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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第一章:異世界転移したのに何の力もない!? 当たり前だろ
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01-世界の基本を勉強しよう

 この世界のことを知るまで、原則一人で屋敷の外に出ることは出来ない。体のいい軟禁と言えなくもないが、無用なトラブルを避けるためにはそれがいいのかも知れない。


「ご指導役を務めさせていただくソーナ=エードと申します。

 拙いものですが、久留間様の一助になればと思いますのでよろしくお願いします」


 そう言ってメイド服の女性、ソーナは頭を下げた。癖の強い金髪にソバカスの残る頬。美人ではないが愛嬌のある顔立ちだ。自己紹介をしてから彼女は俺を見た。


「それから、久留間様。先日は兄をお助けいただきありがとうございます」

「兄、っていうと……ああっ、もしかしてあの御者さんのことですか?」

「アルフ=エードです。直接お礼が言いたいと言っておりましたよ」


 今度探してみるか。そんなことを考えていると扉が開き、そこから赤と青の子供が現れた。二人は俺たちの方を見てビクリと震え、ソーナの方を恐る恐る見た。


「奥様から聞いていると思いますが、今日から一緒にお勉強をする方々です」


 俺たちの方を見てぺこりと頭を下げ、二人は逃げるように席へと向かった。が、二人は俺の隣に座ることになった。不自然に右隣の席が空いていると思ったが、これか。


「えーっと……よ、よろしくね?」


 俺はぎこちなく笑みを作った。子供の相手っていうのはどうも苦手だ、親からは『子供に嫌われる才能がある』と驚かれた。向こうの世界でも無理だったものが、こちらの世界で出来るわけがない。二人の緊張は少しもほぐれなかった。


「ウフフ、お二人に気に入られたようですね。さあ、始めましょうか」


 ソーナは強引に話を打ち切って、授業を先へと進めた。意外と我が強いっていうか、なんて言うか。まあ、ゆくゆく打ち解けて行けばいいか。俺は授業に集中した。


 まずはこの世界の基本的なことから。いま俺たちがいるのはアルグラナ王国の南方にあるエラルド領。領土の三分の二以上を森林と山に覆われた僻地だ。山から吹き下ろす風があるので夏は涼しいが、冬は寒い。また水場も豊富であり、特に他国との国境が接する辺りには大河が流れており、天然の防御壁となっているらしい。

 おもな産業は狩猟と採集。また、伯爵領の一部では耕作と牧畜も行われている。具体的な農法とかもいろいろと話されたが、結構専門的で理解するには結構噛み砕いた説明を貰わなければならなかった。まあ『いい堆肥の製造方法』とか、『作物を植える適切なタイミング』とか、専門の農家さんが何年もかけて試行錯誤をしてきた結果なのだ。一日で理解出来るはずがない。


 それから重要なところと言えば、単位として度量衡を使っている、と言うことか。感覚としてはヤード・ポンド法に近いのではないだろうか? 成人男性の腕を基準にした長さの単位と、袋いっぱいの穀物を基準にした重さの単位。何とも想像しづらいが、長さはだいたい30cm、重さはだいたい1kgからそのちょっと下くらいなのだろう。

 貨幣は金、銀、銅からなり、庶民まで浸透しているのは銀まで。金は貴重で高価すぎるので一部貴族など以外には流通していない。特に農民の生活は、ほとんど銅貨で賄われる。だいたい500gほどの銅貨があれば一月暮らして行くには十分、と。1kgの銅貨が1gの銀と等価らしい。


「さて、ここまでが基本的なところですが……質問はありますか?」


 ソーナさんの教え方は丁寧で、疑問に思ったところは何度も説明してくれる。かなり噛み砕かれているので、実際分かりやすい。だいたい半日くらいかかったが、俺はここで教わったことを専門的なところ以外は理解した……と思う。


「……ソーナ、つまらないです……」

「そうだよ。こんなところ復習したって意味ないじゃない」


 ……なのだが、一度教わったところを聞いている身には、この丁寧さが仇になるのだろう。大変申し訳ないことに、二人の子供は相当にご立腹であった。


「まあまあ、レニア様、ファルナ様。

 今回は転移者の方向けの授業ですから……」

「……転移者の方って、こんなことも分からないんですか?」


 ごくごく悪意のない言い方だった。彼女にとってみれば、この世界のことが少しも分からない人間のことなど想像も出来ないのだろう。


「へー、こんなことも分からないなんて……バカなんじゃないの?」


 それに比べれば青髪の子供、ファルナの言葉は悪意の籠もったものだった。怒ってはいない、怒ってはいないが一言あってもいいだろう。と思ったところでベルが鳴った。


「あっ、そろそろお昼ですね。それでは午前中の授業はここまでにします」


 ソーナさんは教本を閉じた。二人の子供はつまらなそうにため息を吐き、誰よりも先に部屋から出て行った。数時間を一緒に過ごしたが、警戒は解けない。


 昨日と比べれば大分慎ましい昼食を取り、午後の授業が始まった。今回のテーマは、神学。この世界に住まう者の大半が信仰するという宗教、『七天神教』についてだった。日本にいると忘れそうになるが、信仰と言うものは多くの地域で重要な意味を持っているという。そしてそれは大抵、地域のルールやマナーに根差したものになっている。

 この世界には『陽光』と『宵闇』と呼ばれる神がおり、『宵闇』は人々を堕落させ、殺すため、ダークを放った。天に輝く七つの星――北斗七星のようなものか――は神の使徒として地上に顕現し、『宵闇』の放った魔王を滅ぼした。そして人間にダークと対抗する力、ダークの力を吸収する術を与え、天へと戻って行ったのだという。


 ただのおとぎ話、ではないのだろう。実際にダークと言う怪物は存在し、それを吸収する術も存在している。神話は一部、真実を語っているはずだ。


「ほとんどってことは他にも宗教があるってことですか?」


 俺の質問に、ソーナさんは言葉を詰まらせた。

 どうしたんだろう?


「『宵闇』を信仰する人も、中に入るんだよ。お兄ちゃん」


 暇に飽いたのか、レニアが口を開いた。

 ソーナさんは不安げな瞳を向ける。


「闇の中にこそ人の安息はある、闇と共に生きるべきだ。それが『宵闇教団』。

 でも闇はダークを生み、人を殺す。だから宵闇信仰者も同じように扱われる」


 この世界における邪教、ということか。


「でも、人間は無限の光の中じゃ干からびてしまうよね……」


 ファルナが暗く言った。この二人の口ぶりからは、『宵闇教団』への強い嫌悪などは感じない。対して、ソーナは顔を青くしている。二人の考えはこの世界ではメジャーなものではなく、また『宵闇教団』と同じく強い迫害に晒されるものなのだろう。

 七天神教に関する授業は、実際長かった。この世界の始まりからある、と自称する宗教団体の話なのだから、当たり前だろう。レニアとファルナの姉弟は欠伸をしながら授業を聞いた。それは一度倣ったことだからか、それとも……


 こうして、重苦しい雰囲気の中での授業は終わった。『次回はもっと実践的な話をしましょう』とソーナが言っていたが、果たしてどうなることか。

 考えながら歩いていると、カラカラとカートを引く音が聞こえた。メイドさんがティーセットを引いているのだ。夕飯の時にも見た。他のメイドに指示を出しているのを見たこともある、恐らくは長なのだろう。


「ご苦労様です、久留間様」

「あの、ですから様は止めていただけますでしょうか……」


 生真面目なメイド長は、主が止めたのに律儀に様をつけ続けている。


「ティーセット……お茶会でもあるんですか?」

「ハイ。お勉強の後は奥様とご一緒にお茶を楽しむのが通例です」


 なるほど、自宅でティーパーティとは貴族っぽい。


「しかし、今日は奥様はお忙しく同席することが出来ないのです」

「ありゃ……領主のお仕事は忙しいんですね。でも仕方がないのかな」

「その件で、奥様から久留間様に言伝がございます」


 それは、二人と一緒にいてくれと言う母親の願いだった。


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