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女神様には何も貰えなかったけど、自前のチートで頑張ります  作者: 小夏雅彦
第二章:世のため人のために力を使う? んなワケないじゃーん!
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03-領域線上での悶着

 ガタガタと揺れる馬車、まだ慣れない。しかも今回はきちんと舗装された道ではなく、ところどころ土の露出した田舎道を歩いているのだ。申し訳程度に石は敷いてあるので車輪が取られるようなことはないが、滅茶苦茶揺れる。気持ち悪い。


「なんでェ、情けなし! いまからそんなんじゃあ、先が思いやられるぞ!」

「か、勘弁して下さいよレオールさん。ただでさえ頭痛いのに……」


 俺はいまエラルド領の東端にある、とある村へと向かっている。広大な森林を切り開き作られたという農村は、今後エラルドにおける農地開発のモデルケースとなるという。事を推し進めて来たシオンさんが視察に向かい、現状を確認するのだという。俺とレオールさんはシオンさんと、それから2人の護衛のため駆り出された。


「やっぱり、護衛の数はそれほど確保出来ないんですね」

「自前の兵隊なんざ、用意出来るのは余程有力な貴族か商人くらいのもんよ。

 何をするにも金がかかる、俺たちがいるだけまだマシってもんだ」


 レオールさんは両手を組み、目を閉じ周辺に意識を集中させている。俺との会話をしながらも、敵の襲撃を警戒しているのだろう。レニアとファルナの姉弟はと言うと幌の間から顔を出し、移り変わる景色を楽しんでいた。そんな2人を愛おしげに見つめるシオンさんの姿は、厳しい領主のそれではなく優しい母親のものだった。

 俺はと言うと馬車の後部から頭を出し、吐き気と必死に戦っていた。




 バルオラを出てから3日、陽が天上へと昇る前に俺たちはシウス村へと辿り着いた。村は盆地の真ん中に建てられており、村の真ん中には水鏡めいた清涼な泉。湧き水ではなく、山から伸びる河川によって形成されたものだろう。ここからでもいくつもの畑や田畑が見て取れる。住民の数もかなり多く、下手をすればバルオラよりも多そうだ。


「アレが俺たちの目的地……シウス村か。思ってたより、デカいんだな」

「ああ、予定通り発展しているみたいだな。だが、何か様子がおかしい……」


 レオールさんは手でひさしを作り、村を見た。俺も目を凝らして村の様子を確認する。そこで、どこか統一感のない一角に気付いた。校外に建てられた茶色いものがいくつも立ち並んでいる。遠目からはテントか何かがいくつも建っているように見える。


「あれですか? 村の奥にある、あの……

 そう、簡易建造物みたいな、そんな」

「おかしいな、あんな物を作る予定はなかったはずだ。

 ですな、シオン様?」

「そうですね。ともかく、直接行ってみるしかないでしょう」


 シオンさんは御者であるアルフさんに指示を出し、村へと急がせた。傾斜はそれほど大きなものではなかったが、馬車は確かに加速していく。アルフさんは揺れる車体を制御するのに苦心し、俺はガタガタと揺れる中吐き気に耐えた。


 青々とした稲穂が風に揺れるのが目に入った頃には、馬車は完全に盆地の中へと入った。見事は田園だ、秋ごろには一面が黄金に染まるのだろう。農民たちは雑草の始末や水路の掃除と言った、田畑の整備を行っている。馬車に気付くと彼らは腰を上げ、軽く会釈した。その度シオンさんは手を振り、にこやかに微笑む。

 水鏡の前に辿り着くと、馬車が止まった。まずレオールさんと俺が降り、主役たるシオンさんと姉弟が降りるのを手伝う。そこに立派な身なりの老人が近付いて来た。


「お忙しい中、今日はご足労いただきありがとうございます。シオン様」

「しっかりとこの村を守っているようですね、ナルカさん」


 しばらくの間、シオンさんとナルカさんは事務的な話をした。それが終わると、シオンさんは険しい表情を作った。ナルカさんもそれに呼応する。


「奥にあるテント群はいったい? こちらの指示にも、報告にもありませんが」

「実際見ていただいた方がいいでしょう。申し訳ありませんが、こちらに」


 ナルカさんは踵を返し、水鏡を迂回してテント群へと近付いて行った。本来ならばこの辺りも開墾され、田畑か牧場になっていたのだろうが、いまは別のものがいる。

 すなわち、人、人、人。突如として現れたテント村には汚れ、傷ついた人々がたむろしていた。豊かな水源があるせいか、それとも年中を通してそれほど暑くないせいか。いまのところ顔をしかめるような臭いは発生していないが、ともかく普通ではない光景だ。


「これはいったい……!? この村の住民ではないみたいですけれど……」

「彼らはエラルドと領地を接する、ノースティング領から逃れて来た人々です。

 いま、かの国は大量発生したダークとの戦争状態にあるそうなのです」


 意思疎通が出来ないダークと戦争と言うのはどこかおかしな気がするが、ともかくそれに匹敵するような緊急事態なのだろう。よく見ると、テントにいるのは女子供が中心だ。男は戦争に駆り出されて行ったのだろう。あまりにも悲惨な光景。


「……かわいそう。お母様、どうか彼らを助けてあげられないでしょうか?」

「……うん。僕もそう思う。どうにかならないかな、母さん」


 レニアとファルナが悲しげな声で言った。それに対して、シオンさんはすぐに答えを返さない。子供と大人とでは見るものが違う、特にこんな世界では。


「アルグラナ王国に住まう人を救った、あなたの心意気は見事です。ナルカ。

 ですが、我々の判断を仰がず勝手な行動をしたのはいただけません」

「もちろんでございます。どんな処罰であろうと、甘んじて受ける所存です」


 レニアとファルナは悲し気な表情で母親を見た。ただ、こればっかりはどうにもならないだろう。指揮系統は明確にしておかなければならないし、勝手な行動の代償と言うのは往々にして大きくなるものだ。もしかしたらこの先、ノースティングとやらからの、あるいは他の領力も流民がこちらに流入してくるかもしれないだろう。

 流民であろうが何だろうが、生きている限り金は必要だし、飯も必要だ。慈善事業でやってはいけない。しかも次々増えてくるかもしれないというおまけ付きだ。


「何らかの対策は取らなければいけないでしょう。処罰はその後です」

「かしこまりました。詳しい事情はこれからご説明いたします、それでは……」

「あなたが……あなたが、領主様でございますか?」


 テント村にたむろしていた一人の女性が立ち上がり、シオンさんに向けてよろよろと歩き出した。薄汚れた布をローブのように纏い、栄養の欠乏が見て取れるこけた頬が哀れを誘う。レオールさんは反射的に彼女を守るため前に立つが、シオンさんが制する。


「私がエラルド領領主、シオン=グラナ=エラルドである」


 はっきりとした、威厳に満ちた声だった。

 女性はたじろぐが、しかし。


「どうか、お助け下さい。

 我々は故郷から焼け出され、着の身着のままこの地に逃れて来ました。

 お願いします、どうか……どうか、お助け下さい」

「最善は尽くしましょう。ですがあなたの願いを完全に叶えることは出来ない」


 きっぱりと言い切った。無限に助けることはない、と。彼女は嗚咽を漏らした。ここできっぱり言っておかないと、後々面倒なことになると判断したのだろう。

 シオンさんは踵を返し、ナルカさんに促され移動しようとした。その時。


「WWWWWWRROOOOOOO!」


 天地を揺るがす恐ろしい獣の咆哮が辺りに響いた。それと同じくらい大きな悲鳴の大合唱がテントから上がる。いったい何が、俺はテント村の更に奥を見た。

 切り立った岩肌が見える。そこに何匹かの獣が立っている、かなり遠くにいるはずなのに大きく見える。実際にはどれほどか、少なくとも3mよりも小さいということはあるまい。何より異常だったのが、その獣が光り輝いて見えたことだ。


「なんだあ、ありゃ。ダークじゃねえよな?」

「くっ……来る! あいつらが、来るッ! ヒィーッ!」


 テントの村の住民たちは駆け出した。

 光り輝く獣は獰猛に口を歪め、跳んだ。

 人々を殺すために。


 俺とレオールさんは、村を守るために駆け出した。


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