
だからと言って今更変えられるものではないのかもしれないが。
「あなたは優しい人。
その優しさを少しでも、敵に分けてあげられませんか?」
「……努力はしてみます。しかし……」
生来根付いたものだ。
今更変えられるのか、分からなかった。
「それを認識することが始まりです。
あなたが変われるように祈っています」
シオンさんと、続けてレニアとファルナが頷いた。
期待には応えないと。
「転移者の方の件ですが、そちらは問題ありません。行ってください。
それがあなたが変わるきっかけとなってくれれば、尚の事いいのですけれど」
「さあ、どうでしょう。大人しくすべてを吐いてくれれば考えますけど」
取り敢えずは出来ることからだ。あいつが俺たちの望むことをしてくれるのならば、あいつの警戒ランクを1個くらい下げてもいい。そんなことを思った。




